大和ハウス工業は5月15日、2023年3月期決算発表に伴うメディア向けスモールミーティングを開催。冒頭、芳井敬一社長は「2023年3月期は経済活動が正常化し、受注環境の改善、ホテル運営事業の回復、アメリカ、中国を中心とする海外事業の進展により、事業施設を除くセグメントで増益を達成することができた。第7次中期経営計画の初年度としては計画を上回る順調なスタートが切れた」と語り、約1時間にわたり記者団の質問に答えた。
当期の売上高は4兆9,081億円(前期比10.6%増)、退職給付債務の減少額812億円と年金資産の運用益159億円の数理差異966億円を含めた営業利益は4,653億円(同21.4%増)、経常利益は4,560億円(同21.2%増)、純利益は3,083億円(同36.9%増)となった。売上高、営業利益は過去最高で、開発物件売却の前期反動減と資材価格高騰の影響を受けた事業施設事業を除くセグメントで増益を達成した。
セグメント別では、戸建住宅事業は売上高9,100億円(前期比15.9%増)、営業利益466億円(同21.6%増)。国内戸建住宅は減収減益となったが、海外住宅はアメリカを中心に好調で売上高4,638億円(同45.9%増)、営業利益は369億円(同57.8%増)となった。
賃貸住宅事業は売上高1兆1,494億円(前期比9.2%増)、営業利益1,097億円(同13.5%増)。営業利益率は9.5%(同0.3ポイント増)、入居率は97.8%(同0.4ポイント減)と高い水準を維持している。
マンション事業は売上高4,843億円(前期比27.5%増)、営業利益408億円(前
期比319.2%増)。営業利益率は8.4%(同5.8ポイント増)と改善、受注済みを除く完成在庫は638戸(同141戸減)。
商業施設事業は売上高1兆921億円(前期比5.2%増)、営業利益1,329億円(同7.1%増)。ダイワロイネットホテルの2023年1月から3月までの平均稼働率は85.1%へ改善した。
事業施設事業は売上高1兆1,302億円(前期比4.7%増)、営業利益996億円(同20.6%減)。開発物件売却は計画を上回ったが、前期からの反動減と資材価格高騰に対する価格転嫁が想定以上に進まず減益となった。
環境エネルギー事業は売上高1,886億円(前期比17.1%増)、営業利益62億円(同19.3%増)。
その他では、響灘火力発電所の経営権を取得、今年1月にグループ会社とした。現在は石炭とバイオマス燃料(木質ペレット)の混焼による発電を行っているが、バイオマス燃料を100%利用したバイオマス専焼発電所へ転換し、2026年4月の運転開始を目指す。
2024年3月期は、売上高4兆9,200億円(前期比0.2%増)、営業利益3,800億円(同18.3%減、数理差異除く)、経常利益3,540億円(同22.4%減)、純利益2,500億円(同18.9減)を見込む。
当期年間配当金は前期より4円増配の130円の予定で、2024年3月期は前期比5円増配の135円を予定している。
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芳井社長に聞きたかったことがあった。持家の着工減と同社の国内戸建住宅に関することだ。
持家の着工戸数は16か月連続で減少しており、2022年は暦年で253,287戸(前年比11.3%減)、年度で248,132戸(同11.8%減)と2けた減となった。一方、分譲住宅は暦年で255,487戸(同4.7%増)、年度で259,549戸(同4.5%増)となり、暦年、年度とも持家を16年ぶりに上回った。
こうした市場環境を反映してか、同社の国内戸建住宅の売上高は4,462億円(前期比0.1%減)、営業利益は97億円(同34.9%減)、利益率は2.2%(同1.0ポイント減)となった。
聞きたかったのは、どうして戸建住宅の落ち込みが激しいのか、コロナ禍と関連はあるのかないのか、2024年3月期売上高は4,738億円(前期比6.2%増)、営業利益は164億円(同69.1%増)、利益率は3.5%(同1.3ポイント増)を見込んでいるように、落ち込みは一過性のものかどうかだった。
小生は、持家離れは今後も続くのではないかと悲観的な見方をしている。消費者の持家志向に変化はないが、かつての賃貸⇒マンション⇒戸建ての住宅双六は死語となり、どちらかと言えば郊外の戸建てより利便性の高い、維持・管理も楽なマンションへの志向が強まり、官民連携のスマートシティの取り組みが加速し、さらにまた、分譲戸建て市場の4割を占める、価格競争力が圧倒的に強い飯田グループ、オープンハウスグループ、ケイアイスター不動産の建売御三家の攻勢も持家市場に影響を及ぼしそうで、これらは戸建て市場にとっては向かい風になるのではないかと考えている。
しかし、質問は途中で断念した。記者団と芳井社長のQ&Aは聞き取れなかった部分が多く、質問してもどのような回答が得られるか分からなければ質問する意味がないと判断したからだ。
スモールミーティングはオンラインでも行われたので、同社広報に頼んで録画を送ってもらった。Q&Aの音声はとても鮮明だった。聞き取れなかったのは小生の耳が遠くなったからだ。
ここで、Q&Aの一つひとつを紹介する余裕はないが、芳井社長は「戸建ての現在の利益率はいいとは考えていない」「ZEHは義務。戸建てもマンションも集合住宅も100%を目指す」「カーボンニュートラルは正対しないといけない。響灘火力発電所は利益が薄くてもやるべき」「分譲を増やしていくが、原材料高を価格に転嫁できるかどうかは価格動向を見極める必要がある」などと語った。
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芳井社長はスモールミーティングの最後に「お願いしたいことがある」と切り出し、「数理計算上の差異(営業利益)の発生については以前にお知らせしており、12日の決算発表のときにも今期の営業利益には数理差異を含まないことをきちんと説明している。数理差異を除いた額が当社の実力だと考えているからです。にもかかわらず『20%減益』などと書かれ、株価はあっという間に+65円からマイナスに転じ、今日(15日)は100円高。株価の乱高下はこれだけではないでしようが、(メディアの)伝え方はとても大事なこと。きちんと伝えていただきたい」と語り、一部のメディアが今期の営業利益が20%減と報道したことに苦言を呈した。
同社は4月13日付リリース「退職給付に関する割引率見直しに伴う数理計算上の差異(営業利益)の発生について」で、「数理差異も含めた広義の退職給付費用は長期的には人件費の一部を構成していること、将来の営業費用が増加することから今回の数理差異を営業費用の減額として表示することが通算の営業損益を適切に表示することなどから、営業利益(営業費用の減額)として表示することが適切との判断に至りました。以上を踏まえ、今回発生した数理差異を一括処理の上、202 3年3月期の営業利益(営業費用の減額)として処理することといたしました」とし、当期決算で退職給付債務の減少額812億円と年金資産の運用益159億円の数理差異966億円を営業利益として一括処理している。
芳井社長は「こんなことは言うべきじゃないかもしれないが」とも語ったが、小生は正解だと思う。言いたいことを堂々と話すべきだ。それがメディアとの垣根を縮めることに繋がる。積水ハウスの元社長・会長の和田勇氏は関西弁丸出しで報道陣を批判した。芳井社長は怒ると絶滅危惧にある関西弁が飛び出すのか。