フージャースコーポレーション営業企画部長・友野珠江氏(41)
フージャースコーポレーション営業企画部長・友野珠江氏(41)に突撃インタビューを敢行した。当欄既報のつくばエクスプレス柏たなか駅圏の「トレジャーランドプロジェクト(デュオヒルズ・ザ・グラン)」(253戸)を取材したとき、その場で取材を申し込み即決してもらった。
テーマは〝業界を元気づける〟。この沿線に限ったことではないが、いま郊外マンションは価格下げ圧力が強まる一方で、どこも青息吐息。死屍累々の惨状を呈している。
「柏たなか」は例えていえば荒涼たる砂漠、はたまた北の果ての極寒の地だ。そんな不毛の地に正気の沙汰とは思えぬ大量253戸を同社は敢然と供給した。
見学する前は絶望感が支配したが、モデルルームを見て、ひょっとしたらあのリーマン・ショックでV字回復を成し遂げた同社のノウハウ・販売力、友野氏の〝元気〟をもってすれば劣勢を一変させるのではないかという予感・希望が記者に芽生えた。
同業の皆さん、以下の友野氏の〝元気〟を煎じて飲もうではないか。やればできる勇気が湧いてくるはずだ。「女性活躍」などという奥歯にものが挟まった、糖衣でくるんだ万金丹の類の話ではない。( )は記者。
沈滞ムードを吹き飛ばすか フージャースコーポ「柏たなか」(2017/3/17)
◇ ◆ ◇
-まず「柏たなか」の商品企画から
友野 わたし心配性でして(とてもそんなに見えない)。とにかく不安で、沿線の物件がばたばた倒れちゃう状況を見て聞いて、普通にやったら完売まで5年かかってしまう 、この危機感が商品企画と広告やチームのマインドに火をつけたというのが正直なところです。
みんなで話し合ったんです。同じことやって、こっちが大成功あっちが大失敗になる確率って低いよねと。だから努めて前向きに対応し、今までにないものを作ろうと考えたんです。それがあの企画と販売事務所とモデルルームになったんです。
つくば沿線は供給ラッシュで、駅ごとに大きな物件が2棟くらいあり、注目されていますが、「柏たなか」は誰も降りたことない(記者もそう)。最後のサンクチュアリみたいな取り残された駅。(利根)川を渡り一駅先はもう茨城。国境の街みたいなところ。でもポジティブに考えれば、最後の砦は〝ここは千葉県の入り口、つくばの最前線〟というポジショニングになる。これをしっか打ち出そうと。
幸い、大京さんが何もなかった10年くらい前、駅前で素敵な「ライオンズ柏たなかステーションプラザ」(83戸、2009年竣工)を分譲されていて、とても参考になりました。ライフステージにあった方を呼べたんだろうと。
この駅の最前席に立つということは、駅格とかエリア格になる先頭バッターになること。だから妥協せず、使命感を持って色付けしないといけないとずっと考えていました。
この不安感と使命感とが交錯していたときです。チームの広告担当者に相澤という32歳の女性がいるんですが、その相澤に「柏たなかでやるから担当よろしくお願いします」と話したら「ありがとうございます!」と快諾してくれたんです。ああそうか、こっちは不安でいっぱいなのに、何も知らない彼女にとっては大きな仕事の役割をもらってデビューすることはそんなにうれしいことなんだと。その声を聞いて吹っ切れましたね。チーム全体が元気出ちゃった。
-わたしが担当者だったら引けますね
友野 そうですよね。なんで1万㎡も買っちゃったんだろうと。普通はひるみますよね。繰り返しになりますが、だから誰も見たことのないものを作ろうと。どこに対しても圧勝できるものにしようと。プレハブ(販売事務所)もそう、シアターもそう、模型もそう、モデルルームもそう。みんな初めて見るもので固めようと。これが一貫したテーマです。
-真っ暗闇の演出、アニメのシアター、プロジェクトマッピングがよくできていました
友野 暗闇の演出も相澤の提案です。いまのマンションギャラリーは何から何までみんな一緒。買ってください買ってください、うちが一番というものばかり。それってもうおなか一杯。今回のギャラリーは滞在型で長い時間いらっしゃっていただくのだから、最後は家族みんなで笑ってください、奥さん笑ってください、お父さんも笑ってくださいと。アニメにしたのも、「君の名は」もそうですが、アニメはもはやオタクだけのものではなく広く一般に理解度が深まっており、共感を呼びやすいですよね。
-販売事務所やモデルルームに造花でなく生花を飾っていたのもよかった
友野 みんな生花です。うちの〝神〟と呼ばれる営業マンは「販売センターは生きものだから必ず生きものを入れなさい。花を愛で、育てる気配りができる人間になりなさいと」と仰いました(記者は若いとき〝花を愛せる人になって〟と女性に捨てられた。立ち直るのに3年かかった)。ですから当社は基本的に生花を飾るようにしています。根を詰めて話しているとき、花や緑が目に入ることでお客さんはほっと一息つける。男性社員もきちんと水遣りするように教育も行き届いています。
-御社は社員の女性比率(40%)が高い会社として知られ、商品企画にも生かされているが
友野 専有部分でものづくりをしっかりやっているところが減っています。最近はどこも女性チームを作っていますが、姉が妹へというように継続させるのが難しい。どうしてだろうと考えたんですが、事業部制にすると担当ごとに変わってしまう。商品企画のDNAが伝承されない。それと彼女たちには決裁権がないんですね。ここが問題ですね。
弊社はフラットだから、わたしのようなうるさ型が「ここが削られるとうちらしさがなくなります」というと通ります。やったからにはきちんと営業マンがお客さんに伝えなきゃなりませんから、営業マンがセールスできるように教育しないといといけない。そのツールも大事です。
-友野さんの入社以来のキャリアについて
友野 営業企画が最初で広告宣伝をずっとやっていまして、その幅ががばっと広がった感じですね。ただのチラシ屋、看板屋では全くダメと気が付いて、商品企画とか販売戦略へと、川下から川上に上ってきました。パースを描くにしてもものを知っていないと美しいパースを描けないし、売り方についてもお客さんを知っていなければ販売戦略を立てられないのと一緒です。
-2008年のリーマン・ショックの時はもうおしまいかと思いました。ところが2010年にV字回復。不死鳥のようによみがえった。この年の株価上昇率は342倍でした
小池 わたしは2008年入社です。
友野 彼女たちは不幸でしたね。その時の社員は3分の1に減っちゃった。
リーマン・ショックのとき生き残れたのは、お客さんのことを語れて、お客さんに近い会社で販売力があり、正面から販売代理の事業主様にきちんと説明できたことが大きかったと思いますよ。あのとき助けていただいた事業主体には感謝しきれません。
-わたしも大丈夫かと思いながら見学しました
友野 「ザ・クイーンズガーデン稲毛」(稲毛バス16分、278戸)、「デュオヒルズつくば学園都市」(つくばバス10分、234戸)、「プレミアムフォレスト」(柏バス10分 、182戸)など4物件を中心に3カ月で2,000件の来場者集めろというミッションがあったんですが、あのときは本当に火事場の馬鹿力で集めて売りましたね。
-女性活躍も大事だけど、男も含めて働き方を変えないと。本来、そんな言葉はなくさないといけない。御社には昇進、昇給などの男女差別は全くないですか
友野 わたしは人事評価会議にも出ていますが、昇進、昇格での男女差別は全くないですね。
子育てだろうが介護だろうが、男性でもそうするのが当たり前という風土があり、常態化しています。(保育園の送りなどで)9時半に出社してもだれも何も言わない。フラット、風通しがいいと情報が抜けるんですよね。廣岡社長も子育てに積極参加されているので社員も見習いやすい。
乙部 小池 友野 女性の活躍についてメディアの方によく聞かれるですが、もともと活躍しているのにそういうこと言われると逆に違和感を覚えますね。
男女平等というと、女性が男性に合わせるイメージが強い。メディアもそう取り上げる。しかし、それって違うんじゃないかと。バリバリでなく普通に働いているのに、それが新しいと言われるとそれも違和感ですよね。
友野 マスコミに登場するいわゆるバリキャリ女性は〝わたしは当たり前にやってきた〟とおっしゃいますが、すごく歯を食いしばって言っているなと感じますね。絶対この方、以前の勝間和代さんみたいに死ぬほど働いているに違いないと。そういう部分って出ちゃいますよね。ある会社に勤めている知人の女性が上司の女性に怒られたとき〝わたしは出産をあきらめてここまで来たのよ〟と言われたそうです。えっ、女性同士そんなことまで言うのと驚いちゃいました。これは断ち切らないといけない。
-わたしはインタビュー記事では年齢を入れるようにしています。二文字で済む。読者は自分より上なのか下なのか、その人の生きてきた時代背景も分かる。友野さん、どうです?
友野 いいですよ。41歳です。〝性別も年齢も突破できれば生き残れる〟-これが私のテーマ。人徳を積めば性別も年齢も関係ないと思いますね。
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インタビューは、フージャースホールディングス広報・IR担当の乙部真理氏と小池彩子氏も参加して行った。女性が3人集まると姦しいとはよく言ったもので、記者が質問しなくても実によくしゃべる。言葉一つひとつが新鮮、吟醸酒を飲んでいるように気分がよかった。その場の雰囲気が伝わるように、記事は手を加えずなるべく話した通りに書いた。
「女性活躍」なる言葉は、女性が活躍できていない性差を受けている社会だからこそ大きなテーマになっているのであって、本来的にはそのようなフレーズはあってはならないし、死滅させないといけない。
今回、同社の友野氏にインタビューをお願いした目的は、比較的差別が少ない会社で、しかもマンションの心臓部ともいうべき商品企画部の部長をされているからであって、その企画はどうして生まれるのかを聞くためだ。〝男女の差別をなくせ〟などと大上段に構えて書くつもりは最初からなかった。
結果は大成功。友野氏や乙部、小池氏から発せられる言葉は、経営者や役員、商品企画担当者、さらには女性の方にも五臓六腑にしみわたるはずだ。一語一句をかみしめていただきたい。
メディアで取り上げられる女性活躍の〝見本〟のような人が「痛々しい」と彼女たちに映るのはなぜか、これは男も考えたほうがいい。記者も含めひょっとしたら男に都合のいい視点でしか女性を見ていないのではないか。〝出産をあきらめて頑張る〟-これは〝保育園落ちた。日本死ね〟と同じ。女性の置かれている立場を如実に現わしている。
友野氏は「パースを描くにしろそのものを知っていないと描けない」と話した。これも真理だ。レオナルド・ダ・ヴィンチが絵画を描くために解剖学を学び、筋肉や腱、臓器まで克明にドローイングしたことはよく知られているが、ものを知るとはそのようなものだ。記者の経験でいえば、リッツ・カールトンの「クレド」は宿泊することで深く理解できたし、マンション管理員の仕事が「科学」であることも1日講習を取材したからわかったことだ。
これは今回の取材と関係ないが、実に腹が立つ許せない事実について触れておく。ある東証一部上場会社の女性役員が忽然と消えたことだ。その前に男性役員が退任したときはきちんと有価証券報告書に記載していたのに、その女性役員が退任したときは全く記載されなかった。監査人は「知らなかった」と話した。記事にしようと思い原稿を書いたが直前でやめた。ご本人に迷惑を掛けたくなかったからだ。
これはおまけ。記者の信条は〝人生は愛〟、モットーは〝記事はラブレター〟。好きな女性は〝みんな好き〟。友野さんのような業界の女性は男性よりはるかに仕事ができると確信している。他では、一番にしないと怒られるからかみさんだが、昔の人では平塚らいてうと市川房江。作家では野上弥生子、宮尾登美子、小池真理子、それと家父長制度の生け贄になった金子みすゞ。女優では吉永小百合さん。最近ではNHKキャスターの鈴木奈穂子さん。〝しっかり考えなさいと〟目で語るのが素敵だ。
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ここまで辛抱強く読んでくださったわが業界の良識人には良薬は口に苦しの記事にはなったはずだ。万金丹はわが故郷・伊勢の万能薬です。