〝ミニ戸建てがブーム〟などと新型コロナの変異種が発生したかのような衝撃的な見出しを掲げ、大上段に構えたものの、ぬゑのようなつかみどころのない相手にたじろぎ、結局は腰砕けとなり、太刀を振り下ろすどころか鞘に収めることすらできずすごすごと逃げ去った-こんなたとえがぴったりの記事が1月18日付「週刊住宅」に掲載されていた。
読んだのはWeb版なので紙媒体ではどのように扱われているのか分からないが、かなりのスペースを割いているはずだ。記事の書き出しはこうだ。
「コロナの蔓延(まんえん)で新築戸建ての需要が伸びている。中でも急伸しているのがミニ戸建てと呼ばれる物件だ。いまなぜミニ戸建ての需要が伸びているのか。その理由を探るとともに、戸建てブームは今後も続くのか考察してみたい」
小生は、この段階で地団太を踏んだ。〝抜かれた〟と思った。小生も一昨年、「狭小住宅」の実態に迫ろうと挑戦したことがあるからだ。その時の記事を添付する。3週間くらいにわたり資料をあさり、現場を見学し、狭小住宅専門の業者に取材を申し込んだがかなわず、結局はなにも分からずじまいに終わったことが読んで頂ければわかるはずだ。
狭小住宅が隠花植物のようにじわじわと領域を広げているのはなんとなくわかるのだが、そもそも建売住宅のデータはほとんどないし、住宅着工統計では戸数や住宅の面積は把握できるが、敷地面積の記載はない。民間の調査会社もどこも市場を把握できていない。
なのに、ミニ戸建てがブームであることを週刊住宅が突き止めたとなれば、脱帽するほかない。
ところが、同紙の記事をどこまで読み進めても、新築や中古マンションのデータや住宅購入予定者の意識調査結果ばかりで、肝心のミニ戸建てについての言及がない。同紙は「新築戸建ての需要が伸びている」と書くが、本当だろうか。住宅着工統計では持家も分譲戸建てもこの1年間というもの毎月ずっと二ケタ近い減少を示している。着工と分譲とは時差があるので、あるいは需要増を背景に今後は着工も伸びるのか。(その可能性はあると思う)
やっと登場するのは、全体の分量2,000字の半分を過ぎたころだ。
だしぬけに「業績がV字回復したのがオープンハウスだ」(これは誤り。落ち込んだのは緊急事態宣言時のみ。同社はずっと業績を伸ばしてきた=記者注)とあり、「オープンハウスが取り扱う物件は都心の戸建てが中心。それもミニ戸建てと呼ばれる物件が多い。ミニ戸建ての厳密な定義はないが、多くの場合狭い土地に建てられた建て売りを指し、敷地面積は60~80平方メートル以下、1階に駐車場を持つ3階建てタイプが標準と言えるだろう。
オープンハウスの戸建て仲介契約件数は、20年4月は前年同月比39.1%減であったが、5月には反転し43.0%増、6月には52.3%増と大幅に伸長した。その結果、20年9月期の連結経営成績は前年度の約540億円(5,403億円の誤り=記者注)から575億円超(5,759億円の誤り=同)に伸びている。
コロナ禍を受けての好況はオープンハウスに限らず、ケイアイスターの不動産(これもケイアイスター不動産の=記者注)分譲住宅契約金額の対前年比増加率は32%と急伸しており、新築戸建て人気は数字の上でも見て取ることができる」とある。
長々と引用したが、ここで初めてミニ戸建ては敷地面積が「50~80㎡以下」ということが分かる。そして、その代表格としてオープンハウスとケイアイスター不動産を取り上げた。よく読むと、両社の決算数字など開示データをそのまま記しているに過ぎないのだが、それにしても何の根拠も示さずミニ戸建て=オープンハウス、ケイアイスター不動産と断定的に書くのは乱暴に過ぎる。
そこで、小生はオープンハウスに確認した。同社広報によると、グループの分譲戸建てを展開するオープンハウス・ディベロップメントが展開する分譲戸建ての敷地面積が「60~80㎡以下」の供給比率は50%に達しており(2020年9月期の戸建て計上戸数は2,804戸)少なくはないが、ミニ戸建て=オープンハウスにはならない。また、記事にある同社の営業成績の数値は一桁少ない。売上1兆円を目指す企業だ。荒井正昭社長が知ったら激怒するのではないか。(笑い飛ばすか)
そして同紙は「都心のマンション需要は高値の花になりつつあり、加えて部屋数の少なさがマンションの弱点として露呈した。持ち家事情の変化は、選ぶ側のニーズに対応して今後も(ミニ戸建て人気が)加速する気配が濃厚だ」などと遁辞でもって締めくくっている。
はっきり言って記事のすべてが旧聞で、自らの足で書いた真新しい事実は皆無だ。結局、「60~80㎡以下」のミニ戸建ての市場は〝闇〟のままだ。ひょっとしたら、書いた記者の方は一度もミニ戸建ても建売住宅も見ていないのかもしれない。そうでなければ、記事に添えられている立派な分譲戸建ての街並み写真を使うはずがない。この写真は敷地規模が60~80㎡以下のミニ戸建てでないことは明らかだ。どうしてこのような写真を使ったのか。写真も記事のうちだ。刺身のツマのように扱うのはいかがか。
ここまで結構辛辣なことを書いた。〝何もここまで〟と思う読者の方もいるかもしれないが、同紙は数少ない業界紙として影響力を持っているはずだし、持つべきだと思うからこそ、誤った記事に対してはきちんと記事で批判すべきというのが小生の立場だ。他意はない。小生の願いはいい記事を書いてほしい-この一点だ。
この小生の批判記事を同紙も読んでくれるはずだ。今度は素晴らしいミニ戸建ての第2弾、第3弾の記事を発信してほしい。小生が知りたいのは、ミニ戸建てが中古市場でどのような評価を受けるのかということだ。ここに焦点を当てるのもいいのではないか。不動産流通会社やレインズは狭小住宅のデータはないのだろうか。スムストックはきちんとデータを収集しているではないか。
敷地60㎡未満の分譲「狭小住宅」 都心部は軒並み50%超 最少の練馬は1.9%(2019/8/19)