皇居や吹上御所の植物相研究などで知られる国立科学博物館名誉研究員・近田文弘氏(75)が11月14日、樹木医による診断で「枯損木の恐れあり」と判定された千代田区神田警察通りの5本のイチョウを視察し、「わたしは樹木医ではないが」と前置きしたうえで「見た限り全然問題ない。気温低下と湿度維持の働きを持つ街路樹を切り倒すのは間違い。街路樹と人が共存できるように視点を変えるべき」などと語った。
近田氏は区議会企画総務委員会委員や住民らとイチョウ並木を見て回り、「イチョウは1000年以上生き、直径10メートルに成長する。見た限りダメな木は1本もない。みんな若木だ。切らなくても数十年は大丈夫。倒木や枝の落下を心配する声があるが、まず大丈夫。しっかり木を見ることが大事。根上りはして当然。木をいじめるのでなく、根が伸びられるように舗装方法を改善すべき」と話した。
区は近く正式に樹木医の診断を受けるそうだ。
◇ ◆ ◇
記者はこれまで、「根上り」は〝音を上げる〟と同じ、樹木が高齢化し、死期に近いことを知らせるシグナルかと思っていたが、そうではないようだ。重い幹を支えるのに太い根を張る必要があるという近田氏の説明は明快だ。根上がりがしても大丈夫なよう舗装方法を改善せよという近田氏の指摘は検討に値しそうだ。
そして、近田氏の次の言葉がぐさりと胸に突き刺さった。
「樹木医? 木の病気を診断するのだろうが、私は木全体を見ているし、森も見ている。そして何より人間を見ている」
何の学問もそうだろう。すべては人間のためであり、人間もまた自然に生かされているという視点が大事なことを改めて教わった。「ダメな木は1本もない」というのは「ダメな人間は一人もいない」に通じるのだろう。
近田氏は記者より8歳も年上だが、スニーカーを履いた足取りも軽く、みんなを先導した。来年には天山山脈の西にあるカザフスタンを旅するのだそうだ。
近田氏に「千代田区の森と街路樹が東京を潤す」と題した6ページの小論文を頂いた。葉の形・大きさ・働きについて書かれた部分を紹介する。
「カシワの葉は大きな鋸葉と短い葉柄があり、長さ10~30㎝と大型で、風を受けて鋸葉と葉柄が動いて空気の波を作り葉の周辺の太陽熱を逃がす。…街路樹ではこの働きが扇風機の役をして空気が涼しくなる」
街路樹の伐採中止・保存求める陳情書を採択 千代田区議会 企画総務委員会(2016/10/17)