左からMERIDIANI、Minotti、Cassina
三井デザインテックは6月27日、2025年4月8日から13日に開催されたミラノデザインウィーク国際家具見本市の分析と家具や空間デザインの最新トレンドをまとめた「Design Trend Report 2025」を発表した。同社フェロー・見月伸一氏の視点で分析し、解説したもの。
レボードによると「COLOR TREND」については、「落ち着きと温かみを備えたアーストーンを基調に、空間に深みや奥行きを与える配色が目立った。ミルクティカラーを中心としたベージュ系の柔らかなグラデーションが多用され、ウッド素材との親和性が高い構成となっている。自然回帰の志向を反映するフォレストグリーンや、やや赤みを帯びたブラウンも多く、70年代ヴィンテージの空気感を取り入れながら、クラシックなトーンに現代的なニュアンスを加える試みが進んでいる」としている。
「MATERIAL TREND」については「素材そのものが空間の印象やメッセージを担う傾向が強まり、軽やかさや懐かしさを伴うウッド素材の再評価が進んだ。特に、鈍い光沢のミディアムウッドや乾いた質感の白木が多用され、曲線的な加工や異素材との組み合わせによって、穏やかで柔らかな雰囲気が生み出されている。また、再生素材や自然由来の素材の探究も深化しており、サステナブルであると同時に工芸的な価値をも備えた表現として注目された」としている。
左からMinotti、LOUIS VUITTON
「STYLE TREND」については「空間に対する身体的な距離感や過ごし方に焦点を当てたスタイルが広がった。奥行きを深く取ったソファや床座の提案に見られるように、柔らかな姿勢でくつろげる環境への関心が高まっている。70年代を想起させる有機的なフォルムや落ち着いた素材構成が特徴で、ヴィンテージとモダンの要素を融合させたスタイルが主流となった。個の寛ぎを尊重しながらも自然な対話が生まれる低重心のレイアウトや、素材のテクスチャーを活かした自由度の高い空間設計が、多様なライフスタイルに寄り添う新たなスタンダードとして提案されている」としている。
左からbaxter、Minotti
「トレンド分析から見える2025年のデザイントレンド」は以下の通り。
2025年のインテリアデザインは、サステナビリティやウェルビーイングへの関心が深化し、ヘルシーでストイックな志向に加えて、情緒や自由さを重んじる暮らしの価値観へと広がりを見せている。さらにパンデミックの収束から2年以上が経ち、コミュニケーションのあり方や生活様式の変化が進む中で家具の使い方も多様化し、新しい寛ぎ方や対話を重視したレイアウトの提案も行われるようになってきた。
その生活形態の変化を表すように、今年のミラノデザインウィークでは70年代の自然回帰や自由なムードを基調に、60年代カリフォルニアの開放感や80年代の華やかさなど、複数の時代を横断する要素を融合させた展示が多く見られた。異なる要素を組み合わせることでヴィンテージ感と現代的感性の調和を図り、ブランドごとに独自の世界観を構築する動きが顕著になっている。
こうした潮流の中で、インテリアは柔軟性や持続可能性を備えるだけでなく、人と人との対話を促し、自由で多様な暮らしを包み込む舞台としての役割を強めている。そして今、その空間が担うのは、単なる機能や様式の表現にとどまらず、個々の人生や感情に寄り添い、豊かさを語る“ストーリーテリング”型のアプローチである。その象徴ともいえるのが、Loro Piana による《La Prima Notte di Quiete》だ。70年代を想起させるインテリアを舞台に、音や光による演出だけで空間に物語を立ち上げた本作は、インテリアデザインがもたらす情緒的な豊かさを体感させる提案であり、これからのミラノデザインウィークが果たしていく文化的役割を先導する存在ともなっていた。
インテリアが、その場で営まれる人々の生活や物語を織り込んだ表現へと進化するなか、2025年のミラノデザインウィークは、自由で情緒的な暮らしの価値観とともに、多様なライフスタイルに寄り添う新しいデザインのあり方を具体的に提示していた。
Loro Piana による《La Prima Notte di Quiete》