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2023/06/24(土) 15:03

読みだすと止まらない あらゆる関係者にお勧め 野村不&埼大「推しの木図鑑」

投稿者:  牧田司

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授業風景(流山市立北小学校6年生)

野村不動産と埼玉大学が、持続可能な街づくりの取り組みとして共同開発した、小学生向け授業プログラムとそれをもとに行った授業の成果を1冊の本にまとめた「推しの木図鑑」のデータを同社から送ってもらって読んだ。子どもの想像力、発想力の豊かさが溢れており、読みだしたら止まらない。下手な小説よりずっと面白い。お父さんやお母さん、地域の人たちだけでなく、文科省、都市公園や道路などの行政担当者も読んでいただきたい。

授業プログラムは、同大学教育学部生活創造講座技術分野・浅田茂裕教授の指導のもと、同大学の教育学部1年生が開発したもので、流山市立北小学校6年生3クラス122名を対象にプログラムに基づき授業を実施した。同社は20227月から約半年間支援してきた。

「推しの木図鑑」は、A4150ページにわたるもので、それぞれ生徒の「推しの木」を1ページに収め、写真付きの「推しの木Profile」として紹介している。

「推しの木Profile」には「名称」のほか「レア度」、「発見者」、「出現場所」、「年齢(推定)」、「性格(推定)」、「5角形の特徴レーダーチャート(評価項目は自由記載)」、「3つの推しポイント」、「10年後への期待、「推しの木からのひと言」が手書き文字で掲載されている。いくつかを紹介する。( )は記者の感想。

まず、名称「弱そうで強い、ウッディくん」。発見者は「バズ・ライトイヤー」、出現場所は「庭」、年齢は19才、性格は「おだやか」。3つの推しポイントは「①弱そうで強いところ②葉がチクチクする③色がきれい」、10年後への期待は「この木1本で地球を支えられるくらい酸素を出してほしい。身長8m、体重660㎏」、推しの木のひと言は「大きくなっても切らないでね。木登りOK。早くお酒を飲みたい」だ。

(写真を見ても木の名前は分からないが、庭木としてよく植えられる木だ。年齢は19才とあるが、発見者は生まれていないはずなので、築後19年が経過しているのかもしれない。推しの木は「早く酒を飲みたい」と言っているが、ひょっとしたら、酒を飲みたいのは木ではなく発見者自身ではないか。記者は小学生のころから酒を飲んでいた。お父さん、飲ませてやって)

発見者「すぎやなんぼー」の名称「イケメンな、伝説の神樹ザ broly」。出現場所は「公園」、性格は「残虐無慈悲」。推しの木のひと言は「キハハハハハ…。お前たちが戦う意思を見せなければ、オレはこの星を破壊し尽くすだけだ!」と警告を発している。(日和見の記者の胸にぐさりと突き刺さった)

発見者「自身」の名称「木木樹木木」。出現場所は「この広い世界の中」、年齢は60才前後、性格は「コミュカおばけ」。3つのポイントは「①夏にさくきれいな花②子犬のようにもふもふ③あふれる包容力」とある。10年後への期待は「死ぬときも病めるときもずっと、ずーっと、愛し続けてね☆」、推しの木からのひと言は「オレの愛は重いぜ★」だ。

6年生と言えば恋が芽生えるころだ。「自身」は女の子か、推しの木はお父さんか、それとも未来の夫か。「愛は重いぜ」が肺腑をえぐる)

発見者「ミカン」の名称「家族のように並ぶポン次郎」。年齢は17才、性格は「母性がある」。推しの木のひと言は「来年大学受験(木のみ)なのでがんばります。ちなみに、家族の長男は停太朗。バス停のところに立っています」とある。

(「ポン」は、記者のような愚か者の意味を持つ〝アンポンタン〟を思い出させ、「ミカン」は「未完」を連想させる。木に「母性」を見いだす感受性が鋭い。「停太朗」と「バス停」も何かを暗示させる)

名称「長樹」(長寿にかけているのだろう)の推しポイントは「①いつも葉がある②デカイ③いつでも見れる」とあり、10年後への期待では「記おく回ふく薬が発明されるかも? 」とあり、推しの木からのひと言は「長生きの秘決(訣)? 『それは動かないことじゃ』」。

(写真から判断してクスノキであるのは間違いない。記者の大好きな木で、この木を見ると条件反射のように葉っぱをちぎって臭いをかぐ。鎮静剤だ)

発見者「うしろの人」の名称「教科書」(理科)。出現場所は「家or学校」、年齢は2才、性格は「きらわれ者」。レーダーチャートは「きらわれ度」と「先生による好まれ度」が最大の5点、「厚さ」は4点、「好かれ度」と「使用ひんど」は最低の12点。3つのポイントは「①テストのはん囲がわかる②ノートをとらなくても分かる③ふく習ができる」、10年後への期待は「多分もう新しくなっている。捨てる」、推しの木からのひと言は「もっと使って」だ。

(教育関係者が読んだら驚愕するのではないか。痛烈な皮肉が込められている。花の命と同様、教科書は2年で捨てられ、好かれるのは先生だけか…先生もかわいそうではないか)

もっと書きたいのだが、きりがないのでこのあたりでやめる。

巻末で野村不動産は、「街に新しい環境をつくる仕事をしています。私たちがつくる環境が、多くの人から大切に慕われそれぞれの『私の風景』になっていくためにどんなことをすればいいかを考え続けています。

「今回の授業では、街の未来を担う小学生の目に映る、街の風景を切り取って集めてきてもいました。

推しの木を通して、小学生だからみえる街の姿、小学生だから聞こえる街の声、それぞれが大切にしている『私の街の風景』を、教えてもらうことができました」とし、浅田氏は「今度、推しの木の近くを通り過ぎるときは、ちょっと声をかけてみてください。もっと木や森が、そして街が、身近に、そして誇れるものに感じられるかもしれません」と結んでいる。

授業対象が埼玉県でなく千葉県の流山市の小学校というのも興味深い。記者は、井崎義治氏が市長に当選したとき、井崎氏がデベロッパーに興味を示されたので、街づくりに熱心なデベロッパーとして野村不動産を紹介したことがある。

その流山市にある江戸川大学の講師として環境倫理学を教えていた法政大学教授・吉永明弘氏はその著「歳の環境倫理」(勁草書房、2014年刊)で、学生に大学周辺を歩いてもらってアメニティとディスアメニティを地図上に書き込んでもらい、アメニティマップを作製することが、地域の歴史や文化、地形や生態系の情報を得るのに有効であると著している。

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右が「推しの木図鑑」1ページ分

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        ◆     ◇

「推しの木Profile」を読んでいて、気になったことが一つある。全122の「推しの木」には、具体的な木の名前はゆず、夏みかんなど数えるほどしかないことだ。写真も添付されているので、専門家ならすぐ木の名前を当てられるだろうが、記者はほとんど分からなかった。

例えば、発見者「サンタさん」のコピーライターが付けそうな、デベロッパー顔負けの名称「ザ・ツリー・マンションズ」。レア度は三つのうち1つ、出現場所は「マンションの裏の公園」、年齢は43(?)才、性格は「少し気が荒れている」、3つの推しポイントは「マンションの人は有名でだれもが知っている木のぼりで遊べるなにげなし木がきれい」、10年後への期待は「マンションの公園にもっとふえてくれ!」、推しの木のひと言は「やぁ、こんにちは!ぼくは、ふつうの木」だ。

(写真は夜間に撮ったようで、名称、発見者などからモミノキかと思ったが、樹形からしてそうではなく、ケヤキ類かと思ったが、ケヤキは登れないし、真冬でも葉っぱが茂っていることから常緑樹のカシ類か)

ことほど左様に木の名前は杳としてしれないものばかりだ。

 そこで、なぜなのかを考えた。小学生の理科の教科書には動植物はたくさん出てくるが、樹木に関しては光合成の仕組みや年輪、板目・正目などの材の特徴は掲載されていても、木の名前などは習った覚えがない。このことと関連があるのではないかと。

 そこで、学習指導要領を読んだ。理科については、「人の生活が環境に及ぼす影響を少なくする工夫や、環境から人の生活へ及ぼす影響を少なくする工夫、よりよい関係をつくりだす工夫など、人と環境との関わり方の工夫について考えるようにする」(この日本語はおかしい。人と環境は双方が影響を及ぼしあうものだ)などとあるが、森林の果たす役割などは一言も触れられていない。

文科省にも問い合わせた。けんもほろろ。教科書に盛り込まなければならない木の名前などはなく、教科書を発行している出版社に聞いてほしいということだった。

 仕方がない。小学生向け理科の教科書を発行している大日本図書と一般社団信州教育出版社に問い合わせた。大日本図書は3年生:ウルシ、ツツジ、4年生:サクラ、ハナミズキ、5年生:サザンカ、6年生:掲載なし。信州教育出版社は4年生の教科書にアカマツ、イチョウ、カエデ、クヌギ、クス、サクラ、サンショウ、シラカシ、ツタ、ヌルデなどを掲載しているとのことだった。

これで、「推しの木Profile」に具体的な樹木の名前が出てこない理由がわかった。学校では教えていないのだ。理科などの理数系の教科書を発行しているのは両社を含めて6社で、母語の「国語」や「社会」は3社のみということも分かった。

記者小学生のころ、「松風騒ぐ丘の上…」(1954年、三橋美智也「古城」)、「一本杉の石の地蔵さん…」(1955年、春日八郎「別れの一本杉」)、「柿の木坂は駅まで三里…」(1957年、青木光一「柿の木坂の家」)などを歌って木と親しくなったものだ。

図書館も同じだ。ある区立図書館の本棚に並んでいる子ども向け図書を調べた。文学、伝記、昔話、地球、科学、恐竜、魚、鳥、昆虫、環境、料理、乗り物、スポーツ、哲学、宗教…などは豊富で、SDGsやユニバーサルデザイン、プログラマーに関する書籍もあるのに、森林・林業は一番目立たない、探すのが容易でない最下段に収められていた。冊数も10冊くらいしかなかった。

そのうち記者が名著だと思ったのは、七尾純著「森といのち 生命をはぐくむ森」(あかね書房 2004年刊)だ。字を小さくし、ルビを振らず情報量を増やしたら大人向けにもなる。

物の序で。小学校で学ぶ漢字を調べた。文科省の学年別漢字配当表の漢字は1,026字あり、うち木篇漢字は34字だ。学年別(木篇)に見ると1年生80字(木、本、林、森、校、村)、2年生160字(ゼロ)、3年生200字(横、植、根、橋、相、柱、板、様)、4年生202字(機、械、極、材、札、松、標、栃)、5年生193字(桜、格、検、構、枝)、6年生191字(株、机、権、樹、棒、枚、模)だ。 

この良し悪しはともかく、どうして「栃」(トチノキ)が「松」とおなじ4年生なのか。これには大した理由はない。都道府県名の漢字を小学4年生までに教えることにしたためで、「栃木県」の「栃」が木篇であるからに過ぎない。国樹として親しまれている「桜」はなぜ5年生なのか、学名が「Cryptomeria japonica」=隠された日本の財産を意味する「杉」や「桧」「梅」「桃」「柿」「桐」はどうして対象外なのか、理由は明確ではない。みんなご都合主義によるものだ。ここに人文系と理数系の分断・断絶をみた。

◇      ◆     ◇

以下は、同社を通じてお願いした今回の取り組みについてのコメント。

■同社担当:野村不動産 エリアマネジメント部横川大悟氏 街づくりに携わる事業者として、ただマンションを作って終わりということではなく、シビックプライドの醸成や街の魅力向上が大事だと考え、今回の授業実施に至りました。

今回の授業を通じて、子どもたちには、木への関心や街への関心を持ってもらい、この機会をきっかけに自分の住む町にもっと誇りをもって貰えればと考えています。

子どもたちが、色々な場所で自分の住む街について話す機会が増えることで、住民や来街者を巻き込んで街への愛着を育んでいってもらえるよう願っております。

■授業を実施した先生(大学生) 子どもたちがとても真剣に取り組んでくれて、沢山の時間をかけて準備をしてきて良かったと思いました。

近くの友達と色々話し合って楽しそうにプロフィールを完成させている生徒の皆さんの姿がとても印象的でした。

私たちに積極的に話しかけてくれたり、質問してくれたりする生徒さんもいて嬉しかったです。

今回の授業が、街の木に興味をもつきっかけになればと思います。

実際に授業をするまで、真剣に取り組んでくれるだろうか? と心配だったのですが、全員が一生懸命推しのプロフィールを書いてくれてとても嬉しくなりました。

完成したプロフィールを友達同士で見たり、どこにあるの? と話している姿も見かけたりして、この時間を楽しんでいるのだなと感じ、実施できてよかったです。

それぞれのシートには個性や見どころが詰まっていると思います。

■小学校の先生のコメント 推しの木探し、そして、プロフィール作りを通して、子ども達が楽しそうに取り組んでいる姿を見ることができ、とても嬉しくなりました。
 また、それだけでなく推しを選んできただけに、「自分の選んだ木や木材が1番」と、自信満々に言う児童の様子から、身近なものに愛情をもてるというのは、とても素敵なことだと感じました。

この経験を通して、木や木材だけでなく、地域にある様々なものにも「愛」をもち、愛情溢れる地域を作っていってほしいと思いました。

 今回の授業をきっかけに改めて木材の良さに気付き木材の良さを生かした卒業制作を行うことができました。

子どもたちが今後も木材に触れ親しむとともに、保護者の方にもこの取組みを直で見ていただけると今後さらに内容が発展していくと思いました。

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「推しの木図鑑」巻末

野村不&埼玉大学 持続可能な街づくりへ 小学生向け授業プログラム開発・授業(2023/6/1

 

 

 

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