一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)と“日本一人口の少ない秘境”奈良県野迫川村(のせがわむら)は10月2日、「森林保全および地域活性化に関する連携協定」を神宮前の公益社団法人・日本アロマ環境協会(AEAJ)3階グリーンテラスで締結した。締結式の模様はメディアに公開された。
more treesにとっては国内22か所目(海外2か所)の活動地で、締結式を東京で開催するのは1か所目の高知県梼原町(隈研吾氏の作品で知られる)に次いで2度目。会場となった「グリーンテラス」は隈氏が手掛けた「僕の建築家としての原点となる作品」で、グリーンテラスからは隈氏が小学4年生のときに建築家を目指すきっかけとなった国立代々木競技場が正面に見える。隈氏は30年来の友人だったmore treesの初代代表・坂本龍一氏の死去に伴い昨年6月、遺志を継ぐ形で二代目代表に就任した。締結式では隈氏の手紙が披露された。
締結式の冒頭、more trees事務局長・水谷伸吉氏は、主な活動として①森づくり②国産材利活用③カーボンオフセット④木育などセミナーを挙げ、今後の森づくりでは人工林が皆伐された後に再植林されない林地が3割強あることから、広葉樹に着目し、その地域の特性に合致した樹種の植林に力を入れ、「企業の森」づくりなど、都市と森林・林業を結びつける活動に力を入れていくと語った。
協定締結式に臨んだ吉井善嗣村長は、風景写真(記事参照)をスクリーンに映し出し、 「野迫川村には広葉樹の森がたくさん広がっており、春には薄桃色のヤマプキやミズナラなどの木々や草花が咲き誇り、夏には青々とした木々に包まれ、秋にはカエデなどの黄色や赤の紅葉が広がります。そして、冬を迎えると、深々と雪が降り銀世界を描きます。四季折々の自然のリズムを楽しむことができます」と切り出し、村の概要について標高400~1,300m(平均700m)、総面積の97%が森林で、年間平均気温は札幌とほぼ同じ9.2℃、令和2年の国勢調査では人口は357人で、離島を除けば全国最小、年間を通して雲海が発生しやすいことから「天空の國」と呼ばれているなどと説明した。シイタケ、マツタケ、アマゴ(養殖)、凍り豆腐などが特産品だそうだ。
森林・林業については、全国の林業地が抱える共通の課題である従事者の高齢化、担い手不足、急峻な地形、主伐期を迎えながら伐採されない人工林(樹齢約60年のスギ、ヒノキなど村有林は600ha)、放置間伐材などの課題解決に向けて、針葉樹の皆伐後の混交林化など森林の基盤整備、林業構造の強化などの川上と、木材利用・加工の拡大、森林サービスの顕在化・発展などの川中・川下の取り組みに力を入れていくと話した。
隈氏は締結式に欠席したが、「僕にとってグリーンテラスは思い出深い場所です。1964年、小学4年生のとき、代々木体育館を見て建築家を目指そうと思った。グリーンテラスは建築家としての原点となる真向かいに建て、テラスから代々木体育館が見える。今回、ここで協定式が行われるのは二重三重の喜び。more treesの代表だった坂本さんとは30年来の友人。森づくりには様々な困難、共通の課題を抱えているが、一番小さな村で活動することが、森林・林業にかかわる方に希望と勇気を与えるきっかけになることを願っている」とメッセージを寄せた。
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故・坂本龍一氏がmore treesの代表を務めていたので動向には注目していたが、直接取材するのは初めてだった。隈先生の作品が見られるし、てっきり隈先生に会えると思い込み、事前の下調べなど全くしなかった。
それでも収穫はたくさんあった。グリーンテラスは写真で紹介した。美しい。見事というほかない。野迫川村の概要は上段で紹介したが、財政状況を調べたら、歳入は15.3億円で、地方税比率は4.4%、地方交付税比率は68%、経常支出比率は88.5%、財政力指数は0.13%で、高齢化率は50%を突破しており、林業従事者は30人くらいだ。
村長さんや隈さんのメッセージを聞き、野迫川村に隣接する十津川村の復興再生プロジェクト「高森のいえ」の見学を兼ねて訪れてみようという気持ちになった。野迫川村は、新幹線新大阪駅から電車、バスを乗り継いで約3時間だから、東京からだと6時間、宿泊費を含めると往復で10万円くらいか。
クマもそうだが、怖いのはヤマヒルだ。村長さんに尋ねたら、「ヤマヒルはいる」と答えただけで、〝それがどうした〟という顔をしていた(水谷さんが「刺されたらタバコの火を近づけるとコロリと外れる」と助け船を出してくれた)。
大好物のアユとイワナの骨酒に聞いたら、アユは標高が高いので棲息しておらず、村に唯一あるホテルでは骨酒の提供はないが、代わりにアマゴの養殖がさかんなので、自分で作れば飲めるとのことだった。
それにしても、この日のメディアの参加者は記者を含めて数人だった。坂本さんの都知事宛ての手紙にはハゲタカのように群がったのに、more treesの本来の活動である森づくりのイベントにはどうして集まらないのか。これも危機に瀕する森林・林業の実態の反映か。山がダメになり、田んぼが少なくなり、川の水量が激減し、アユもウナギもカニも食べられなくなった。磯物も壊滅状態だ。そのうち近海魚は絶滅するのではないか。
まだ言いたい。国土強靭化の肝は森林・林業の再生だと思うが、来年度の林野庁の予算要求額は3,478億円(前年度比117.8%)だ。一方、防衛省の予算要求額は過去最大の8兆5,389億円(同110.5%)だ。10年前の2017年度の予算額は林野庁が2,903億円で、防衛省が1兆8,260億円だった。伸び率は林野庁が19.8%増、防衛省が2.1倍増だ。同じ国を守り、人を守り育てるための予算(自衛隊は合法的に人を殺すことが許される場合がありえるが)なのなぜこれほど差が出るのか。釣り合わないではないか。自然災害の激甚化と森林・林業の衰退とは無関係ではないはずだ。
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吉井村長と水谷事務局長はヤマヒルをご存じなのは当然だか、他の関係者やメディアの方は知らなそうな人ばかりだった。いかに恐ろしいか、田舎に移住するのにどのような覚悟が必要か。かつて書いた記事を紹介するので読んでいただきたい。
「それより怖いのはヤマヒルだ。尺取虫のようにどこからともなく忍び寄り、やわらかい皮膚に食らいつく。血を吸われても気がつかないから始末が悪い。無理に引っぱがすと、皮膚ごとはがれ、なかなか血が止まらない。山ヒルは山道が獣道に変わって出現するようになった。全国どこでもそうだという。
日本のユマヒルはまだたいしたことがないが、古山高麗雄が戦記小説に書いているように、中国とビルマの国境あたりのジャングルのヒルは強暴だ。人間を察知すると、葉裏に隠れている無数のヒルが「ザザザザッ」と葉を揺るがし、頭の上から襲いかかる。そして、知らないうちに陰部などに食らいつき真っ赤に膨れ上がる。(チンポコが2つになる記述もあった)無理に引き剥がすと出血多量で卒倒するのだという。仕方がないから、食らいつかれたまま下半身をさらし、石などでつぶすしかないのだという。
田舎に帰省するとこの小説が頭に浮かび、田んぼのあぜ道すら怖くなる」
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