「日比谷公園再生整備計画」(都のホームページから)
都議会議員会派「グリーンな東京」(代表:漢人あきこ氏)は5月17日、「日比谷公園再生整備計画」勉強会を開催し、日比谷公園の管理所長を務めた髙橋裕一氏、日本庭園協会会長の高橋康夫氏、街路樹を守る会代表・愛みち子氏、神田警察通りのイチョウの伐採をめぐる住民訴訟で住民側の代理人を務める弁護士の山下幸夫氏がそれぞれの立場から、今秋に開始される公園整備工事で大量の樹木が伐採されることに異議を唱え、広く都民に訴えることを参加者に呼びかけた。勉強会場には定員いっぱいの30名が対面参加したほか、ZOOM参加者も多数いた。
勉強会で髙橋裕一氏は、「『日比谷公園再生整備計画』によると、少なくとも450本以上~1000本の樹木が伐採される可能性が高い。2021年2~3月には『にれのき広場』のケヤキなど23本が伐採された。都は再生整備計画の実施は手順を踏んだとしているが、多くの一般市民には知らされていない。一般市民からは現在の日比谷公園の景観に不満だという声を聴かない。逆にこのままにしてほしいという声が強い」と訴えた。
愛みち子氏は「街路樹・公園木・私有地の樹木、全て伐採の危機にある。公園審議会の審議委員は樹木を守れるのか。公開空地の樹木も設置時はチェックが入るが、その後多くはノーチェックで管理が悪く、不健全な樹木が多い」とみる。都市公園法11条では、①都市公園を損傷し、又は汚損すること②竹木を伐採し、または植物を採取することなどを禁止しているのに、「管理者(都)による伐採や破壊は許されるのか」と問題提起した。
高橋康夫氏は、日比谷公園を設計し、日本庭園協会初代会長である本多静六の「首賭けイチョウ」のエピソードを交えながら、「山手公園、平和記念公園、哲学堂公園などのように日比谷公園を国指定の名勝にすべき。明治神宮外苑、京都府立大学敷地&植物園アリーナ計画など、最近の開発はまるで同時多発テロのようだ、目に余るものがある」と訴えた。
弁護士の山下幸夫氏は、3つの樹木の保護に関わる裁判に、住民の立場で係わっている。千代田区・神田警察通りの案件では、イチョウの街路樹を伐採するのは、街づくりに参加する住民の権利・利益を損なうものだとし、一般論として認定されている「景観利益」を個別案件で立証するのは困難が伴うものの、行政側と対等の立場で争うことや、問題提起することに意義があると話した。他に、相模原の相原高校にあったクスノキの大木を守る裁判、神宮外苑の多数の樹木を守る裁判に取り組んでいる。現状、樹木を守る法律がなく、環境上の権利を主張しても決して強力ではないが、こうして繰り返し訴えることで変わっていくことを期待すると話した。
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日比谷公園の再生整備計画の経緯について少し振り返ってみよう。
東京都は2017年10月、学識経験者などで構成する「日比谷公園グランドデザイン検討会(委員長:進士五十八福井県立大学長)を設置し、翌年の2018年12月、「日比谷公園グランドデザイン〜5つの提言〜」をまとめ公表した。
5つの提言とは①誰もが迎え入れられ、心地よく過ごせる上質な公園②まちと連携し、相乗的に新たな魅力を生み出す公園③歴史的、文化的価値を顕在化させた特別な公園④緑とオープンスペースのネットワーク形成の核となる公園⑤多様な主体と連携し、利用者の視点で運営する公園-というものだ。
この提言を受け都は令和元年10月8日、東京都公園審議会(会長:髙梨雅明公園財団副理事長、日本公園緑地協会副会長)に諮問。令和3年3月25日の答申を経て、同年7月、都は「都立日比谷公園再生整備計画」を策定し、開園130周年を迎える令和15年(2033年)を目標に公園全体の再生に取り組んでいくとしている。
整備計画では、日比谷公園の主な課題として①利便性が高い立地条件にあるが、広幅員道路や地下道からの階段等のバリアが存在し、まちと公園のアクセシビリティが良くない②皇居外苑等との回遊性や景観のつながりが弱い。樹木や施設が視線を遮って園内外の視認性が低い③日比谷公会堂から小音楽堂までのビスタ景観などを活かした空間利用(イベント利用等)ができていない④日比谷にまつわる文化・歴史資源の分類や整理がなされてこなかったことなどを上げ、再生整備では「のこす」「かえる」「つくる」3つの取り組みを進めていくとしている。
計画の策定に当たっては令和2年12月8日~令和3年1月7日にかけて都民から意見を募集。テニスコートの存続を求める声62件など175件(うち1通は181名の署名付き、91件はHIROBAsに関するもの)の意見が寄せられている。主なものを以下に紹介する。
「再生整備計画の考え方に大きく賛同。特に『時』『人』『空間』をつなぐ新たな公園の将来像は、周辺のまちと公園がオープンな空間の創出と、ワーカブルなネットワークにより、相乗的な魅力や賑わいの創出、Well-beingなどの新たな価値観をも具現化していくことに強く共感する」
「歴史の風雪に耐えた老木の保護をお願いしたい。明るくして防犯のためにも見通しを良くすることは理解できるが、伐採は急がず、慎重な検討と都民に意見を聞くような進め方を希望する」
「意欲的な整備計画の方針で、賑わいの創出は必要だが、特別な公園として現在の環境を維持、拡大することこそ第一であり、整備は慎重、最低限、漸進的を基本としてもらいたい」
樹木の保存について都は「既存の樹木については、樹勢や樹形などの健全度を把握し、計画内容の実現に向けた植栽計画を策定し、整備や維持管理を行います。その際、樹木の現状や計画内容に応じ、移植や剪定、不健全木などの更新や落葉樹の植栽など適切に対応してまいります」としている。
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「日比谷公園の歴史と文化をこよなく愛する会」の髙橋裕一氏が都の公表資料を基に独自に作成したチラシによると、伐採される樹木は、日比谷通りに面している163本(街路樹含む)、にれのき広場の23本(伐採済み)、芝庭広場(第二花壇)に面している園路の72本、大芝生広場の177本など435本にのぼり、このほか大音楽堂の建て替え、第一花壇の広場化などによりトータルで1,000本近くが伐採される可能性を指摘している。
小生はこの伐採本数の多さにびっくりした。日比谷公園内には3,000本を超える中高木が植えられていると言われている。明治36年の公園開設当初から植えられているものも少なくないはずだから樹齢は120年超だ。そのうちの3分の1近くが伐採されるとなると一大事だ。都はまずこの部分を都民に公表すべきだ。
都にも確認した。都は、工期を分けて行うので伐採する本数は分からないとし、今秋に工事を着工する第二花壇については近々伐採する樹木の本数を公表するとしている。
愛氏の「公園審議会の審議委員は樹木を守れるのか」「管理者(都)による伐採や破壊は許されるのか」との問いかけは正鵠を射ていると小生も思う。
都市公園法17条の2には「協議会において協議が調つた事項については、協議会の構成員(都)は、その協議の結果を尊重しなければならない」と明記されている。
「尊重」とは結果として「聞き置く」「聞き流す」こととなっても違法性は問われないのか。そうであるならば、全国にどれほどの協議会が存在するか知らないが(多分数百)、その存在理由が問われるし、審議委員の声はどうなるのだろう。
令和2年度の公園審議会の議事録を読んだ。「ニューヨークのセントラルパークとかにも劣らない公園にしたいと思います」という声があったが、具体的に樹木をどれほど伐採するかという重要な部分については一言も触れられていない。
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前段で紹介した進士氏は、2012年12月、「第59回NSRI都市・環境フォーラム」で「日比谷公園―110 年の公園生活史とパーク・マネジメント」と題する講演を行っており、次のように述べている。いくつか紹介する。
「私は時々思うんです。審議会というのは意外と役に立っているのではないか。原案にない公園ができるんです。審議会メンバーはそれを意識しないとダメなんです。私は事務局のシナリオを読むだけということはしませんよ」
「公園とは何か。『Parks for People』公園は人間のための空間です」
「私は、歴史も研究を基調にしてきましたので、日比谷公園の歴史性の重さを強調しています。だからといって決してすべてにアンタッチャブルという考えではないんです。現代都市の中で生きている重要な経済空間、都民共有の財産としてそれが適切に生かされなければならないとも思っています。重要なことは、一方的に建築や開発に侵されていくのではなくて、むしろ堂々と日比谷公園の歴史的公園都市開発で強さを総合することで新しい環境を創造すべきだと思っています」
「先ほど、(日比谷公園は)幕の内弁当だと申しました。さまざまなニーズに応える空間が要る。オープンな空間、クローズな空間。明るい空間、暗い空間。ハードあり、ソフトあり。水のある場所もあれば、歴史のある場所もある。それが揃っているのが日比谷公園です」
「日比谷公園のオーセンティシティ。日比谷の構造、例えば大園路による地割りや、それぞれの空間の持つ特質、あるいは樹木そのものが110年たって立派に成長している。これは1本でも切らないようにしなければいけません」
進士氏は以上のように、公園の歴史、樹木の重要性、開発優位の否定、をはっきりと発言している。日比谷公園の現計画との整合性はあるのか。
進士氏は7月8日10:00~12:00に日比谷公園で行われる東京都公園協会主催の「緑と水のカレッジ講座」で本多静六について講義されるようだ。公園内の樹木が大量に伐採されることについてどのように話されるのだろうか。