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2021/09/29(水) 17:59

続・駅前の限界集落 後期高齢者は4人に1人の割合 〝死中に活〟光明見出す声も

投稿者:  牧田司

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廃屋になっている住宅

 「限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地」(平成24年7月27日付)の記事を書いてから9年。この街をまた訪ねた。予測した通りの限界集落に突き進んでいるのか、それとも再生へ方向転換しているのか、不安と期待が入り混じる中での取材だった。高齢化人口割合は44%に達し、75歳以上の後期高齢者は4人に1人の割合というデータからは前者だが、「街は一度死んだほうがいい」と死中に活を求める説得力のあるもあり、結論を出すのはまだ先のようだ。

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平成24年1月(左)と令和3年1月の団地人口ピラミッド

 前回の記事では、2つの団地の合計世帯数は1,464世帯(昭和44年4月比5.4%減)、人口は3,302人(同46.9%減)と書いた。

 その後、住居表示の変更が行われており、現在の人口統計データからは従前団地と正確に比較することはできないが、約9割をカバーしていると思われる数値で比較してみた。

 これによると、令和3年1月1日現在の団地世帯数は1,539世帯(前回の平成24年1月1日比1.3%減)、人口は2,890人(同14.4%減)、1世帯当たりの人口は1.8人(同0.4ポイント減)となっている。65歳以上の高齢化率は44.0%(同12.1ポイント増)、75歳以上の後期高齢者の割合は25.6%(同12.9ポイント増)と実に4人に1人の割合に達している一方で、15歳未満の年少人口割合は4.3%(同3.8ポイント減)と大幅に減少している。

 人口構成や世帯数などから類推すると、昭和44年比では人口は半減し、空き家・空き地・駐車場の比率も関係者の話からして3割くらいに達しており、独り暮らしの高齢者もかなりの人数に上っていると思われる。

 これを人口ピラミッドにした。ピラミッド型でも釣り鐘型でも棺桶型でもない逆三角形型だ。平成24年ではまだ希望のふくらみがあった若年層が激減しているのがよくわかる。例えていえば、もはや地中から水を吸いあげる力もなくなった老木か、あるいは少しでもバランスを崩せば横倒しになりそうな耕作放棄地の破れ案山子のようにも見える。

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きちんと整地されている空き地

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シャッター商店街

◇       ◆     ◇

 前回取材したときはなかった駅前のスーパーに寄ってみた。入口近くには薬品や化粧品が並んでおり、線香のコーナーもあり、大人用の紙おむつなど介護品も多くのスペースを占めていた。生鮮食品はコンビニに負けそうな品揃いしかなかった。

 商店街は前回と同様、シャッター商店街化しており、居酒屋などはコロナの緊急事態宣言下でもあるからか、ほとんどが9月末まで休業するとのビラが貼られていた。広い表通りには街路樹が1本も植わっていない。

 街並みは、「3分の1は空き家、空き地、駐車場」と居住者から聞いていた通り、乱杭歯か歯抜けトウモロコシ状態だった。前回取材と少し違ったのは、2015年2月に施行された「空き家対策特別措置法」(空き家法)の影響か、雑草が生い茂ったままの廃屋は少なく、地面がコンクリで固められたり、雑草が刈り取られたりしている空き地・駐車場が増えたように感じられたことだ。役所によると、老朽建築物の除却・建て替えに最大50万円(国が2分の1負担)の補助制度を利用したのは過去3年間で11件とのことだった。

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1本の街路樹も植わっていない広い道路

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空き家になっているアパート兼用住宅か

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「売地」の看板が掛かっている空き家

◇       ◆     ◇

 団地に隣接する公園のベンチに座ってタバコを吸いながら談笑していた3人の男性に声を掛けた。( )内は記者。

 (タバコが値上げになりますが)87歳の男性は「俺、10万円分買った。一番安い『わかば』や『ラーク』など全部で9万7,800円。値上げされると10万5,500円になる。年金生活じゃやっていけない」(…)

 続けて、「俺、団地内に4つ(4軒)持っている。昭和50年に1軒買った」(50万円でしょ)「よく知ってるね。そう。そして1年後に隣の一戸建てを100万円で買い、その後10年くらい経ってから900万円で買い増しした。(バブルのころの値段か)そして今から10年前に更地を400万円で買った。4軒のうち3軒は地続きだから60坪。女房? 昨年亡くなった」(お父さん、職業は何だったんですか)「アブラショッコ。17歳からそれ以外の仕事をやったことない」(アブラショッコって何ですか)「車の修理。組合が強かったから稼げた」

 70歳の男性は「以前住んでいたところで親父が93歳で死んで、女房は施設に入っているので、8年前からここに引っ越しして一人でアパートに住んでいる。家賃? 3万7,000円。一戸建ては4万5,000円から5万円が相場」
 生まれたときから団地の近くに住んでいるという80歳の男性は「みんな人間的にはいい人ばかりだが、どこか病んでいる。俺? とび職だった。全国歩いてた」

 そこに、隣町に住んでいるという昭和13年生まれの男性(83)が加わった。「往復2時間、土手を超えて県道に出て田んぼを通って、歌を歌いながら散歩している。歌? 警察予備隊を経験したので軍歌も歌うが、学校唱歌もよく歌う。歌はいいよ。田んぼで大声を出しても誰からも文句言われない。〝勝ってくるぞと…〟〝君の名は…〟〝京都、大原、三千院…〟知ってるか? 」(もちろん)

 さらにまた、白い毛の犬を連れた同年代と思われる女性が現れた。驚いたのはその犬だ。何と里芋のように茶色く膨れ上がっ睾丸が股間からはみ出ているではないか。(どうしたんですか)「これ、病気。年齢は16歳。人間なら90歳近い」

 3人組は「こうしてここに集まることを日課にしているから、みんなお友達になれる。朝6時半に来るといいよ。オジンオバンが50人くらい集まって体操している」

 団地の近くの広い敷地の住宅が多い住宅地に住む30代の女性にも話を聞いた。

 「子どもが生まれるのがきっかけで、夫の実家があるここの分譲住宅を買ったのは6年前。土地が30坪ちょっとで価格は1,500万円。買い物は駅前のスーパーを利用しています。団地の商店街はほとんど閉まっているので利用しません。近くできる大型店舗まで歩いて数分。わたし? 普通のパート」と話した。

 大型商業施設は駅から約7分の調整区域。実現までずいぶんもめたそうだが、住民の期待は大きいようだ。

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股間にぶら下がっている睾丸

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大型商業施設の建設現場

◇       ◆     ◇

 前回取材したときと同じ不動産会社に取材を申し込んだ。社長(47)が気安く応じてくれた。

 社長は「10年前? 覚えていないが多分わたしが応じた。これは私の見解ですが」と前置きしたうえで、「このままでは団地再生は無理。寝たきりだと立ち直れない。一度死んだほうがいい。そうすれば、駅近の地の利が生かせる。2つの敷地を一緒にして、ニーズが高い40~50坪の立派な住宅に再生できる。大型商業施設の工事も始まったし、これをきっかけに光明を見いだし、10年後、20年後には団地は生き返っているかもしれない。当社の業績? 10年前と比べれば地価が下がっているので1件当たりの単価は下がっているが、買い増しニーズを取り込めており、件数は1.5倍くらいに増加し、売上高は堅調に推移している。」と語った。

 第三者は口が裂けても口にできない「一度死んだほうがいい」は正鵠を射る言葉ではないか。きれいごとでは済まない現実を見続けている当事者だからこそ言える言葉だ。

 先ほど、「人口ピラミッドは破れ案山子」と書いたが、そうではなくてバランスを崩しても倒れない「やじろべえ」と訂正する。死中に活とはこのことをいう。

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喫茶店に置かれていたアケビとカボス(利用者の庭で採れたそうだ)

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空き家の花にはたくさんチョウが集まっていた

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花を植えている空き地も結構あった

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美しい庭の家もたくさんあった(白とピンクの花は酔芙蓉、下方は江戸萩)

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〝見かけないやつだな、お前は誰だ〟(決して怪しい者ではありません)

〝夜明け〟はやってくるのか〝再耕〟は可能か 大和ハウス 団地再生勉強会(2021/8/31)

限りなく限界集落に近い首都圏の郊外団地 人口4割減55歳以上の人口比率は48.7%(2012/7/27)

 

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