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2022/05/11(水) 17:51

ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」

投稿者:  牧田司

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神田警察通り道路整備Ⅱ期工事区間(右側は「錦町トラッドスクエア」)

 記者はこの30年間、街路樹と親交を深め、会話を交わしてきた。以下は神田警察通り道路整備Ⅱ期工事(白山通り~千代田通り)に植わっている街路樹のイチョウの独白だ。

◇        ◆     ◇

 お願いだ。ぶった斬ることだけはやめていただきたい。雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫なからだをもち 慾はなく 決して怒らず いつも静かに笑っている-この言葉こそわれわれの姿そのものだ。あなたたちの先達は巧みにわれわれを利用し、街路樹としてたくさん植えてきた。事大主義の匂いがしないわけではなく、ちまちました街並みにわれわれのような巨木を選んだのに異論はあるけれども、そんなに間違いではなかったことを皆さんはご存じのはず。都市計画は100年先、200年先を見通して実施するものだから。

 美点をひけらかすのはやや気が引けるが、われわれがもっとも自慢できるのはその性格のよさだ。サクラのようにひねくれておらず、真直ぐに伸び、雨にも風にも夏の暑さにも冬の寒さにも耐え忍び、車の排気ガスや騒音、身勝手なあなたたちの強剪定にもめげず成長してきた。樹齢は50~60年だろう。人間にすれば少年少女か。成長途上の段階だ。樹高は20mだって30mにも伸びるだろう。仲間には千年以上生きているものもいる。この先数百年は生きられるだろう。

 劣悪な環境を是認し、ストレスは右から左へ受け流し、気を病むこともなく医者知らずだ。あなたたちのように風向きによって右や左に傾くことはしない。葉っぱだって裏も表もほとんど変わらない。正直そのものだ。

 容姿だけではないぞ。われわれの利点はたくさんある。二酸化炭素を吸い酸素を吐き出す。お金持ちも貧乏人も賢者も愚者もあまねく平等に樹陰・緑陰で包み込み、地表温度を20度くらい下げているではないか。樹形は見事な円錐形を描き、秋にはまっ黄色に染まってあなたたちを楽しませてきた。火災時には防火壁の役割も果たしてやる。フルスピードで車が突っ込んできても跳ね返す自信はある。

 だからわれわれは品格を兼ね備えた長寿、安産の木と崇められ、大学のシンボルマークに採用され、神社仏閣の神木となっているではないか。東京都をはじめ自治体の木としても使用されているではないか。

 まだあるぞ。知らない方も多いだろうが、「たらちねの 消えやらで待つ 露の身を 風よりさきに いかでとはまし」と謳われた「たらちね」こそわれらの「垂乳根」のことを指す。「垂乳根」とは、樹齢数百年以上の老木の枝に垂れ下がる突起物のことだ。何? あなたのおっぱいも垂れ下がってきた? いいんだ。もう役割を終えたんだから。大きいから垂れ下がるんであって、大きいことはいいことだ。わが貧乳のかみさんじゃなかった雌株なんぞは全然垂れ下がっていないぞ。

 品性を欠く下品なことを言ってしまったが、効能はまだある。葉っぱは血糖値や血圧を下げる効果があることから漢方薬として売られているではないか。幹は生板として利用されているし、実(種子)は料亭の茶わん蒸しに入っている。炒った銀杏はサファイアのような輝きを放ち、酒の肴として重宝されている。

 何? 落ち葉の始末に困る? 滑って転ぶ? 銀杏が臭い? 馬鹿云っちゃいけない。これほど皆さんの役に立っているのに文句があるのか。どの木よりも高くそびえ、たくさんの葉っぱを付け、一挙に葉を落とし、種子が強烈な匂いを放つのも全て数百年生きるための知恵だ。だからこそ太古の昔から死に絶えることなく生き延びられてきたのだ。受忍義務という言葉を知らないのか。惻隠の情はないのか。罰が当たるぞ。

 他の樹木の批判などしたくないが、われわれの代わりとされるヨウコウザクラの樹高はせいぜい10mと聞く。背丈はわれわれの2分の1か3分の1しかないぞ。赤紫色の美しい花を楽しませてくれるのは1週間ぐらいだ。花が散ったらただの中木、雑木だ。樹陰・緑陰など期待できない。われわれの代わりが務まるはずはない。横綱と平幕くらいの差がある。(これは言い過ぎか)

 道路整備区域に入っている神田税務署、神田警察署、それに共立女子大、正則学園、錦城学園などの関係者へ一言。都市計画などない時から建っているのだろうから言っても詮無いことだが、どうして道路・街路に背を向けて、敷地いっぱいに建てたのだ。周りのデベロッパーなどが整備した再開発ビルはみんな総合設計制度を利用して立派な公開空地を確保したではないか。今度建て替える時はこの制度を活用していただきたい。

 役所にも一言。4車線から3車線にして歩行者や自転車利用者の利便性を高める計画には大賛成だ。しかし、街路樹を道路の附属物としてしか認識していないようでは沿道の賑わい創出、ウォーカブルな街づくりは絵空事に終わる可能性が大きい。せっかくの公開空地を区民に開放し、屋台も飲酒も喫煙も可能にし、イベントをたくさんやるようにしなければならない。

 おっと、忘れていた。70年安保を経験したあなた牧田さん、「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている」この言葉の意味を知っているはずだよね。日和ってんじゃねえぞ。しっかりした記事を書け(大きなお世話だ=記者)。

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「錦町トラッドスクエア」の公開空地に設けられている池の鯉

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 千代田区の延長約1,360m、道路幅員22mの神田警察通り通り道路整備計画の2期区間(白山通り~千代田通り)の実施が決まった。整備区間は総延長約230m、幅員22.0mで、現況の車道4車線16.6m(4車線+停車帯2)、歩行者・自転車通行空間1.7m、植樹帯1.0mを整備後は車道11.5m(3車線+停車帯1)、植樹帯1.4m、自転車運行空間1.5m・2.0m、樹木0.6m、歩行者2.0mにするもの。歩行者・自転車通行・植樹帯は現況5.4mから整備後は10.5mとなる予定。

 計画では、街路樹のイチョウ32本のうち幼木の2本が移植され、残りの30本が全て伐採されることが決まった。すでに4月25日には2本が伐採された。代わりにはヨウコウザクラが植えられることになっている。工事は令和5年2月24日までの予定。

 「神田警察通りの街路樹を守る会」などの住民は、区の強行伐採に反発し、工事時間の夜8時から翌朝の6時までイチョウにより沿い監視活動を行っている。

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整備済みの神田警察通り道路Ⅰ期工事(左は学術総合センター)

なぜだ 千代田区の街路樹伐採強行 またまたさらにまた「街路樹が泣いている」(2022/5/10)

 

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