「これからのマンション管理と管理会社の活用」(千代田区役所で)
「これからのマンション管理と管理会社の活用」と題するマンション管理セミナーが3月22日、公益財団法人まちみらい千代田が主催して千代田区役所で行われた。約60人が参加した。
まちみらい千代田は、ワンストップでマンション管理に関する助成制度や相談に応じる公益財団。区内には約400の分譲マンションが存在し、人口約52,000人の8割以上がマンション居住者であることから、マンションでのコミュニティ形成、管理会社の役割、防災対策などが話し合われた。
コーディネーターはまちみらい千代田の顧問でマンション管理士の飯田太郎氏、パネラーはマンション管理業協会理事長・山根弘美氏、明海大学教授・齋藤広子氏、千代田区長・石川雅巳氏。
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さすがマンション管理のプロ中のプロ。山根氏の話は非常に面白かったし、最後はドキリとさせられた。普段は業界の会合などでしか話を聞かないが、一般の人にどのように話せばいいかよく分かっていらっしゃる。面白すぎて「みなさん、私の話など終わった瞬間から忘れるでしょうから」と、忘れないでほしいことを3点ぐらいに絞った。それも自らの体験に基づいたことだから説得力がある。以下に紹介する。
「私は結婚して35年。単身赴任で20年。子どもは6人いた(これは後述する)。今日終わったら、かみさんに会いに行くんです。鞄にはいつも非常時に備えてカロリーメイトなどを入れている。首都直下型の地震の確率は向こう30年で70%ですから、宝くじに当たるより、タクシーの運転手が事故を起こすよりはるかに確率が高い」
「大事なのは自分の子どもなど大事な写真などを身に着けておくことです。工事関係者などは手袋に子どもの写真を縫いこんでおくことは気の緩みをなくすことにつながる。災害時には高齢者だけでなく、乳幼児が災害弱者になる。その一方で、中学生は体力もあり災害時には戦力になる」
「私は500戸のマンションに住んでいるが、メールボックスに名前を表示しているのは私だけ。『山根弘美』ですから男だか女だか分からないので、管理人さんは『止めたほうがいい』という。これが現状。どこにだれが住んでいるか分からなければ災害時にどうなるか。福岡ではありえない話です」
「災害時にマンション管理会社は当てにならないと考えたほうがいい。委託管理契約に災害時対応をする条項などないからです。これは別バージョンで考えないといけないこれからの課題」
「これはまだ正式に決まっていないが、コミュニティ形成に成果を上げている事例を管理組合から募集して紹介する事業も行う」
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齋藤氏は学生さんにいつも講義をされているから当然と言えば当然だが、割り当てられた20分間しゃべり続けた。ほとんど息継ぎをしない。立て板に水とはこのことをいう。「私は無口なタイプですので、資料は多めにしました」と話したときは唖然とした。
自らが居住する新浦安の例を紹介しながら、マンションは地震に強いこと、共助の管理組合がしっかりしていれば災害時に大きな力を発揮すること、顔を知る・助け合い・共同管理の3つのコミュニティが連動すればより強固なマンション管理ができることなどを話した。
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石川区長は、「災害時には行政の力には限界がある。最後は人力。まちみらい千代田を窓口にして防災隣組を組織する」と語った。耐震補強については、「区の補助金で改修工事をして価値をあげても、固定資産税や都市計画税は都税だから、区民感情としては理解されない。税の仕組みも問題。また、個人の財産にどのように行政が支援していくか理論構築も必要」などと話した。
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取材後、山根氏に「しゃべったこと記事にしていいですか」と尋ねたら、山根氏はポケットからネーム入りのボールペンを取り出した。「これぼくの死んだ子どもの誕生日。1988年7月25日です」「命日は1989年7月26日。生まれた翌年の翌日に死んだんです。10㎝しか水が入っていなかった浴槽に伝え歩きして入ったんです。だれも気が付かなかった。ぼくはこの子と二人分生きている」(記者は前職を辞めたとき、二人の女性からネーム入りの万年筆をもらった。最近、それを飲み屋でなくした。それでも10年以上使い続けたのは記録的だ)
「そうなんです山根さん。住宅内での死亡事故で結構多いのは溺死なんです。だから、積水さんは溺死しない浴室のドアを開発したんです」(記者)「そう、そりゃ積水さんに負けちゃおれない。うちもちゃんと取り組まなくちゃ」(山根氏は大和ハウス工業の管理会社ダイワサービスの会長)