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2014/01/22(水) 18:41

「理想の間取りは普通の間取り」 小林秀樹・千葉大大学院教授

投稿者:  牧田司

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小林教授

旭化成ホームズ 第12回「くらしノベーションフォームラム」

 旭化成ホームズは1月21日、第12回「くらしノベーションフォームラム」を開き、千葉大学大学院教授・小林秀樹氏が「ナワバリ学で家族と住まいを読み解く」をテーマに講演を行った。

 小林氏は、「ナワバリ学は30年前、私が博士号を取ったテーマで、その後長らく空白期間があったが、もともと私の原点」と前置きし、「ナワバリ」とは「その場所を自分(たち)のものだと思い、そこをコントロール(支配)しようとする一定の空間」と定義づけた。そのナワバリを研究しようと思ったのは、外廊下が居住者の〝たまり場〟になっている団地は防犯性が高いことがきっかけだったという。

 そこからさらに「居心地の良い住まいとは何か」に発展させ、昔の封建家族(順位制)=個室のない住宅から居室と個室に分かれた平等家族(ナワバリ制)に移行した結果、家族は平等なナワバリを持つか、夫婦寝室はどうか、子どもは家にナワバリを持つか、親子のナワバリ争いはどう鎮めるかなどを研究。部屋の家具配置やしつらえを誰が決めるか、誰が管理するかがカギであることを突きとめた。

 マンションに多くみられるnLDK(n=居室の数)は母主導型であるとし、こどもが居間で意見を言う度合や子ども部屋を親が決定するのか子どもが決定するのかによって、「自立」「分離」「密着」「従属」の4つのカテゴリーに分類。調査研究の結果、都市住宅は「母主導型」であるとしている。また、人間集団を相互依存的(集団主義)か独立的(個人主義)か、権威を重視する垂直的関係か、契約を重視する水平的関係かを見た場合、わが国の家族は封建家族から順位制を残した温情家族へ、さらに子どもの成長とともに母子による友愛家族へと変化していると結論づけた。

 小林教授は、個室化の進展にもかかわらず家族温情主義が残るのは、玄関で靴を脱いで床上にあがる生活様式「床上文化」が影響していると指摘。日本の住まいの特徴は、①順位制の性格が根強く残る②夫婦平等のナワバリは少なく、夫婦別寝室も多い③親子の触れ合いを重視する「居間中心型」が急増④「床上文化」が家族温情主義を生み出す-とし、「理想の間取りは普通の間取り」とした。「居間と和室がつながる」形態は住みこなしやすい優れた間取りとも語った。

◇              ◆     ◇

 記者は社会・経済・家族の環境が人格形成にどのような影響を及ぼすかずっと考えてきた。家族の関係でいえば、昔の囲炉裏は今のLDKよりはるかに優れていると思っている。囲炉裏には家族だけでなく近所の人たちが集まり、農作業の出来不出来や政治の話、色恋沙汰までもあからさまに話し合っていた。子どもは父親が囲炉裏の灰に書く文字で漢字の書き順や足し算引き算も覚えた。読み書きそろばん(そろばんは経済の意味も含む)は囲炉裏で覚えた。

 今のマンションはどうか。田の字型の間取りは相変わらずだし、夫婦二人の主寝室と子ども部屋の大きさがほとんど変わらないマンションも多い。個室は孤独・孤立の「孤室」ではないかとも思う。「子育て」がテーマになればみんな右に倣えだ。似たような間取りのオンパレードとなる。

 そんな現状に飽き飽きしている記者は、小林教授が「理想の間取りは普通の間取り」と話したときは、肩透かしを食らったような気分になった。小林教授は自著「居場所としての住まい ナワバリ学が解き明かす家族と住まいの深層」(2013年、新曜社)で次のように述べている。

 「日本の家族の実態は、言論が示す以上に保守的であり、かつ健全だ。重要なことは、その先鋭的な例が、これからの趨勢になるものの先取りか、それとも、単なる特殊例にすぎないのか見きわめだ」(87ページ)「現実は、言論をあざ笑うようにnLDKの定着へと進んでいる。このような現実を踏まえると、私たちは言論に過剰に反応することなく、個室やLDKを当たり前のこととして受け入れるべきではないだろうか。むしろ、注目すべきはそれとは別の問題だ。具体的には、中廊下形式の見直しと、外部社会に対する住まいの閉鎖性の見直しだ」(88ページ)

 間取りも含め住居が人格形成にどのような影響を与えるかについては、建築学はもちろん社会学、教育学、心理学などの様々な分野からの分析・研究もなされている。この先どうなるか見極めたい。

 ひとつ、これからの住宅の商品化に参考になりそうな小林教授の考えを紹介する。小林教授は「これからの住まいの条件」のひとつとして「地域の人が気軽に訪問しやすいように玄関は引き戸にするとともに、LDKの窓を近くに配置する。引き戸であれば、全開や半開きにしておき、『暇だから、どうぞ入って』というサインとしても利用できる。逆に、プライバシーを大切にしたいときは、引き戸を閉じるとともに、窓のカーテンを閉めればよい」(101ページ)としていることだ。

 本日行われた積水ハウスの新商品発表会でもこの「玄関引き戸」が提案されていた。記者は分譲マンションにも採用できるのではないかと質問したが、同社は「分譲にも十分対応できる」と話した。

〝複合〟でつなぐ地域の暮らしと福祉「もう一つの住まい方推進協議会(AHLA)」フォーラム(2010/11/29)

 

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