ナイス「経営方針発表会」(グランドプリンスホテル新高輪で)
ナイスは1月24日、ナイスパートナー会連合会と合同の「経営方針発表会」を開催した。恒例だった「新春経済講演会」を一連の事態を受け変更したもので、同社代表取締役社長・杉田理之氏が新生ナイスグループの経営方針を発表した。参加者は約1,600人に上った。以下、発言要旨。
信用と信頼の回復に努める
このたびの当社に起きた一連の事象につきまして、大変なご心配をおかけしております。現在、再発防止策を着実に進めているところでございます。
当社グループでは、倫理観、価値観、考え方、意識など、これまでに培ってきたアイデンティティーをゼロから見直し、その上で新たな未来を描いていきます。その中で「将来に残すべき良いもの」については、未来のナイスグループの礎として大切に育てていきます。ぜひとも、これまで以上のご支援を、宜しく願いいたします。今年2020年は、ナイスグループの創業70周年となる年です。この記念すべき年を、「新生ナイスグループ」誕生の年にするべく、販売店様、工務店様、仕入先様をはじめ、あらゆるステークホルダーの信用と信頼を、一日も早く、また着実に回復できるように努めていく考えです。
当社グループがまずなすべきことは、改善計画等の策定と実行を通じて、ガバナンス体制を全力で再構築することにより、将来にわたって持続可能な経営基盤を確立することだと考えています。コンプライアンスの意識を醸成し、公正な判断ができる、風通しのよい企業風土を構築していきます。
具体的には、組織のそれぞれの役割を明確にするために、本社部門の組織の構造改革等を実施しています。更に、すてきナイスグループ㈱とナイス㈱の二層構造によるガバナンスの機能不全を解消するべく、すてきナイスグループ㈱がナイス㈱を吸収合併し、社名をナイス株式会社へと変更する方針を決定しました。これに伴い3月中旬には臨時株主総会を開催する予定です。ガバナンスの強化と収益構造の再構築を推し進めるためにも、この二層構造を解消し、改めてシンプルで分かりやすいグループ体制とすることが極めて重要と判断し、両社の合併の方針を決定しています。
2020年の経済情勢
世界情勢は昨年後半から米中関係をはじめ不安な動きが多く見られ、新年早々には中東の緊張が急激に高まるなど不穏な動きを見せました。こうした中、世界経済には減速感が広がっています。ただし、現在は地政学リスクについては緩和傾向にあります。国内においては、いよいよ東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されます。日本銀行は、現在の大規模な金融緩和策維持を決定したほか、景気は好転するとの見通しを示しています。
こうした中、当社グループとしては総じて明るさが見られる1年になると考えています。新設住宅着工戸数については、東京五輪に伴う稼働日の減少や物流などの影響が顕在化した場合、下振れする可能性も考慮し、82~85万戸と予測しています。住宅資材市場は、地域格差はあるものの、駆け込み需要が見られた昨年と比較すると、総じて減少傾向にあると見込んでおります。
ただし、新築については依然として85万戸程度の着工が見込まれ、リフォーム市場は将来にわたって微増ながらも着実に市場規模を伸ばすと予測されています。更に、木材を切り口とした非住宅分野の広がりや、省エネ・断熱に対する施策とニーズの高まり、自然災害に対する国土強靭化施策等の拡大が見込まれており、これらの需要を最大限に確実に取り込むことで、期待できる1年になると考えています。また、東京五輪の関連施設に木材が多用されたことで、今後更なるプラスの効果が見込めるとも考えています。
また、今年注視すべきキーワードとして「5G」があります。働き方も大きく変革するでしょう。住宅業界においても、お客様への提案の仕方や、住まいに求められる立地、仕様、機能など、これまでの常識が全く覆ってしまうということもあり得ます。
ESGを踏まえた経営基盤を確立
こうした時代において、現在、企業活動に求められるのはESGであり、SDGsです。近年、日本各地での自然災害は頻発・激甚化しています。地球温暖化の影響とも言われ、「脱炭素社会」の構築に向けて、企業としても真剣に取り組まなければならないと考えています。
私たち住宅業界は、新築住宅における省エネ基準適合の推進、既存住宅の断熱改修などを推進していく必要があります。住宅の省エネ性能を高め、断熱性を向上させることは、人の健康にも大きな影響を与えることにもつながります。当社グループでは、今後も健康と環境にやさしい家づくり「スマートウェルネス住宅」について継続して取り組んでいきます。
また、令和となっても大地震の発生は切迫した脅威となっています。こうした中、住宅の耐震化は依然として課題となっています。住宅事業に携わる私たちにとって、住む人の命を守る家づくりは普遍的な社会的使命だと捉えています。当社グループは今後も引き続き住宅の耐震化に向けた活動を継続するとともに、耐風性能の向上、太陽光発電システム・蓄電池の導入の促進をはじめ、地域コミュニティーでの共助の推進など、激甚化する自然災害全体への対応に取り組んでいきます。
建築資材事業の事業方針
当社グループには、住まい・暮らしを取り巻く事業として、川上から川下まで、幅広い機能があります。今年は、改めて建築資材セグメントおよび住宅セグメントの総合力・シナジーを発揮することで、新しいお役立ちを積極果敢に行っていきます。
建築資材セグメントについては収益力の強化を見据え、「国産材の利用拡大と木材販売」「取引先様とのパートナーシップ」「木造非住宅分野への取り組み」「ストック市場への取り組み」の4点を新たな事業方針として掲げました。
このうち、「国産材の利用拡大および木材販売の拡大」については、「木材」の利活用を更に促進することで、事業の拡大と森林資源の循環利用へ貢献していく考えです。当社グループは、全国の優良な製材事業者様・プレカット事業者様との強力な関係性により、品質・価格・供給の3つの面で安定した国産製材品をコーディネートすることが可能であり、非住宅の木造化・木質化に必須となるJAS製材品や、森林認証材を全国47都道府県から調達する仕組みがあります。今後は、これらの取り扱いを更に強化していきます。
木質化の部材についても、商品開発・販売を強化していきます。都市部の木質化という点では、新築需要はもちろん、既存建築物の木質化という需要もあり、大きな市場があります。内外装の木質化に加え、木塀など幅広く取り組んでいきます。また、今春には国産材をリフォームの一部に活用することを要件として金利を優遇するリフォームローンの準備を進めています。
続いて、「取引先様とのパートナーシップ」についてです。販売店様とメーカー様、建販商社様、木材問屋様とナイス㈱によるネットワークであるナイスパートナー会は、現在、1,000社以上の企業様に加入いただいています。今後、会員企業様と今まで以上により強力に取り組み、ともに発展していきたいと考えています。また、工務店様の日々の活動をサポートするサービス「ナイスサポートシステム」は、集客活動から商談、設計、顧客管理に至るまで、販売店様・工務店様のあらゆる業務に対応しており、現在は約2,000社にご利用いただいています。
次に、「木造非住宅分野への取り組み」です。建築物の木造化率は増加傾向にあります。一方で5階建て以下の建築物の木造化率は10%程度にとどまっており、ここには現在の持ち家に匹敵する規模の潜在市場があると言えます。こうした建築物の木造化・木質化の需要に対応していくために、販売店様や工務店様、設計事務所様、ゼネコン様からの最初のご相談窓口となるファーストコールセンターとして「木造テクニカルセンター」を新設しました。こちらを窓口として、当社グループが持つ設計・開発力、木材 調達力、生産加工力、施工力により、非住宅の木造化・木質化を強力にサポートしていきます。お施主様となる行政や、設計を担当する設計事務所様、生産・加工を行う製材事業者・プレカット事業者様、流通を担う販売店様、施工を担当する工務店様、ビルダー様、ゼネコン様の皆さんとともに「ウッド・ビルディング・ネットワーク」を構築し、ともに取り組んでいきたいと思います。
最後に、「ストック市場への取り組み」です。現在、日本の住宅ストックは約5,000万戸とされていますが、このうち断熱性能において現行基準を満たすものはわずか7%しかありません。健康リスクの低減には、住まいの断熱性能を高めることが重要だということが明らかになりつつあり、超高齢社会の日本において大きなマーケットがあります。こうしたリフォーム需要を獲得するために、当社グループでは「リフォームパッケージサービス」を開発しています。これは、断熱やエネルギーなど、リフォームのテーマに応じた商材をパッケージ化して、消費者に提案しやすいように1冊のカタログとしてまとめたものです。ナイスサポートシステムの会員企業様へは、社名を入れたデータを無料で提供しています。
このうち、断熱リフォームに関しては、施工性に優れて住まいながらできる商材の提供を強化しています。「あったかMADO」は既存のサッシ枠を生かしながら窓回り全体の断熱性能を向上させる新しいカバー工法による窓リフォーム商品で、標準的な窓であれば1時間程度で施工できます。また、床下の断熱リフォームについても、床を剥がすことなく施工ができる商品を開発しています。このほか、資金面でリフォームに踏み切れない高齢者の方へ向けて「リバースモーゲージ型住宅ローン」を提供しています。これは、60歳以上を対象に、自宅を担保に資金を融資するものです。融資期間は無期限で、毎月の支払いは利息のみ、元本については生前一括、もしくは亡くなった時に担保物件を売却して返済するというものです。
住宅セグメントの事業方針
当社グループには、ストックビジネスを担う部門として、既存住宅の流通を担うナイス㈱住宅事業本部情報館事業部、マンションや一戸建住宅の管理・修理営繕、リフォームを行うナイスコミュニティーグループ、賃貸管理を行うナイス賃貸情報サービス㈱、法人仲介を行う横浜不動産情報㈱、エリアの情報発信をするYOUテレビ㈱があります。これらが相互に連携することで、既存住宅に関するあらゆるお悩みに対するソリューションを提供し、ストックビジネスの拡大を図る考えです。これまでに当社が供給したマンションや一戸建住宅をはじめ、管理物件、YOUテレビ視聴世帯数などを合計すると、当社グループと関係するお客様は延べ38万世帯を超えます。このお客様が、当社のストックビジネスにおける非常に大きな財産となります。ストックビジネス各部門の業績は上昇傾向にあり、今後の成長が期待できる分野と言えます。今後は事業を強化し、一層注力していきます。
マンション部門については、当社グループは2015年から自社で供給するすべてのマンションを免震構造とし、「ノブレス」というブランド名で展開しています。当社グループは1997年に東京世田谷区で免震マンションを供給して以来、これまでに全国で75棟を供給、首都圏では49棟とナンバーワンの実績があります。地震への備えという観点から、引き続き免震構造を原則とし、土地の形状など条件に応じて耐震等級2の耐震構造にもフレキシブルに対応してまいります。その上で好立地を厳選の上で安定した供給戸数を継続して確保していきます。
最後に、一戸建住宅事業については、収益モデルを再構築するためにビジネスモデルと管理基盤の見直しを実施していきます。具体的には、地域特性に応じたエリアごとの商品開発、年間の新規着工数・計上戸数の安定化と平準化、用地仕入れ時に適正な在庫水準を管理する仕組みの整備、配棟計画や許認可の取得時の地域特性に基づく企画の重視、開発行為継続の是非における基準の明確化、そして、顧客接点を重視した販売の6点です。このうち、商品開発については、本社の設計部門において画一的に全国の一戸建住宅商品の仕様・設備等を決定することを取りやめ、地域の特性に合わせた商品開発へと移行します。ただし、「将来に残すべきもの」として、耐震等級3の確保、パワービルド工法の標準仕様、長期優良住宅、国産材の活用、「設計住宅性能評価書」「建設住宅性能評価書」の取得については、今後も全国共通のスペックとして継続します。住宅セグメントについては、これらを通じて事業の再構築を果たしていきます。
新生ナイスグループ誕生の年に
新生ナイスグループにとって何よりも重要なことは、これらの事業方針や経営方針、戦略などに、ESGとSDGsの考え方をしっかりと反映させていくことだと考えています。当社グループはこれまで、「耐震」「健康」「環境貢献」、そして「木材利用の拡大」を重要なテーマとして事業に取り組んできました。今後は、「理念の追求」にとどまらず、収益性とESGへの取り組みをバランスよく実行していきます。
当社グループは今年、創業70周年を迎えます。長きにわたるご支援に改めて感謝いたします。本年を「新生ナイスグループ誕生の年」とし、全力で信用と信頼の回復に向けて取り組んでまいりますので、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございます。