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2018/02/05(月) 21:09

あの熱気どこに 多摩市 第5回 多摩NT再生プロジェクトシンポ

投稿者:  牧田司

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第5回「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」(パルテノン多摩で)

 多摩市は2月3日、第5回「多摩ニュータウン再生プロジェクトシンポジウム」を開催した。関係者ら約160名が参加した。

 3部構成で、第1部では多摩市ニュータウン再生推進会議 職務代理者の西浦定継氏(明星大学教授)が「諏訪・永山まちづくり計画について」及び「PDCAサイクルについて」報告し、第2部ではカルチャースタディーズ研究所の三浦展氏が「2040年の社会をデザインする~郊外を脱して、本当の街へ~」と題する基調講演を行い、第3部では、同会議委員長の上野淳氏(首都大学東京学長)がコーディネーターを務め、西浦氏、三浦氏、市民委員の松原和男氏と井上亮氏、阿部裕之多摩市長がパネリストとなって座談会を行った。

 開会の挨拶を行った阿部市長は、小田急線が2018年の複々線化の完成により利便性が高まり、京王線も座席指定の「京王ライナー」を2月22日から運行することを受け、「多摩ニュータウンの再生を後押しするもので大変うれしい。多摩市の健康寿命は男性が83歳、女性が86歳で東京トップ。小学校での英語教育を強化するなど学びの場として、また緑の環境も整っている」とし、座談会では今後は大学やUR都市機構などとの連携を強化し、シェアハウス、海外留学生の受け入れ、女性が安心して住めるネットワークを構築し、「他の街に勝つとか負けるとかではなく、自然に選択され浮上する街の取り組みを強化する」などと述べた。

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阿部市長

◇       ◆     ◇

 再生会議に期待するからこその苦言を以下に呈したい。

 まず、気になるのが参加者の少なさだ。記者も第3回まで取材しているが、ほぼ満席の250~300名が集まっていた。第4回は都合で傍聴しなかったが、今回は空席が目立ち、第3回の半数の約160名(主催者発表)しかいなかった。報道陣も記者を含めて2~3人という少なさだ。

 西浦氏も話したように、諏訪・永山などの再生プロジェクトは進展がみられないからかもしれないが、当初のあの熱気はどこに行ったのか。

 ここで、「公・民・学」が連携して壮大な次世代型都市づくりが進められている「柏の葉スマートシティ」と比較しても詮ないことだが、多摩NTには再生のエンジンとなる民(デベロッパー)がいないのが最大の欠点だ。

 次に講演者の人選。シンポジウムの第1部で西浦氏は「わたしも三浦さんの話を聞きに来た」と話した。シンポジウムの終わりには副市長の永尾俊文氏も「目からうろこ」と三浦氏を持ち上げた。これは外交辞令お世辞だと思うが、もし本心なら「会議」のあり方そのものが問われる。記者もそうだが、参加者はみんな「会議」のメンバーが何を話すか聞きたかったはずだ。

 三浦氏の招へいは「三浦さんの本はいつも読んでいる」阿部市長直々の口利きのようだ。パネリストも含め参加者は「三浦さんの話が面白かった」と口々に語ったように満足されたのだろう。

 しかし、記者は首をかしげざるを得ない。三浦氏は本人もしゃべったように俗耳に入りやすい「(面白い)情報を売るのが仕事」だ。独自の分析はあるが、あれやこれやのデータを寄せ集め、あちこちの「成功事例」をかき集め、どこでもできるかのように論じる、所詮は講釈師といっては失礼か。第1回目のシンポでは「多摩ニュータウンの魅力を発信していく」ことで合意に達したのではなかったか。面白くて人を集めるのが目的であれば落語家か芸能人でもいい。

 いま「会議」に求められているのは、できることからすぐに手を付け実践することだ。人選にも事欠かないはずだ。地元にしっかり根を張り活動している団体・個人はたくさんいる。そうした人たちの悩み苦労をじかに聞くほうが参考になる。

 会議の市民委員でもある松原和男氏が「働く女性に参加してほしかった」「主要プロジェクトは見えてきたが、果たして市民にとって身近なものか。やや違う気もする。もっと市民の中に入っていくべき」と語り、同じ市民委員の井上亮氏も「見栄えだけでなくシェアしたりかけ合わせたり、無駄を省くなどしたりする四則演算が大事なことを学んだ。魅力的な街は100人いれば100通りのイメージがあるはず。会議の回数が増えるごとに方向性が見え、会場が満員になるようにしたい」と感想を述べた。

 その通りではないか。前回もそうだったようだが、あれこれの雑誌が垂れ流す根拠があいまいな「住みたい街」やら「住んでみたい街」「働く女性が魅力の街」「住みよさランキング」などに多摩ニュータウンが入っていなくとも、市民のほとんどは「それがどうした」と答えるはずだ。

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左から三浦氏、松原氏、井上氏

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◇       ◆     ◇

 かなり批判的なことを書いたが、うれしくなる、なるほどと得心する発言もあった。

 第3部の座談会でコーディネーターを務めた多摩ニュータウンに住む首都大学東京の学長・上野淳氏か「多摩ニュータウンは郊外の街のチャンピオンとして生き残る。人材は豊富だし何よりも美しい緑、自然、オープンスペースがある。もし多摩ニュータウンがダメになるときは、日本全体が普遍的にダメになるということだ」と発した。

 これを少し補足する。4年前、都庁で行われた首都大学東京の「リーディングプロジェクト最終成果報告会」を取材したとき、「上野氏は多摩ニュータウンの賦活について、『世界的に稀有な事例』である公園・緑地をペディストリアンで結ぶ緑のネットワークや歩車分離の街づくりをどう継承していくかが鍵だと語った。また、高齢化やバリアの解消などの課題はあるが、多様な主体が主役になる街づくりを行なえば未来都市・多摩ニュータウンには大きな可能性があると力説した」と記事にした。

 上野氏のような人がいる限り、楽観はできないかもしれないが、多摩ニュータウンの未来は希望が湧いてくる(上野氏は「私は福祉亭に焼酎のボトルをキープしている。どなたでも寺田さん(理事)に言って飲んでもらっても結構」と話したが、福祉亭を利用するためのタクシー代のほうが高くつく。それより、上野氏には〝金づる〟となりそうなデベロッパーをひっぱりこんでいただきたいのだが…)

 もう一つ。西浦氏が「持続可能な社会にするため、なにがあっても多摩ニュータウンに住めるセーフティネットを考えたい」と座談会で示唆した。

 これについては、多摩市も「健幸都市(スマートウェルネスシティ)」を目指し「多摩市版地域包括ケアシステム」を立ち上げたが、多摩ニュータウンにはどこにも負けない自然・人的資源がある。三日三晩、電気、ガス、水道が止まろうと、乞田川の水を浄化できれば水は確保できるし、煮炊きだって、生物多様性にいささかも影響を与えない薪を「第31回緑の都市賞」総理大臣賞を受賞した多摩グリーンボランティア森木会が調達してくれるだろうし、市内には炭焼き名人も住んでいる。食べ物だってフキノトウ、ユキノシタなども無尽蔵だ。

 そこで、西浦氏に注文したい。多摩エリアにある26の大学教授が給与の1%でいいからそれぞれの駅のカフェ・飲食店に寄付し、著作も読め、地域通貨として利用できるようにすれば、多摩に移り住む学生・市民が殺到するはずだ。

 教授にもポイントを付与し、利用度の高い店は講義を免除し、提出論文の数にも便宜を図れば、教授の働き方改革も一挙に解決する。

 生まれ故郷の新潟の酒蔵とコネがありそうな西浦氏は、本業などそっちのけで酒の伝道師として生きていくことができるのではないか。

 阿部市長にもお願いだ。どなたかに「母になるなら、流山市。」を上回るキャッチフレーズを求められた。是非とも作っていただきたい。北区は昨年、漫画家を起用して「住めば、北区東京。」のブランドメッセージを打ち上げた。また、不動産コンサルの長嶋修氏が「マンションは足立区に買いなさい!」なる帯付きの本を出版した。

 記者は、多摩市は流山や北区、足立区より圧倒的にポテンシャルが高いと思う。新築分譲はこれからあまり期待できないが、「中古を買うなら多摩市」のキャンペーンを張ろうかしら。

 記者は下記に示しように、これまでの10年間で多摩ニュータウンに関して少なくとも10本以上の記事を書いてきた。読者の皆さん、記事を読んでいただき、コピー&ペーストでもいいですからどうか多摩の魅力をRBAをご存じない方に発信していただきたい。

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上野氏(左)と西浦氏

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