松蔭大・長谷川清准教授が中小企業研究会で指摘
住宅・不動産には直接関係ないが、これからの社会を考える意味で重要と思われるので、先日、「中小企業研究会」(会長:明治大学名誉教授・百瀬恵夫氏)で行なわれた松蔭大学・長谷川清准教授による「英国クレジットユニオンについて」と題する講演を紹介する。
「クレジットユニオン(日本の信用組合に相当)」は、環境決定論者として知られる英国の社会改革者ロバート・オーエン(1771~1858)の思想を具現化したものだ。他の欧米諸国に比べて導入されたのがかなり遅く、1958年(昭和33年)に北アイルランド・ダブリンで中央協同組合が発足したのが第一号という。低所得者層や移民を対象とした個人向け金融機関だ。
貸し倒れ比率が5%以上と高いことや、わが国のような利息制限法がないことなどから貸し出し年利は20%以上がほとんどで、預金高もわが国の信用組合・信用金庫の20~30分の1程度だという。店舗も「公民館」などの公共施設を借りているものが少なくないそうだ。
記者が興味を持ったのは、長谷川准教授が「日本では理解できないだろうが」と前置きして話した「金融排除問題」だった。英国では「当座貯金口座を保有しない」世帯は200万件、「あらゆる形態の信用供与を利用しない」世帯が350万件、「短期・長期のいずれの貯蓄性商品を保有しない」世帯が300万件、「過去5年間に生命保険に加入しない」世帯が450万件あるという。つまり、金融機関から相手にされない・排除されている世帯が「わが国では理解できないほど」多いということだ。
しかし、長谷川准教授は「わが国でも貯蓄をしていない低所得層が増加している。銀行の預貯金も機械化が進み、窓口対応するケースがほとんどなくなってきた。金融排除問題が近い将来浮上する可能性がある」と指摘した。
この問題は、住宅・不動産業界とも無縁ではない。金融庁の統計によると、わが国の貸金業は相次ぐ規制強化で業者数は平成11年の約3万から平成25年には約2,000に激減。貸付残高も平成11年の16兆円から平成25年には約8兆円へと半減している。「総量規制」も大きな問題になっているようだ。一方で、消費者金融の利用者は住宅ローンの審査が下りないケースが多いと指摘されている。低所得者の住宅問題とも密接につながってくる。この先どうなるのか。
もう一つは、社会の希薄化だ。英国では、サッチャー政権による政治改革・規制緩和の結果、所得配分の不平等を測る「ジニ係数」(0~1までの係数で、数値が大きくなるほど不平等が大きい)は70年代は0.2だったのが、80年代以降は0.4に上昇し、現在も高止まりしているという。長谷川准教授は「0.4というのは暴動が起きても不思議でない数値」と話した。
ジニ係数が一触即発の状況にありながら、英国で暴動が起きないのは、クレジットユニオンによる「コモン・ボンド(共通の絆)」や教会を通じての奉仕活動などが抑止力として働いているのもその一因ではないかと思った。
わが国ではどうか。幸いジニ係数は0.25だからまだ低い水準にはあるが、「希薄化」「無縁社会」が問題となっている。かつては機能していた「座」「寄り合い」「無尽」は死語となり、「町内会」も行政の出先機関化しているものも少なくないはずだ。マンション管理組合運営で「コミュニティ形成」が大きなテーマになっているのも、コミュニティが欠如していることが組合運営を難しくしていることを証明している。「金融排除」が進行したとき、「コモン・ボンド」「教会」の働きはどこが担うのだろう。
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中小企業研究会について少し紹介しよう。同研究会は百瀬氏が30年以上も前に立ち上げたもので、原則として月に1回、中央区新川にある「全国中小企業団体中央会(全中)」の会議室を借りて「例会」を行なっている。全中はわが国の企業の99.7%を占める中小企業420万企業の71.4%を組織しているわが国最大の中小企業団体だ。
例会では大学教授、研究者、会社経営者などによる講演と質疑応答が行なわれている。講演料も聴講料も無料というのが特徴だ。記者のような、講演の後で行なわれる懇親会(一般は会費約5000円、学生は1000円)目当ての参加者も少なくない。百瀬氏が沖縄・泡盛を全国区に広めた功労者であることから、沖縄酒造協同組合の泡盛古酒が飲み放題というのも特徴だ。普段はそう飲めない古酒が出されるときもある。
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継続は力なり。聴講者は少ないときはわずか数十名しか集まらなかったとも聞く。しかし、それでも継続して行なってきた。今年5月の例会では過去最高の100名を超える人が集まった。前回の例会のように、40年も前に学んだ「ロバート・オーエン」を記憶の彼方から呼び戻してくれるから素晴らしい。
見聞・知見を広げるためにも住宅・不動産業に勤める若い方にお勧めだ。問い合わせは全国中小企業団体中央会 〒104-0033 東京都中央区新川1-26-19 TEL 03-3523-4903 FAX 03-3523-4910 労働政策部長・小林信氏まで。