小生もそうだが、わが住宅新報と週刊住宅の業界紙の記者の皆さんも大変なようだ。デベロッパーもハウスメーカーも新型コロナの影響を受け、取材も含めほとんど「自粛」している。紙面の大半は各社のニュース・リリースのコピペ記事だ。
読者にしてみれば、毎週毎週、三日遅れどころか一週間、二週間も過去の賞味期限切れの記事を読まされるのはたまったものではないが、購読料金(ほとんどは勤務先の会社が負担)を考えたらまあ許容範囲か。(WEBを軽視しているのは両紙の致命的欠陥だが)
ところが、両紙の先週号には現場取材をしたのではないかと思われる貴重な記事が掲載されていた。トーセイ「THEパームスコートひばりが丘」だ。まずは両紙を読んで頂きたい。太字は小生。
◇ ◆ ◇
【住宅新報(6月16日号)】
「トーセイはこのほど、東京都西東京市で、全30戸の戸建て分譲『THEパームスコートひばりが丘』の販売を始めた。国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)を取り入れた同社初のプロジェクトとなる。現地は西武池袋線のひばりヶ丘駅からバスで5分、バス停から徒歩5分で、分譲地の2方向が、西東京いこいの森公園と東京大学の演習林に接しており、緑豊かな立地が特徴だ。第1期として現在4棟を販売中。建物は木造2階建てで、敷地面積は115~123m2。価格は現時点で未定。
新型コロナウイルスの影響で当初予定よりも販売時期が1カ月ほど後ずれし、広告も近隣へのチラシ配布とウェブのみだったが、『予想以上の反響』(同社)だという。隣接市に暮らす子育て世帯からの評価を得た」
【週刊住宅(6月15日号)】
「トーセイが東京都西東京市で開発している新築戸建分譲住宅地『THEパームスコートひばりが丘』(全30棟)の第1期販売(4棟)の滑り出しが好調だ。SDGs(国連が採択した「持続可能な開発目標」)をコンセプトに盛り込んだ同物件は、緊急事態宣言に伴い、販売開始を約1カ月先の6月6日に延期した。宣言解除後の現在も、モデル棟の見学を1クール2組までの完全予約制に限るなど、営業ペースは抑制しているものの、再来場率は約6割に上っている。
第1期販売分は115~124平方メートルの区画に90~95平方メートルの4LDK(現時点で販売価格は非開示)。20代後半から50代の幅広い年代の子育て層から反響があった」
◇ ◆ ◇
読者の皆さんは、この記事を読んでどう思われるか。トーセイがSDGsをテーマにしていることはわかる。これはこれで結構だし、いまSDGsに取り組まないデベロッパーはアウトだ。ただ、これがマンションや分譲戸建ての購入検討者に響くかどうかは別問題だ。記事はSDGsをテーマにしたのが効果的だったような印象を与えめる。しかし、果たしてそうか。小生は両方の記事を読んでさっぱり分からなかった。
こんなことは書きたくないが、書かざるを得ない。あまりにもひどいからだ。具体的にそのひどさを示そう。
新報はいつもそうだが、「このほど」(同紙は半月前でも「このほど」と書いた前例がある)「4戸を販売開始」し、「価格は現時点(いつのことか不明)で未定」と書く。それでも「予想以上の反響」と同社のコメントを紹介している。
「価格が未定」の戸建てを4戸販売開始したのが事実なら、これは間違いなく業界初、前代未聞の〝快挙〟だ。不動産公取協の規約はどうなっているのか。「価格未定」のまま販売していいかどうかの規制はないはずだ。あり得ないからだ。売る側も買う側も、そしてそれを報じる業界紙も狂っているとしか言いようがない。
さらに、「予想以上の反響」「隣接市に暮らす子育て世帯からの評価」もよく分からない。予想した数値を示さないと、「反響」の大きさは分からないし、「隣接市の子育て」ということは、練馬区は市ではないから武蔵野市、東久留米市、小平市、新座市からの反響が多いということか。地元ではないのか。これが事実だとすれば、これまた凄いことだ。
一方の週刊住宅は、販売開始時期を6月6日と明示している。当然だ。いつ生まれたのか死んだのか、いつ書いたのか、「いつ」が全てを優先する。ただ、同紙が新聞を印刷したのは6月12日のはずで、12日の時点で4戸の売れ行きを示さないと、何をもって「好調」というのか読者には全然伝わらない。「価格は非開示」といわれたら、小生は記事を書かない。分譲開始した物件の価格を(業界紙に)開示しないデベロッパーとは縁を切る。読者に失礼だ。記者にとって読者が全てだ。
結局、両紙の記事はいったい誰に何のために伝えたかったのか、さっぱりわからない。読者を馬鹿にするのもいい加減にしろといいたい。
コラムニストの小田島隆氏は「ザ・コラム 小田島隆 2006-2014」(晶文社 2016年発行)で次のように書いている。耳が痛いが、本質を衝いている。
「記事を配信するならするで、最低限の取材はするべきだ。逆に、独自の取材ができない事情があるとか、取材する気持ちになれないということなら、配信を断念すべきだ。取材せずにニュースを作成することは、メディアの自殺だ。先方が発表したリーク情報をそのまま垂れ流すだけでは、サツ番の犬小屋記者と何も変わらない。キャンキャン。イエス・ゼイ・キャン。吠えているだけ。何もできない」
◇ ◆ ◇
さて、トーセイの「THEパームスコートひばりが丘」。ネットで調べた。バス便ではあるがなかなか住環境はよさそうだ。4棟の価格は「4,920万円~5,860万円」とあった。物件を見ていないので何とも言えないが、価格的にはストライクゾーンだと思う。
都内に比肩するものなし 野村不の戸建て「プラウドシーズンひばりが丘」(2012/9/25)
慣用句か枕詞か なぜか頻繁に登場する「このほど」 不動産業界紙の記事(2017/5/3)