旭化成ホームズは8月6日、同社の賃貸住宅「ヘーベルメゾン」の入居者に多い「共働き夫婦二人」の賃貸ニーズを反映した新商品「ヘーベルメゾンfufu(フフ)」を全国で発売する。
今回強化するのは、「ヘーベルメゾン」の約7割を占める1LDK・2LDKの住空間。同社の「共働き家族研究所」による調査結果を踏まえ、「同じ空間にいながらも夫婦それぞれの居場所をつくるデスクとソファの位置関係」や、妻だけではなくそれぞれが衣類を個別管理できる「夫婦別々のクローゼット」などを提案している。
同社の「へーベルメゾン」は6年連続して10%超の伸びを見せており、2015年度は売上高1,024億円で、竣工戸数は9,000戸を突破した。2005年は1R~1DKの比率が80%を占めていたのが、2016年は30%を割り込み、その逆に10%強だった1LDK~2DKは50%近くに伸びている。
「fufu」の投入により、賃貸市場での差別化を図る。年間販売目標は100棟。
◇ ◆ ◇
同社が示したプロトタイプは約46㎡(14.1坪)。大きなソファが置けるリビングにし、デスクコーナー、夫婦それぞれのウォークインクローゼットの設置、キッチンファニチャー、室内物干し、シューズクロークなどを提案しており、限られたスペースを有効に使えるようにしているのがいい。
納得はしたのだが、記者は関係者の説明を聞きながらまったく別のことも考えていた。貧しい賃貸マーケットに暗澹たる気持ちになると同時に、健気に生きる賃貸居住者に声援を送りたくなったのだ。
夫婦二人が居住する面積として46㎡が適当かどうかの判断基準は持ち合わせていないが、決して十分でないはずだ。
それというのも、同社が2日前に行った別の記者発表会で示された「二世帯」タイプは181.39㎡(54.8坪)、「近居」タイプは119.99㎡(36.2坪)、「遠居」タイプは121.24㎡(36.6坪)だった。
戸建てと賃貸住宅、子どもがいるかいないか、コンセプトもターゲットも違いがあるとはいえ、「共働き夫婦」というのは同じだ。なのにどうしてこんなにも居住面積に差があるのか。「賃貸」は仮の住まいで、いずれは分譲マンションや一戸建ての取得が可能になるのならそれはそれでいい。
しかし、このところの地価やマンションの価格上昇で、一般的な第一次取得層の取得環境は極めて厳しい。都心部や準都心部では絶望的になっている。
同社が発表会で例示した「fufu」第一弾の賃貸マンションと、最近同駅圏で分譲されたマンションを比較してみよう。
「fufu」第一弾は、根岸線石川町駅から徒歩12分家賃は10.7万円だ。一方、あるデベロッパーが同駅から徒歩7分の元町の一等地で分譲し、ほぼ即日完売したマンションの坪単価は330万円だ。46㎡だと価格は4,600万円だ。
同じように都内23区などでは軒並み分譲マンションの坪単価は300万円を超えてきており、これを利回り5%で賃料設定すれば46㎡で家賃は約17万円にもなる。世帯年収が500万円くらいではとても住めない。
例えは適当でないかもしれないが、仮設住宅並みの30㎡でも家賃は10万円になる。暗澹たる気持ちになったのはこのためだ。
少子化が加速化するいま、そろそろ利回り最優先の賃貸経営の考えを改めるべきだろうし、〝持ち家偏重政策〟も根本的に問い直す時期に来ているように思う。
このように賃貸マーケットは極めて貧しいが、同社が行った調査結果は、実に健気な夫婦像を浮き彫りにした。
同社が1都3県、大阪市、名古屋市の賃貸住宅に暮らす20~49歳の男女1,293名を対象にインターネット調査したところ、二人の休日が合わないのは、実に54%に上った。二人の平日の朝食時間が別々であるのは52%にも達している。就寝時間は「同じくらい」が52%だ(専業主婦は32%だが、これは惰眠をむさぼるのではなく子どもと一緒に寝るということだと理解したい)。
しかし、それでも夫の帰りを待って一緒に食事をする妻は64%(専業主婦は37%)もあり、二人の意識は「夫婦だけで過ごす時間を大切にしている」のは91%、「配偶者は自分にとって心の支えと思っている」のは91%、「友達のような対等な夫婦がいいと思っている」のは87%に達している。実に健気な夫婦像が浮かび上がってくる(とはいえ、「お互い収入(財布)は各自で管理している」というのが54%もあるのは全く解せない。普通の家庭は妻が財布を握っているのではないか)。
ともあれ、前回と今回の発表会は、ワークライフバランスや親子、夫婦関係を考える機会を与えてくれた。「共働き家族研究所」と「二世帯住宅研究所」にはこれからも居住者、生活者の視点で情報を発信することを期待したい。
旭化成ホームズ 二世帯ノウハウ生かし新たな「近居」「遠居」プラン提案(2016/8/2)