三井不動産、トヨタ不動産、読売新聞グループ本社は5月1日、先に東京都の「築地地区まちづくり事業」の事業予定者に選定されたのを受けた記者会見を行い、三井不動産・植田俊社長、トヨタ不動産・山村知秀社長、読売新聞グループ本社・山口 寿一社長がそれぞれ街づくりにかける意気込みなどを語った。会見の会場となった「COREDO室町テラス」にはメディアは約100人、関係者は約50人(記者推定)が集まり、関心の高さがうかがえた。
植田社長は、「『築地』は東京都の大切な財産。国際的競争力を高め、都民から愛され称賛される街づくりを進める。事業参画する11社の知見を惜しみなく注ぎ込む」とあいさつ。「都民の財産」「稀有な土地」「国際競争力の向上」「イノベーション」「感動」「デフレ脱却」「スポーツ・エンタメの聖地」などのフレーズを連発した。
山村社長は「陸・海・空の次世代モビリティへの期待は大きく、街づくりの親和性は高い。トヨタグループとして街づくりとモビリティを結びつける役割を果たしたい」と語った。
山口社長は、「読売新聞社は今年創刊150周年。新聞発行と並んで長年にわたってスポーツ、文化、エンタメの分野で事業展開してきた経験を活かし、大勢の方に楽しんでいただける施設を作っていきたい」と語った。プロ野球巨人軍の本拠地移転については「前提にしていない」と否定した。
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読売巨人軍の本拠地移転について記者団から質問が飛んだ。山口氏は「巨人軍の本拠地移転を前提としてマルチスタジアムの提案を行ったわけではない。(「ぜひ移転をという声があったら移転検討の余地はあるか」という質問には)プロ野球球団の本拠地移転は大仕事で、調整も必要。巨人軍だけで決められるものでもない」と本拠地移転を否定した。植田氏も「東京ドームと築地の二つのスポーツ・エンタメの聖地を目指す。シナジー効果を発揮するはず」と語った
東京ドームが完成してから35年経過するが、年間来館者が4,000万人にも達するように、巨人の試合だけでなく様々なイベントにも利用されており、フル稼働の状態だ。今すぐ築地に移転するメリットはないと両社は判断したようだ。
しかし、今回の「築地」再開発と後楽園・水道橋の再開発はリンクしており、いずれ後楽園・水道橋の再開発計画は浮上すると記者はみている。
隣接する後楽園飯店が入居する「後楽園ホールビル」東京ドームシティ アトラクションズ(旧後楽園ゆうえんち)」などは古く、容積をかなり余しているのではないか。再開発すれば超高層ビルがいくつも建つのではないか。
再開発の要件も揃っている。東京ドームシティを含む文京区後楽一丁目及び春日一丁目の約22.1haは都市計画公園「後楽園総合公園」として指定されており、このうち「未供用」の面積が2.83haある。
この「未供用」の面積がとても大事な数字だ。都は平成25年12月、「公園まちづくり制度」を創設し、都市計画決定からおおむね50年以上経過し、かつ未供用区域の面積が2.0ha以上の都心部の都市計画公園・緑地を民間の力を活用して整備することを打ち出した。
神宮外苑の再開発が可能になったのも、秩父宮ラグビー場を中心とする約4.7haが未供用になっていたからだ。実態として共用か未供用かは問われない。「後楽園総合公園」の再開発は、神宮外苑と同様の手法を使うことができる。公園に近接して築42年の19階建てトヨタ自動車東京本社ビルもある(神宮外苑の伊藤忠本社ビルは築44年)。トヨタグループが築地プロジェクトに参画しているのは後楽園再開発の布石だと見た。面積も後楽園のほうが広い。
植田氏は〝二つの聖地〟をつくり、スポーツ・エンタメ分野で独走することを〝日々妄想〟しているのは間違いない。同社は3月1日、商業施設事業とスポーツ・エンターテインメント事業の連携を加速させるため、「商業施設本部」を「商業施設・スポーツ・エンターテインメント本部」に改称し、ソリューションパートナー本部の「東京ドーム事業部」を同本部に4月1日付で移管すると発表している。
築地の森とベイサイドデッキイメージ
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東京都は4月19日、「築地地区まちづくり事業」事業者を三井不動産など11社の「ONE PARK×ONE TOWN」に決定したと発表した。三井不動産が選ばれるとは思っていたが、構成員にはやや驚いた。大手ゼネコン5社の一角、大林組はどうして入っていないのか、三井不動産と親密な関係にある読売新聞社はともかく、読売の天敵であるはずの築地が本拠地の朝日新聞社と、〝世界のトヨタ〟はどのような役割を果たすのか…なども興味深い。
もう一つ、驚いたことがある。採択された「ONE PARK×ONE TOWN」のほかにもう一つAグループの提案があり、都は「Aグループは、ヒアリングを含む審査を通じて、参加資格要件及び基本的な条件を一部満たしていないことが確認されたことから、失格が相当と判断した」としている。Aグループの提案者はどこか不明だが、情けないの一言だ。
考えてみれば、三井不動産は「ミッドタウン東京六本木」「HARUMI FLAG」「横浜市旧市庁舎街区活用事業」「神宮外苑」「南船橋」などビッグプロジェクトのコンペは連戦連勝だ。他の大手デベロッパー、ハウスメーカーはどうしたのか。三井不動産に〝街づくり〟の独走、〝一強〟を許していいのか。
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東京都が4月19日に発表した「築地地区まちづくり事業」は、三井不動産を代表企業とする11社によるコンソーシアム。同社とトヨタ不動産、読売新聞グループ本社の3社が開発・運営責任を負う企業で、建設は鹿島建設、清水建設、大成建設、竹中工務店、設計は日建設計、パシフィックコンサルタンツ、協力企業は朝日新聞社、トヨタ自動車となっている。
事業地は、中央区築地五丁目及び築地六丁目各地内に位置する築地市場跡地の都有地約19万㎡(指定建ぺい率80%、容積率500%/700%)、総延床面積約117万㎡、総事業費約9,000億円。期間70年の定期借地権付き。貸付料は4,497 円(月額/㎡=年間換算で102億円)。開業時期は2030年代前半以降(一部施設は29年度に先行開業)。
主要建物は大規模集客・交流施設(マルチスタジアム)、ライフサイエンス・商業複合棟、MICE・ホテル・レジデンス棟、舟運・シアターホール複合棟など合計9棟のほか、陸・海・空を結ぶ次世代型交通拠点(東京駅と臨海部を結ぶ臨海地下鉄の新駅、首都高晴海線出口と接続、空飛ぶクルマの実用化を見据えたポート、隅田川沿いに、観光・通勤の舟運ネットワークの拠点となる舟運施設)、バス、タクシーなどが乗り入れる交通ターミナルなど。
マルチスタジアムは、世界屈指の可変性と多機能性を備えた約5万人(用途に応じて2万~5万7000席に可変)収容の屋内全天候型施設。可動席と仮設席を活用し、用途に応じてフィールドと客席が形を変え、スタジアム、アリーナ、劇場、展示場へと専用化する超多機能施設(想定イベント:ラグビー、野球、サッカー、バスケットボール、eスポーツ、MICE、音楽ライブ、コンサート、演劇など)。
建物省エネ、自立・再生可能エネルギーの利用、蓄熱・蓄電などの都市インフラと緑被率を約40%確保するなどグリーンインフラの整備を行い、環境共生型の街づくりを行う。