三井不動産と三井不動産レジデンシャルが12月8日に行なった「マンション再生セミナー」を取材した。セミナーでは、老朽化マンションの課題である①耐震性②設備の老朽化③設備・間取りの陳腐化に対して生命の危機、資産の危機をどう克服するかについてリファイニングによる長寿命化と建て替えによる再生の2通りの将来設計のプランを示した。リファイニングについては、青木茂建築工房・青木茂主宰(首都大学東京特任教授)が、建て替えの留意点についてはアークブレイン・田村誠邦社長(明治大学特任教授)がそれぞれ講演した。
まず、青木氏の講演を紹介する。田村氏の講演は改めて紹介する。
◇ ◆ ◇
青木氏は、リファイニング建築とは躯体構造を基本的にはいじらないリノベーションやリフォームとは異なり、徹底して耐震性、施工精度、コンクリートの中性化などを精査し、一度スケルトンに戻してから、用途に応じデザインや機能を一新することで新築並みの価値のある建築物に蘇らせるものと説明した。
青木氏は建築確認書類や検査済証など一切ない建物の再生や、入居率の悪い賃貸住宅を居ながらにして再生して利回りの高いものに再生した事例、屋外廊下や階段室を室内化した事例、賃貸を分譲にした事例などを紹介。
リファイニングに当たっては①建築確認を取得すること②検査済証を取得すること③家歴書を作成すること④コンクリートの中性化を確認すること-の4点が重要であることを説明した。また、既存-現在-将来の120年ぐらいの時間をどうデザインするかが重要で、それぞれ構造、意匠、用途について30~40年に1回ぐらい見直すべきと強調した。
また、今後の課題として、①建築技術の伝承②雇用の促進③耐震診断のデータベース化④法の整備-の4点について話した。耐震診断をデータベース化すれば、診断スピードが飛躍的に高まり、再生しやすいよう条例の整備も必要と語った。また、建築物の再生に関する教育も必要とし、国交省や文科省には「再生建築学」の専門のコースを設置すべきと提案している。
◇ ◆ ◇
青木氏は、「プランについてはいつも所員とけんかしている。ピンクや赤の壁などを提案する所員にグリーンを主張した私はことごとく敗れている」と会場を笑わし、「これまで500件以上の案件を手がけてきたが、実ったのは50件くらい。リファイニングがなかなか進まないのは、私の社会的評価が低いのだと判断して、思い切って築40年の古いビルを買ってリファイニングした。港区のYSビルがそれで、1、2階は賃貸とし、3~4階は自宅にした。『Y』は女房の『S』は私の名前」などと、自らが人体実験したことを紹介した。
◇ ◆ ◇
黒川記章氏や磯崎新氏などが設計した建築物を青木氏が再生したのはリリースなどで知っていたが、これまでどのような仕事をされてきたのかよく分からなかった。そして驚いたのが、別掲の「千駄ヶ谷」の賃貸マンションを分譲に再生するプロジェクトの見学会だった。何と300人も見学者が集まった。「只者」ではないと思い、青木氏に失礼だとは思ったが、「失礼ですが、その道では知られた方なのでしょうか」とお聞きしたところ、「自分では判断に困ります」と返された。
そこで青木氏の事務所のホームページをみた。「日経アーキテクチュア」(2013/10/10)の「発注したい設計者・施工者ランキング」の設計者好感度ランキングで何と17位にランクされているではないか。トップは日建設計、2位は日本設計、3位は三菱地所設計、4位は隈研吾氏、5位は伊藤豊雄氏、6位は山本理顕氏…11位に安藤忠雄氏と磯崎新氏、13位がNTTファシリティーズ、14位が久米設計…そして17位が青木氏だ。そのあとにはプランテック、松田平田、山下設計、石本建築設計、梓設計、アール・アイ・エー、東急設計など錚々たる建築家・設計会社が続く。
ものを知らないことがこれほど恥ずかしいことだと改めて思い知らされた。取材をお願いしたのは、青木氏についてもっと知るためだった。「YSビル」の取材はさせていただけないだろうか。