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2017/12/02(土) 12:58

耐力壁ジャパンカップ 最後の第20回大会で最強壁をつくったポラス・大浦和香子氏

投稿者:  牧田司

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大浦氏

 阪神大震災後の平成10年、木造住宅の構造耐力向上、伝統工法の継承を目的としてスタートした「木造耐力壁ジャパンカップ」が今年の第20回大会をもって終了した。この最後の大会でもっとも強度の高い耐力壁としてトーナメント優勝した壁「SHINMEI」を作ったのはポラス暮し科学研究所の生産プロデュースグループ主任・大浦和香子氏だ。

 「昔からやってみたい壁の構想はあったのですが、ルールが変更になり、450ミリ×450ミリ以上の開口部を設置しなければならなくなり、大慌てで設計し、修正を加え3カ月で完成させました」

 壁は、伊勢神宮に代表される神明造の破風が伸びて千木となる形をイメージして作ったそうだ。材料は、土台がベイマツ集成材、柱・桁・貫がヒノキ、楔がカシ。

 「強いか弱いか、予測はしましたが、戦ってみないとわからない部分も多くて…勝因は斜材を土台・梁の部分まで通したのが効果的だったと思っています。またチームの皆が図面通りに精度よく加工・施工してくれて、耐震性で高得点したのがとてもうれしい」と振り返った。

 決勝戦で戦ったのは、矢はず張りのデザインが美しい、昨年度決勝戦で敗れた〝宿敵〟の「メケメケ」だった。参加者の多くは昨年度覇者の「メケメケ」の勝利を予想していたようで、それを覆しての勝利だったのがポラス関係者を喜ばせた。

 それでも大浦氏は「デザインで点数が伸びなかった。総合優勝できなかったのはそのせいかもしれない」と悔しさをにじませた。

 上司で同研究所生産プロデュースG主席研究員・上廣太氏は「この壁は、“固い”? それとも“堅い”? そうではなく〝手堅い〟」と大浦氏の作品を評した。

 大浦氏は2003年、木質構造研究室院を経て同社入社。以来、同研究所勤務。耐力壁ジャパンカップにはずっとスタッフの一員として参加してきた。昨年、トーナメントで優勝を逸し、今回、設計を担当することになった。

 大会はトーナメント戦を勝ち抜いたもっとも強度の高い耐力壁に贈られるトーナメント優勝と、強さ(耐震評点)に加えて環境負荷費、デザイン評点、材料費、加工費、施工費など総合的に優れた耐力壁に贈られる総合優勝(ジャパンカップ)の2つのタイトルがある。毎年、大学、専門学校、住宅関連企業、設計事務所などが参加している。今年は静岡県富士宮市の日本建築専門学校で開催され、13体の耐力壁が出場した。同社チームは今回を含め8度トーナメント優勝している。

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上廣氏(左)と大浦氏

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◇       ◆     ◇

 インタビューは、大浦氏のほか、上廣氏、同社広報担当者を交え約1時間、侃々諤々の論議を行った。

 冒頭のインタビュー記事はそのごく一部だ。同社チームは職業訓練校も含めて第4回大会から出場しており、今回で8度目のトーナメント優勝であり、〝女性〟の大浦氏が設計を主導した初めての耐力壁であることに〝価値〟があるのは確かだ。

 戦った相手は東京都市大学、東京大学、東京工業大学、東京理科大学、滋賀職業能力開発短大など上司も苦汁を飲まされてきた男性のその道のプロばかり。若い女性の大浦氏がそれらを打ち負かしたのだから、マスコミ受けするトピックスでもある。

 しかし、どうして20年も継続して行ってきた大会が終了となるのか、この間の成果、課題は何だったのか、今後はどうなるのか最大の取材テーマだった。男性vs女性などの視点から取材する意図は全くなかった。

 取材の成果は十分あった。例えばデザインとは何か。これは永遠のテーマだ。小生は、「美しいものこそが機能的だ。機能的なもののみが美しい」と語った丹下健三を支持するのだが、その伝でいえば、今回優勝した「SHINMEI」がもっともデザイン的に優れているということになるのだが、そうならなかった。もっともデザイン的に優れていると評価された壁は「紬~final~」の81点で、「SHINMEI」は68点だった。

 記者個人は、見た目が一番美しいと思う「rhombus」は0点(予選敗退したため)だし、黒い鋼板を採用したポラスハウジング「わでぃん」は他を圧していると思ったが60点(これも決勝トーナメント初戦で敗退したから低得点は納得)だった。

 この点について上廣氏は「どうしても主観が入る」と語り、大浦氏も「デザインは狙っていませんでしたが、大差をつけられた。これが敗因かも」と振り返った。

 機能的=美しいと評価されなかった。耐力壁ジャパンカップもこの永遠のテーマに正解を出すことができなかったということだ。(記者は〝馬子にも衣裳〟を信じない。大事なのは美醜を分ける眼力だ)

 このほか、レギュレーションが毎年のように変わる問題、ケヤキ、クス、クリ、サクラ、カシ、コクタンなどの高級材が利用できない理由、CLTは輸送に問題があること(現場施工ができない)、金物は悪か(記者はハイブリッドがいちばんいいと思うが)、安全性は担保されているか、解体を採点項目に加える是非、大会会場の利便性などについてもたくさん聞いたが、今回はこのあたりにとどめる。

 大会事務局は20年間を振り返って記念誌を発行する予定のようで、しっかり検証していただきたい。来年から装いを新たにスタートする大会は、「安全性が確保され、だれでも参加できるシンプルな規定にして、便利なところでやっていただきたい」と上廣氏の言葉と同じだ。

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アキュラホーム 第20回木造耐力壁ジャパンカップで総合優勝 大会はいったん幕(2017/9/25)

 

 

 

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