三井不動産レジデンシャルは10月23日、第8回三井住空間デザインコンペ最優秀賞「三井住空間デザイン賞」を受賞した一級建築士・小野裕美氏(29)の作品「広がる通りみち」を、このほど完成したマンション「パークホームズLaLa新三郷」で報道陣向けに公開した。作品は4,280万円(83㎡)で一般に分譲される。
「広がる通りみち」は、玄関を入ってバルコニー側に向かって扇状に広がる空間「通りみち」を中央に配し、その左右に「水回り」と「寝室」をレイアウト。自然の光と風を取り込むとともに、すべての空間が緩やかにつながり、家族同士の気配が感じ取れる間取りになっているのが特徴。開き戸はトイレ以外になく、すべて引き戸を採用。カラーリングは白が基調で、巾木、ドア枠も目立たないようすっきり仕上げている。
小野氏は、「家族それぞれが空間をフレキシブルに使えるようシンプルにし、居室は窓を閉じたり開けたりしてゆるやかにつながるよう工夫した。自然の光と風を取り込む環境も確保した」と受賞の喜びを語った。
三井住空間デザインコンペは、同社が分譲する物件を対象に、新たなニーズを生み出すテーマに添って実際に住むことを前提にして提案を求めるもので、審査員は渡辺真理・法大教授など4名。今回は第8回目。テーマは「現代の共働き夫婦の子育て住宅」で588作品(応募登録1,185件)の応募があった。
審査員の渡辺氏は、「昨今、子ども部屋ひとつとっても、個人のプライバシーのための〝個室〟ではなく〝個室=孤室〟となってしまっているように感じます…かつてはプライバシー性の高まりを受けて個室へ向かって間取りが、時代背景とともに変化し再び『家族としての居場所』が見直されてきています。今後は建築デザインにおいても間取りにとらわれず、開かれた居住空間の提案が求められるのではないかと見ています」とコメントを寄せた。
同社は近く9回目のテーマを発表し作品の公募を行う。近く分譲する「豊洲」のマンションにはこれまでの受賞作のエッセンスをプランに盛り込むという。
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素晴らしい作品だと思う。白を基調にしたカラーリングが素敵だ。玄関を入ってすぐ不思議な空間に導き入れられたが、違和感はなかった。小野氏は「目の錯覚を利用した」と話したように、見事に小野氏の企てにはまってしまった。60㎝角のタイルを全面に敷いているのもいい。巾木、ドア枠、把手のデザインもすっきりしていていい。
しかし、限られたマンションの居住面積の中でホールや廊下をどうするかは永遠のテーマだろう。その意味で、小野氏の作品は示唆するところが多い。
バルコニー側に向かって扇状に広げる、つまり長方形の空間に斜めの線を入れ、3つの居室を台形状にするのは普通常識では考えられないはずだが、「通りみち」の強烈なコンセプトを前にして審査員の方もだまるしかなかったのだろう。
記事を書きながら魯迅の好きな言葉「地上にはもともと道はない。歩く人が多くなれば、それが道となるのだ」を思い出した。このプランは次代につなぐ道になるかもしれない。小野氏は普通のマンションで育ったそうだ。
価格4,280万円(坪単価168万円)は、小野氏が選んだ家具付きでもあり割安感がある。