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2025/07/02(水) 08:28

勝負分けた ロジックの力 言葉と造形の力 ポラス 第12回 学生・建築デザインコンペ

投稿者:  牧田司

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受賞者と審査員で記念写真(ポラテック本社「ウッドスクエア」で)

 ポラスは6月30日、「第12回POLUS-ポラス-学生・建築デザインコンペティション」公開審査会を開催し、応募599点のうち一次選考を通過した5作品の中から最優秀賞(賞金50万円)に「暮らしは街にこぼれ」(武蔵野大学・小林由芽さん、野澤沙帆さん)、優秀賞(賞金30万円)に「編まれる時間の住まい」(慶應義塾大学大学院・所新太郎さん、井口雄貴さん、鈴木理紗さん)を選んだ。

 コンペのテーマは「“t軸”の家/家々」で、サステナブルな未来に向かって、喜びを持って向き合える家やその集合のあり方を、具体的かつ実際的に提案してもらうもの。  

 最優秀賞の「暮らしは街にこぼれる」は、道をただの通行空間ではなく、「暮らしの一部」として捉えた全7戸の集合住宅。不定形の建物をアトランダムに配し〝森の抜け道〟〝秘密の密会所〟〝ポケット中庭〟など6つの庭がそれぞれの住宅を緩やかにつないでいるのが特徴。

 受賞した小林さんと野澤さんは「模型を仕上げるのに今朝(30日)までかかった。この2日間の睡眠時間は2~3時間。とても嬉しい」と喜びを語った。

 優秀賞の「編まれる時間の住まい」は、現代住宅は機能分節が招く思考の単一化であるとし、直線上に並べた機能を壁ではなく段差によって空間を分節し、直線住戸をランダムに交差させることで、生活に思考の余白と密度のある時間を作り出す提案となっている。

 このほか、入選作品(賞金15万円)に「はみ出す境界、つながるのりしろ」(広島工業大学・村上寛明さん、中村日香さん)、「月と太陽の降る里」(九州大学大学院・矢野泉和さん、九州大学・菊池慎太郎さん、山之口涼霞さん)、「レジリエントな土壁」(デルフルト工科大学大学院・儲立人さん、中国美術学院・宋雨軒さん)の3作品が選ばれた。

 各審査委員の講評は以下の通り。(発言順)

 審査委員・中川エリカ氏(中川エリカ建築設計事務所) 今年のテーマは難しいと思っていたが、個性的な提案が多く、それだけ議論も多岐にわたった。すごく熱気帯びたコンペになった 

 審査委員・原田真宏氏(芝浦工業大学教授) 気になっているテーマだったが、皆さん果敢にチャレンジされた。有意義なコンペだった。欲を言えば、もう少しサステナブルな世界を見せてほしかった

 審査委員・今井公太郎氏(東京大学生産技術研究所所長) とにかく応募の多いのがすごい。受賞作は完成度が高い。議論に応えるロジックと造形がいい。これが勝負の分かれ目となった

 審査委員・野村壮一郎氏(POLUS社内審査委員) 今回の受賞作品は、図面も模型も、自分が住みたいと思わせる意欲が伝わるような提案が多かった

 審査委員長・西沢立衛氏(横浜国立大学大学院Y-GSA教授) 言葉の力と造形の力に対する信頼が我々の中にある。受賞作品にはそれがあった。結果については、違った視点で考えれば違った結果になった。入賞を逸した方、順番が低かった方々もあまり気にしないで、よりよい建築を目指していただきたい

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最優秀賞を受賞した小林さん(左)と野澤さん

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最優秀賞の「暮らしは街にこぼれる」

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優秀賞の「編まれる時間の住まい」

◇        ◆     ◇

 テーマである「“t軸”の家/家々」に提示されている条件は単純だ。幅員10mの南西道路に接道する縦軸が40m、横軸が30m=1200㎡に7戸程度の木造住宅を建設するというものだ。用途地域も建ぺい率、容積率などの条件はない。

 条件提示がない分、難しいと思った。自ら考えるほかないからだ。時間軸も難しい問題だ。過去から現在、未来へと悠久の流れを空間との関連でどう表現するのか、あるいはまた時間と空間の一点に照準を合わせればなにが生まれるのか。

 記者は自分なりに、ごく単純にデザインが美しいもの、現法規で実現が可能と思われる作品を選んだ。それが「編まれる時間の住まい」だった。1階部分が「HARUMI FLAG」のように共用部分で、外にも開かれた空間になっており、2~3層の屋根の波打つ横ラインが美しい。

 そのほかの作品では、「月と太陽の降る里」は5層分くらいあり、公共施設にすればランドマークになると思った。隈研吾さんも驚くのではないか。「はみ出す境界、つながるのりしろ」は出口がない迷路、解けない知恵の輪だ。どこかの国にこんな住宅はなかったか。「レジリエントな土壁」は審査委員から高い評価を得ていたが、図面が分かりづらかった。

 大学院生・大学学部4年生を除く応募者の中で特に優秀な10作品に贈られるUJ賞(Under Junior award)に受賞した東京電機大学・佐久間勇次さん、阿部奏大さん、柿沼瑞幸さんともしばし歓談したが、その作品「絡まる」のデザインが素晴らしいと思った。どこか「麻布台ヒルズ」に似ており、同大学の教授でもあったプリツカー賞を受賞した山本理顕氏もこのような作品があったような気がする。これがナンバーワンか。

 要するに、作品は愛と憎しみと同じだ。みんな紙一重。西沢氏も話したではないか。選ばれなくても落胆などしないことだ。

 一つ残念だったのは、耳が遠くなったせいかプレゼンから質疑応答、自由論議、講評まで約4時間、話が聞きづらかったことだ。審査員の方々がこのように話したか自信がない。間違っていたら謝るほかない。

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