旭化成不動産レジデンスは9月5日、わが国初の民間分譲マンションといわれている「四谷コーポラス」の建て替え事業説明会と現地見学会を行った。従前建物は築61年で、5階建て全28戸。建て替え後は地下1階地上6階建て全51戸(販売戸数27戸)となる。分譲開始は来春、竣工は2019年夏の予定。
説明会に臨んだ同社・池谷義明社長は「当社としては29件目の建て替え案件だが、このマンションが竣工した昭和31年8月は私の誕生日と一緒、同級生。縁を感じる。黎明期のマンションの建て替えを担当することは光栄」などと語った。同社は6社の事業者選定コンペで選ばれた。
建設当時の売主・日本信販の元社員で、四谷コーポラス建替え事業顧問を務めるトウザイコーポレーション・川上龍雄会長は「居住者の横のつながりが強かったのが合意形成できた要因」と話した。
また、同社の建て替え事業の研究をしているっている関東学院大学・前橋工科大学非常勤講師の志岐祐一氏は「容積率などの緩和を受けられない案件をよくまとめた。川上さんのコンサル力が大きい。さらに、マスコミや一般の方々にきちんと経緯などを伝えることも評価したい」と述べた。
建物は一般にも公開される。
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四谷コーポラス管理組合理事・建替え推進委員会の島田勝八郎氏(71)が、説明会場にたくさん駆け付けていた記者の多さに驚いたのか、「私が小学5年生のとき引っ越してきた。こんなに注目されているマンションであることを初めて知った」と語った。
記者の数はたしかに普段より多かった。80名くらいいたのではないか。その数に小生も驚いたが、これは〝民間分譲マンション第一号〟の力と旭化成ホームズの〝動員力〟の相乗効果だろう。
実は、記者はこのマンションについて35年前、昭和57年(1982年)6月24日付「週刊住宅」に全8段の記事を書いている。取材には1週間くらいかけ、7~8人に取材した。古いマンションの耐震性はもちろん間取りの陳腐化、給排水管の劣化が当時としても問題になっており、分譲マンションの将来を占う意味でこの〝民間分譲マンション第一号〟を取り上げたのが取材の狙いだった。管理がしっかりしており、コミュニティが機能していたのもよく覚えている。
〝 〟書きにしたのは、果たしてこのマンションが本当に第一号かどうか確信できなかったからであり、いまでも自信がない。旭化成ホームズも断定できないようで、プレスリリースには「第一号といわれている」となっている。
しかし、草分けマンションであるのは間違いないし、建て替えて再生されるのはとてもうれしい。敷地形状などから判断して建て替えは難しいだろうと当時も考えた。
さて、建て替えられたらいくらになるかだ。同社開発営業本部第二営業部・花房奈々氏は「価格は未定。周辺相場くらいで売りたい」と明言を避けた。
しかし、この〝周辺相場〟が曲者だ。周辺に競合する物件は皆無だからだ。強いてあげれば、ここ1~2年、四谷駅圏で分譲されたマンションは坪600~650万円。〝民間分譲マンション第一号の建て替え〟という全国から注目されるはずの価値・訴求力も加味し、さらに周囲の環境(再開発エリアに近接しているが)、敷地形状などを考慮してアッパーで坪570万円、ボトムで坪520万円と予想する。あまり自信はない。いまの建物から建て替えマンションに意匠などとして残せるものはまずない。ずっと記憶に残るようなデザインを期待したい。
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現況の建物も見た。当時としては最先端の斬新なプラン、デザインであったことは容易に想像がつくが、よくもここまで住んでこられたものだと感嘆した。
生ごみ水切りや米びつがあったのにはびっくりした。東側窓に取り付けられていた木製の格子デザインの網戸もなかなかよかったし、薄っぺらな鋼材ではあったが、玄関周りのブルーのデザインもおしゃれだった。
それにしても、居住者のみなさんはお金持ちだったはずで、とっくに売り払うかどこかに引っ越されていると思ったが、2世、3世の方も結構いらっしゃるとか。再取得率が9割に達するという、これまた稀有なマンションだ。現居住者の半数以上が60代以上。法人所有は4名。
旭化成不動産レジ わが国初の民間マンション「四谷コーポラス」建て替えへ(2017/5/30)
昭和57年(1982年)6月24日付「週刊住宅」