「子どもたちに希望と笑顔を贈るこすもす公園」(写真提供は藤井氏)
ハウジングアンドコミュニティ財団は9月1日、平成29年度「地域・コミュニティ活動助成事業」の対象となった10団体の活動成果発表会&まちづくりNPO交流の集いを開催し、関係者ら約100名が参加、様々な社会課題を解決するのは経済価値では計れないコミュニティ活動の力であることを確認しあった。
同財団は、住まいとコミュニティづくりに必要な施設の調査研究、技術開発、デザイン開発、政策提言や、これらの諸活動を支援することを目的に平成4年(1992年)に設立。理事長には大栗育夫氏(長谷工コーポレーション代表取締役会長)が就任。これまでNPOや市民活動団体に延べ378件の助成を行っている。平成30年度は全国40都道府県から166件の応募があり、合計20件が助成対象団体に選ばれている。
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集いは、早稲田大学教授・卯月盛夫氏の「コミュニティ活動からの地域づくり-その新しい潮流」と題する基調講話から始まり、各団体が10分間プレゼンを行い、選考委員らがコメントする形で進められ、合計で約4時間にわたって行われた。
ここで一つひとつ紹介するゆとりはない。記者がもっとも驚いたのは、震災後に自らの田んぼ(3,000㎡)を地域住民に開放し、「子どもたちに希望と笑顔を贈る(私設)こすもす公園整備活動」をしている岩手県釜石市の藤井了さん(72)の報告だった。まず、これから紹介する。
藤井さん夫婦はその日、窓口が閉まる午後3時に着けるよう銀行に急いでいた。「グラッグラッと来た。これは大きい、きっと津波が襲ってくる、とっさに判断して逃げた。あと5分逃げ遅れていたら、この場で皆さんにこのような報告はできなかった」と切り出した。
震災後、学校や公園などの広場はことごとく仮設住宅になった。遊び場さえも奪われた子どもたちのストレスが溜まっていることに心を痛めた藤井さんは「生かされた者として何かみんなのために貢献したい」と思い、自分の田んぼを子どもたちに開放することを決断した。震災前、田んぼにコスモスを植え、摘むのを自由にしていた経験がヒントになった。
ボランティアなどのスタッフは5名。公園整備に当たっては、怪我のないよう、また耕作に影響を与えないようクギや石の使用は避け、木造チップを敷き詰め、パートスタッフが遊具の点検や草取りを入念に行った。
様々なイベントや体験学習なども積極的に行った結果、年間の来園者は約5万人にのぼっている。
藤井さんは「公園の維持管理には毎年約200万円かかる。震災後の7年間のうち5年間は民間の助成で運営してきた。わたしは元県の職員。県も(財政的に)大変なのがよくわかっている。だから(助成してとは)頭が下げられない」と話した。
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都市公園に関する、とりわけ利用者側の視点に立ったデータは少ない。国土交通省の「平成26年度都市公園利用実態調査」では、全国53の2,500㎡が標準規模の街区公園の1日当たりの利用者数は約220人(年間約80,000万人)という数字があるが、人口約12万人の小金井市の小長久保公園(2,464㎡)は40人(同約14,600人)、三楽公園(3,473㎡)は144人(同約53,000人)というデータもある。
釜石市の人口は約3.5万人だ。同市都市計画課管理係は「統計を取っていないので分からないが、その規模で年間5万人の来園者というのは他市も含めて極めて稀なケースではないか」と話している。
都内でもっとも都市公園が充実していると言われる多摩市の公園緑地課担当者は「それはすごい。3,000㎡というのは街区公園の広さ。総合公園の多摩中央公園(98,500㎡)でも〝遊ぶ〟でくくったらそんなにないのではないか」と驚いていた。
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記事を書き上げた今、胸にこみあげるものがある。震災は言語に絶する被害をもたらした。九死に一生を得たその被災者が「生かされた者として何か貢献できないか」とすぐに立ち上がり、子どもたちに希望と笑顔を贈る活動を始める-NPOの活動家にはこの種の考えの方をする人が実に多いのだが、「強か」とはこういう生き方を言うのか。絶句するしかない。
平成31年度の国土強靭化のための予算要求は約4.9兆円だ。このうち人材育成にはどれだけ配分されているのか。東北には自然の猛威を「いなす」思想があることを思い出した。
「地域・コミュニティ活動助成事業 活動成果発表会&まちづくりNPO交流の集い」(御茶ノ水ソラシティで)