三井不動産&三井不動産レジデンシャル「マンション再生セミナー」
三井不動産と三井不動産レジデンシャルが12月8日に行なった「マンション再生セミナー」で、建て替えの留意点について講演したアークブレイン・田村誠邦社長(明治大学特任教授)の講演内容を紹介する。
田村氏は、次のように話した。
①耐震性に不安のある旧耐震マンションについては、早晩、耐震補強を含む大規模修繕か建て替えるか選択が迫られる。何も検討しないというのはあり得ない
②大規模修繕か建て替えかという検討は、できるだけ客観的にかつ各組合員の参加を促進することが必要で、当初から「建て替え検討委員会」などと選択の幅を狭める名称は使うべきではない
③建て替えの場合、これまで自己負担なしに建て替えられた事例は条件に恵まれたためで、今後は自己負担を覚悟しなければならない
④今後は平均還元率に代わるマンション建て替え判断基準が必要で、「建て替え後に従前と同面積の床を取得するために必要な平均追加負担額」とか、「建て替えによる経済メリット」を比較・検討し、総合的に判断すべき
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管理組合に参考になるのは、「建て替え」や「大規模修繕」を検討する際の呼称だ。田村氏が何度も繰り返したように、はじめに結論ありきの印象を与えないよう工夫することが大事だ。決まるものも決まらなくなる。
「建て替え」でも「大規模修繕」でもない「リファイニング」、さらにはコンバージョンや、マンションそのものを売却して消滅させる区分所有関係の滅失も選択肢に入ってくる時代が来るかもしれない。
もう一つ、還元率についてもしっかり認識することが必要だ。田村氏は講演の中で、「販売単価が165万円/坪以下では建設コストが低い場合でも100%還元は困難」などと話した。
記者も同感だ。経済状況・市況やマンションの建てかた、規模によって異なってくるが、建設コストが85万円/坪以下というのは、ここ数年は難しいのではないか。土地代がゼロの場合であっても建替えにともなう建築費とその他の経費、デベロッパーの利益などを含めると125万円/坪ぐらいかかると見ている。
例えば、従前が20坪で同じ規模のマンションを建て替えた場合、価格は2,500万円だ。これを建て替え後の増床床を処分(分譲)して自己負担なしにするには、同じ価格の住戸を2倍確保しなければならない計算になる。つまり5,000万円で、坪単価にすると250万円だ。
坪250万円以上のエリアは、首都圏では東京23区内か郊外ターミナル駅圏なら可能だ。しかし、戸数が2倍になるような容積を余しているマンションはごく限られたものになるはずだ。さらに、最近は建物の絶対高さを抑える自治体が増えており、容積率を引き下げるダウンゾーニングを実施しているところも少なくない。
還元率100%などの幻想は捨て、還元率はせいぜい50%ぐらいと考えたほうが賢明だ。「何も検討しないというのはあり得ない」のだから、足りない部分をどう補うか、建て替えコンサルの腕の見せ所になるのではないか。