もうすぐ喜寿(77歳)を迎えるというのに、忙しい仕事の合間を縫って趣味の〝モグリ〟(スキューバダイビング)に近年は年間約70回、この21年間に約1,100回も海外に足げく通っているマンション業界のご意見番、トータルブレイン・久光龍彦社長に話を聞いた。
最近のマンション市場や業界の課題などについては、記者が書く記事より「週刊ダイヤモンド別冊」(2017年5月27日号)を読んでいただきたい。極めて的確に供給動向、販売状況、建築費の動向をとらえていらっしゃる。
いまの市場をけん引している〝元気印〟ユーザーは①パワーカップル(共働きの年収2,000万円以上の層②アッパーミドル(上場企業に勤務するサラリーマンや、その親の支援が受けられる層③アクティブシニア④可処分所得が多いシングル層⑤景気の動向などあまり気にしない富裕層-というのはその通りだと思う。こうした層にターゲットを絞り、ニーズをくみ上げ、あるいは掘り起こせば売れ行きは堅調に推移する。
問題は、圧倒的な需要層である第一次取得層向けのマンションの動向だ。久光氏は「そうした層の取得能力は坪単価180万円、グロスにして3,600万円前後だが、建築費の高騰などからいまは70㎡台で坪単価は210~220万円、グロスで4,600~4,700万円になっている。つまり、売り値を15%下げないと、雇用や社会保障など将来不安を抱える中小企業などに勤務するサラリーマンは買えない」と指摘する。
では、分譲価格は下げられるかどうか。久光氏は厳しいとみる。今は専有面積圧縮やグレードダウンなどでグロス価格を抑制しているが、分譲価格に占める建築費の割合が高い郊外部=第一次取得層向けは国の働き改革圧力が強まることによってゼネコンも労務費などを建築費に転嫁せざるを得なくなるというのだ。
久光氏がもっとも懸念するのは土曜日を休日にする動きだ。オリンピック関連の工事が終了する2~3年後は週休2日が建設業界でも始まるという。職人の給与は日給・月給だから、就労しなくても賃金は下げられず、工期は長くなり、コストアップにつながる。価格に転嫁せざるを得なくなる。
ところが、先に書いたように中堅サラリーマン(言われるところの「ミレニアル世代」)の取得能力は一向に上がる気配がないから、利益率を下げざるを得なくなるという図式は避けられない。
「デフレ脱却は絶望的。建築費は下がらない。若年層の購買力は上がらない。消費増税が待ち構える。オリンピック後が心配だ」と〝元気印〟の久光氏はペシミスティックに捉える。
記者も同感だ。われわれ団塊の世代も若い時は生活が苦しかった。しかし、まじめに働けば賃金は上がるという明るい未来像が描けた。いまのミレニアル世代は、現在の生活に満足していながら将来の雇用や社会保障に漠然とした不安を抱える。消費については常にマイナス思考だ。この意識(社会)を変えないとマンション市場は先細る一方だろう。
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「建築費は下がらない」根拠として、日本建設業連合会(日建連)・中村満義会長が3月28日付で政府の「働き方改革実現会議」についてコメントを発表しているので紹介する。
「本日(3月28日)、政府は『働き方改革実現会議』においてにおいて、『働き方改革実行計画』を策定されました。
その中で、これまで、時間外労働の上限規制の適用除外であった建設業についても、5年間の猶予期間をおいて適用することになりましたが、日建連としては、建設業における担い手確保のためには、長時間労働の是正は不可欠であるとの石井国土交通大臣の強いご指導に従い、政府の方針に従うことを決断いたしました。
建設業の長時間労働の是正には週休二日の定着が必要でありますが、週休二日を定着させるには、工期の延伸などの困難な課題があり、政府に対して官民の発注者をはじめ、社会全体に受け入れていただくことが前提であると申し上げたところ、政府としても必要な協力を惜しまないと、総理からも表明していただきました。
建設業としては、この政府の決定を真摯に受け止め、長時間労働の是正に精いっぱい努力してまいります」