長谷川氏(ジャケットの下は地所の「赤」ではなく緑色のTシャツ)
三菱地所グループのマンション管理会社、三菱地所コミュニティは7月1日、管理コストの削減や修繕積立金不足、マンションの役員の担い手不足といった社会課題の解決を目指し、管理組合がマンション管理会社に業務を委託せずともマンション管理を簡単にできるアプリ「KURASEL(クラセル)」を開発、同日から申し込みを開始したと発表した。新しい商品・サービスは特許を出願中。
「KURASEL(クラセル)」は、三菱地所コミュニティの50年にわたり培ったマンション管理のノウハウを集約してマンション管理組合向けに開発したアプリ。マンション管理に関する知識や経験が少ない人や、忙しくて時間に余裕のない人でも、スマートフォンで簡単に自主管理ができる。具体的には、今までマンション管理会社が担ってきた所有者・居住者情報や契約・発注管理から理事会資料の保管・閲覧、収支状況・支払管理に至るまでの全てをスマートフォン及びWEB上のアプリで一元管理が可能になる。
アプリの利用料金は月々35,000円~(税別・1マンションにつき)。アプリの提供・運営は三菱地所コミュニティが6月1日付で設立した新会社・イノベリオスが行なう。
新会社は、平均的な1棟50~60戸くらいのマンションで年間200万円くらいのコスト削減が可能で、これまで「リプレイス」の選択肢しかなかった管理組合は同社が提供するアプリによる「自主管理」の選択肢が増えるとしており、2024年度末までに全国で3,000組合での導入を目標にしている。
会見に臨んだ社長執行役員・長谷川良裕氏は「これまでのマンション管理の常識を大きく変える革新的なサービス」であることを強調した。
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新型コロナの拡大が顕著になった3月以降、「自粛」に徹しニュース・リリース以外は一つも記者発表会・見学会を行ってこなかった三菱地所グループが4カ月ぶりに一矢を放ったのは主力のビルでもマンション分譲でもなく、どちらかといえばこれまで目立たない存在だったマンション管理についてだった。
メデイア向けの発表会参加呼びかけのフレーズもまた取材意欲をいたく刺激するものだった。「マンション管理組合が抱える、マンション管理コスト増、修繕積立金不足、役員のなり手不足といった様々なマンションの課題について真正面から向き合い、解決に向けて立ち上げる新しいサービスです。既存のビジネスモデルを大きく変える可能性のある革新的な新事業」とあった。発表会場も本社ビルだ。
会見に臨んだ長谷川社長と取締役常務執行役員の安藤康司氏をはじめ、10人以上の関係者はみんな地所のコーポレートカラーである「赤」ではなく、〝常識を変える(カエル)〟にふさわしい「緑」のTシャツを着ていた。意気込みはストレートに伝わってきた。
会見に参加した記者の数も常識を超えるものだった。毎月、マンション管理業協会が行なっている「記者懇親会」をはるかに超える40名くらいに達した。(三菱地所コミュニティが呼び掛けてきた団地の防災イベントを記者は何回か取材したが、他のメディアの方は数えるほどもなかった)
どうでもいいことはこれまで。本題に入ろう。このアプリは業界の常識を変える革新的なサービスになるかどうか。
最初に思ったのは「ノー」だった。記者は昭和50年に完成した多摩ニュータウンの戸数200戸近いマンションに住んでいる。管理組合の理事も務めたことがある。ボランティア組織の会員として団地内の樹木剪定やコミュニティ活動も行っている。樹木剪定は年間数百万円のコスト削減につながっているはずだ。
同社が国土交通省の資料から説明した一般的な50~60戸のマンションの管理費は1戸当たり約12,000円(70㎡で坪当たり約560円)だ。アプリ代35,000円というのは3戸分くらいだ。このお金をねん出できる組合は多くないと読んだ。もちろん、年間で200万円もコスト削減できれば話は別だが…。
そもそも、管理組合が自由に使える金などない。管理費のうち約半分は管理会社への業務委託費に消え、その他の光熱費、樹木剪定などの恒常的な維持管理・軽微な修繕経費などに支出すると、残された組合活動費は10%あるかどうかだ。
35,000円が高いと言っているのではない。アプリはそれくらいの価値があるはずだ。比較は難しいが、例えばマンション管理士など外部専門家を〝お助けマン〟として組合が依頼すればこれくらいの金額になるはずで、この金額に見合う仕事をこなしてくれると思う。マンション管理士の働き口がないのは、これまで専門家を起用(啓蒙)してこなかったことに問題がある。
確かに、自主管理は組合員の意識が高ければ不可能ではないと思う。樹木剪定などは素人でもできるし、自主管理で経費が抑えられる業務はたくさんあるはずだ。意識の高い組合はコスト削減を行っているはずだ。管理会社に丸投げなどしない。
しかし、そういった自主管理の意識が高い組合は少数派で、希薄だからこそ様々な問題が噴出している。そのような管理組合にアプリ提案の声は果たして届くのか。これにも疑問符を投げかけざるを得ない。35,000円を年間200万円のコスト削減にどのようにつなげるかの具体的な説明がこの日はなかったような気がする。
ただ〝200万円のコスト削減〟はマンション管理会社に対する警告でもある。アプリを活用すれば一般的なマンションでこれほどの経費が削減できるということは、いかに現在の管理会社が〝暴利〟(これは言い過ぎか)をむさぼっているかということを業界に発信することにならないか。
いま業界は、「リプレース(リプレイス)」の嵐にさらされている。業界各社がどのような反応を見せるか興味津々。
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