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2023/05/28(日) 09:31

コロナで減った住宅選好の幅 オーダー志向層を蚕食する〝建売り御三家〟

投稿者:  牧田司

住宅・不動産企業の20233月期決算では過去最高の売上高、利益を計上する企業が続出し、株価は実に33年ぶりに最高値を更新した。新型コロナ感染症は、58日からインフルエンザ、淋病、梅毒と同じ「5類感染症」に移行し、マスクを外す人が増えているなど、街は明るさを取り戻しつつある(淋病、梅毒は死語かと思っていたら爆発的に増加しているという)。そんな中で、のどに魚の小骨が刺さったように気になるのは、住宅着工の持家が15か月連続して前年同月比で減少していることだ。復活するのか減り続けるのか、考えてみた。

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2022年の住宅着工総数は859,529戸で、構造別では木造が477,883戸(55.6%)、鉄骨鉄筋・鉄筋・鉄骨造が380,453戸(44.3%)。利用関係別では持家が253,287戸(29.5%)、貸家が345,080戸(40.1%)、分譲住宅が255,487戸(29.7%)。前年比では貸家が7.4%、分譲住宅が4.7%増加した一方で、持家は11.3%の2ケタ減少となり、16年ぶりに分譲住宅に抜かれた。ツーバイフォー工法による着工戸数は89,562戸(前年比5.1%減)、坪当たりの工事予定額は59.4万円(同増減なし)。プレハブ工法は106,680戸(同0.8%減)で、工事予定額は89.1万円(同3.8%増)となっている。

それぞれの木造戸数(比率)をみると、持家は221,324戸(87.4%)、貸家は112,260戸(32.5%)、分譲住宅が142,294戸(55.7%)となっている。

これを工事予定額(坪単価)でみると、全体では69.3万円で、前年の66.0万円から5.0%増加している。利用関係別の単価は、持家が69.3万円(前年比5.0%増)、貸家が75.9万円(同4.5%増)、分譲住宅が62.7万円(同増減なし)となっている。

分譲住宅を構造別・建て方別でみると、一戸建は52.8万円(同6.7%増)で、うち木造は49.5万円(同増減なし)、鉄骨造は92.4万円(同7.7%増)となっており、鉄筋コンクリート造共同住宅は89.1万円(同増減なし)だ。

分譲一戸建の単価を都道府県に見ると、もっとも高いのは島根県の59.4万円で、長野県、鳥取県、長崎県の56.1万円が続く。もっとも安いのは福島県の42.9万円で、他は46.2万円から52.8万円に収まっている。

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 これらの数値を眺めるといろいろなことが分かってくる。

 持家は前年比2ケタ減で、今年に入っても減少に歯止めがきかず3月まで15か月連続で減少となると、コロナ禍と関連づけざるを得ない。

 分譲戸建て市場はコロナ禍で意想外に沸き立ち、いまはその反動で勢いは減速気味だが、新築マンションや中古住宅市場動向からも、持家志向に大きな変化が起きているとは考えづらい。

 持家志向に変化はないものの、いまの経済社会状況を反映して住宅選好が多様化しているということは間違いない。持家か賃貸か、新築か中古か、マンションか一戸建てか、その選択の幅は広がっている-というよりは、富める者と貧しき者の格差が拡大し、二極化がどんどん進行しているとも読める。貧しき者はむしろ選択の余地が狭まっているのではないかと思わざるを得ない。

 富める者はどうか。分譲事業が絶好調の三井不動産の20233月期のマンション計上戸数3,196戸の平均価格は7,373万円(前期比931万円増)で、分譲戸建て420戸の平均価格は8,308万円(同717万円増)だ。完成在庫は戸建てはゼロで、マンションの55戸のみ。積水ハウスの20231月期の戸建(請負)の売上棟数は7,842戸(前期比6.1%減)となったが、1棟単価は4,619万円(前期比8.3%増)、坪単価は111万円(同6.4%増)で、戸建事業売上高は前期とほぼ同じ3,524億円を維持した。

 一方、全国491か所に営業拠点を置く〝分譲戸建ての雄〟飯田グループホールディングスはどうか。20233月期の売上高は14,397億円(前期比3.8%増)で、主力の戸建分譲住宅の計上戸数は40,826戸(同1.7%減)、1戸当たり単価は土地価格を含めて2,967万円(同2.7%増)だ。計上戸数は住宅着工戸数に換算するとシェアは27.9%を占め、沖縄県の55.4%を筆頭に東北は44.8%、北関東は34.9%、東海は32.2%、首都圏は30.5%に達するなど独走している。

 飯田グループの全国展開と関係があるかどうかは不明だが、分譲戸建ての単価がもっとも高い島根県には同社の営業所はなく、単価が次位の鳥取県と長崎県にはそれぞれ1か所、長野県は4か所だ。

 このほか、売上高1兆円超を目指すオープンハウスの20229月期の建売住宅計上戸数は5,907戸で、ケイアイスター不動産の20233月期の戸建ての計上戸数は6,226棟(土地販売含む)だ。この3社だけで戸数は約5.3万戸、市場の約4割を占める。

 前段で紹介したように、このところの用地の上昇、建築費・資材高で坪単価は全体で5.0%上昇しているにもかかわらず、分譲戸建てのみは前年と変わらない。圧倒的な市場占有率と価格競争力を持つ3社に対抗するには、アッパーミドル・富裕層にターゲットを絞るか、さらに価格を下げるほかなく、価格下げ圧力が強まっているからだと読める。記者は持家志向の相当数は価格が安い分譲戸建てに流れているのではないかと考えている。木造と鉄骨の単価差は倍近い。オーダーメイドかレディメイドか、選択できる人はどれだけいるのか。

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 上記のように、あれやこれや消費者の価値観・住宅取得意向について考えていたら、カーディフ生命が昨年12月に実施した「第4回 生活価値観・住まいに関する意識調査」がネットでヒットした。全国2,000人を対象に経済・社会活動の回復と、円安や物価上昇による将来不安の高まりが混在する中での人々の意識、行動、価値観の変化に焦点を当てたものだ。

 これによると、「老後資金が不安」は8割超で、主な理由として「年金額の減少」、「将来の物価上昇」、「医療費負担の増大」などを挙げている。

 住みたい家は「戸建て(持ち家)」が6割で、希望購入価格は平均2,846万円となった。「都心派」は49%、「郊外派」は51%と拮抗している。30代と40代では「郊外派」がそれぞれ55%、57%と優勢で、30代は「安価で広い住宅を購入できるから」(37%)、40代は「時間に縛られず、のんびりした生活を送りたいから」(31%)が郊外を選ぶ最大の理由としている。

 購入希望価格は飯田グループの分譲価格とほぼ一致する。これは偶然か。マンションなら土地代がただでも坪150万円以下はありえず、20坪で3,000万円だ。価格競争力のある〝建売り御三家〟はまだまだ伸びるということか。蚕食という言葉がぴったりだ。

 

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