神奈川県横須賀市が地方自治体で初めてChatGPTの活用を開始したと、多くのメディアが報じた。ChatGPTなるものを一度も利用したことがない記者は、下案を作成し、職員が校正を行ったという市のプレス・リリースを読んだ。自分の拙い記事を棚上げにして、AIの文章の粗を探してやろうという魂胆が丸見えなのは承知のうえだ。
文章は651文字。A41枚に収まる分量で、誤字脱字など一つもない(はず)。文末を「職員は、人にしかできない、人だからこそできる仕事に注力することで、市民の幸福を実現する取り組みを、進めてまいります」と締めくくっているのには感心した。頭の悪い人間をからかうのか慮るのか、あるいは両方の意図が込められているとすれば、これは脅威だ。〝人にしかできないものなどない〟と言われているようで、背筋が寒くなった。
いったい、人間の手はどれくらい加わっているのか。市の担当者に聞いた。職員の指示を受け、ものの数十秒で下案を作成したというから、ChatGPTの能力の高さを率直に認めざるを得ない。ただ、前述した文末は職員が「心、思いを込めるため」(担当者)加筆したようで、AIが忖度して作成した文章ではないことも分かった。
記者はこれに少し安堵したのだが、重箱の隅をつつくように文章をチェックした。文法、用法などの誤りがいくつか見つかった。以下に紹介する。
①主語がない
書き出しは「横須賀市役所において」となっているが、「…おいて」は場所を示す連語だから主語ではない。主語は言うまでもなく「横須賀市」だ。主語を省いても意味は通じるが、行政文書だから、ここはきちんと「横須賀市は、市役所内において…」とすべきだし、そもそも「おいて」なる文言は古臭い。記者はほとんど使わない。
②5W1Hが欠けている
リリースを発表したのは4月18日だが、肝心のChatGPTをいつから活用するのかの記述がない。どこかに「4月20日から」を入れるべきだ。
③…たり…たりの用法が変
「AIと会話をしながら、質問に答えたり、文章を作ったり、言葉を翻訳したり、文章を要約することができます」という文章も変だ。会話をしながら質問に答えるのはAIだろうということは分かるが、ここは「質問を入力すると、ChatGPTは質問に答えたり…」とすべきだ。記者もそうだが、ChatGPTが何者か知らない市民だっているはずだ。本当に会話が交わせ、質問もされるのではないかと誤解する。
また、一つの文章に「たり」が3つもあり、しかも「言葉を翻訳したり、文章を要約する」の用法も間違っている。「たり」を用いるなら「言葉を翻訳したり、文章を要約したりする」とするのが正解。
④「自治体初!」の根拠が示されていない
ChatGPTを採用するのは横須賀市が全国の自治体で初めてとタイトルにあるが、その根拠は本文には示されていない。全国の自治体は2,000近くある。裏付けは取れているのだろうか。どうして調べたのか。OpenAI社が把握しているのだろうか。情報をリークすることに問題はないのか。
このほか、主体は市なのかChatGPTなのか分からない部分もあるが、指摘はこれくらいにしておく。ChatGPTは学習能力もあるようだから、進化したらわれわれメディア記者の仕事がなくなる時代がやってくるかもしれない。以下、横須賀市の4月18日付プレス・リリース。
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令和 5 年(2023 年)4 月 18 日
報道機関各位
横須賀市デジタル・ガバメント推進担当部長
自治体初!横須賀市役所で ChatGPT の全庁的な活用実証を開始
横須賀市役所において、「ChatGPT」の全庁的な活用実証を行います。
ChatGPTは、OpenAI社によって開発された、自然言語処理技術を活用し人工知能が自然な会話を行うことができるシステムです。AIと会話をしながら、質問に答えたり、文章を作ったり、言葉を翻訳したり、文章を要約することができます。
横須賀市では、(株)トラストバンクが提供する自治体専用ビジネスチャットツール「LoGoチャット」にChatGPTのAPI機能を連携させることにより、すべての職員が、普段業務で使用しているチャットツールにおいて、文章作成、文章の要約、誤字脱字のチェック、またアイデア創出などに活用できるようにします。これにより業務の効率化が見込まれるとともに、広く職員が活用していくことで、さまざまなユースケースを生み出していくことを期待しています。
なお、横須賀市では、ChatGPTへの入力情報が二次利用されない方式で使用し、また機密情報や個人情報は取り扱わない運用とし、情報の安全な取扱いを徹底します。
横須賀市では、「スマートシティ推進方針」、「横須賀市デジタル・ガバメント推進方針」に基づいて積極的にテクノロジーを活用し、様々な業務の効率的、効果的な実施を図っています。それにより、職員は、人にしかできない、人だからこそできる仕事に注力することで、市民の幸福を実現する取り組みを、進めてまいります。
なお、本リリースはChatGPTで下案を作成し、職員が校正を行いました。