街路樹の倒木・枝の落下による事故について考えてみた。今回の神田通りの道路整備計画だけでなく、すべての道路整備について当てはまる問題であり、街路樹をどう考えるかの本質的な問題がここにあると考えるからだ。
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令和4年1月31日に行われた千代田区の企画総務委員会で木村委員の「今回のこの計画だけれども、まず沿道住民の声を聞かなかった。これ致命的ですよ」という問いに、小川環境まちづくり部長は「区としての判断は、やはり安全に通行ができるといった歩行環境、道路環境の整備というものが、やはり今回の整備に関しましては優先すべきことであり、その安全性、利便性を犠牲にして木を残すという選択にはなかなかならなかったというのが現状でございます」と答えている。
また、須貝基盤整備計画担当課長は「車道とかは構造的に硬いものがあるので、なかなか根が張れる範囲というのは道路の中では限られてまいります。なので、あくまでも本当に道路の附属物ということで、これを言うとまた怒られてしまうんですけれども、まずは道路というのは本当に安全に通れるということが第一なんですね。木がかわいそうだとか、それももちろんございます。ただ、万が一それが倒れ人の命を痛める、そういうことになったら、そのときは本当に責任を取るのは私たち行政でございますので、その辺は踏まえてご理解いただきたいと存じます」と語っている。
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皆さんは、このやり取りをどう受け止められるか。道路の安全性、利便性を犠牲にして街路樹を残していいのか、万が一、倒木や枝の落下によって人の命が痛めることになったらだれが責任を取るのかと区側は主張している。管理者責任を問われるからだ。
記者は、ごもっともだと思う。歩道空間は危険に満ちている。車はしょっちゅう突っ込むし、雪や落ち葉に足を取られたり、敷石につまずいたりするのは日常茶飯だし、横からはコンクリの塀が襲うこともある。上からは車や看板、タイルなどだけでなく人が降ってくることもある。
今回の神田警察通りの問題は、街路樹を残すのか、伐採・撤去するのかは、行政の判断一つにゆだねられていることを改めてわれわれに突き付けた。須貝氏が語ったように、道路法と道路交通法には「街路樹」の文言は一つもない。あくまでも「附属物」「物」の一つだ。代替物などいくらでもあると。
これに対し、住民らは伐採せずに整備するよう区に求めた住民監査請求(2022年4月21日)を行っており、また、伐採工事が行われたことに対しては、22万円の損害賠償を区に求める訴えを東京地裁に起こした(2022年5月6日)。
ここでは住民監査請求と損害賠償請求については触れない。街路樹の倒木・枝の落下がどれほど危険かに絞ってみる。
ネットで調べたら、とても興味深いレポートが見つかった。2009年3月発行の「ランドスケープ研究」(日本造園学会)の細野哲央氏・小林明氏による「東京都道における街路樹による落下直撃事故の実態」だ。
レポートは、昭和63年度から平成19年度の都の事故発生報告書をもとに倒木などによる事故と判断できるもののみを抽出したもので、「原因となった樹種が明らかな69件の内訳は、ケヤキが29件(42%)で最も多くを占めていた。ケヤキの発生件数の半数を割ってエンジュ13件(19%) が続き、それにプラタナス6件((9%)、ヤナギ5件(7%)、イチョウ3件(4%)が続いていた」としている。
そして、平成18年4月現在の東京都道の街路樹約16万本の上位樹種は1位のイチョウ約2万8千本((18%)、2位プラタナス約2万2千本(14%)、3位トウカエデ約1万8千本(11%)、4位ハナミズキ約1万5千本(10%)、5位ケヤキ約1万本(6%)などから判断して、「植栽本数が多いほどその樹種が原因となる直撃事故も多いという関係にはないということができる」としている。
両氏は、「突然に樹木の枝が落下したり樹木の幹が倒れかかってくるという事故の性格のため、被害者自身の注意によってこの事故を回避することは極めて難しいといえる。このようなことから、落下直撃事故の発生を防ぐために道路管理者に期待されている役割は非常に大きいと考えられる。特に、ケヤキの枝による事故の発生数上位3路線では、いずれも樹高が高くなり大径木となっていたことから、そのような路線については重点的な安全管理が必要であるといえる」「直撃事故では、ケヤキの枝折れ、エンジュ・プラタナスの倒伏、ヤナギの幹折れなど、樹種によって発生しやすい態様のあることが示唆された」と締めくくっている。
KANDA SQUAREの公開空地
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レポートからケヤキによる事故が多いのはよく分かる。樹高が高く、箒状の見事な樹形を描くからだ(伐採が予定されている神田錦町3丁目のケヤキも見事)。その一方で中木のエンジュやヤナギが多いのは驚いた。
さて、今回問題になっているイチョウ3件(4%)だ。捉え方は様々だろうが、極めて少ないと考えることは可能だ。
区は2期で整備するイチョウ32本のうち2本は移植可能としている。記者も確認した。樹齢にして数年も経っていないはずだ。つまり、この2本はこの数年間の間に何らかの事情で伐採されたと思われる。仮に32本は植えられてから50年とすれば、病死・枯死の確率は極めて低いことが分かる。区の主張はガラガラと音を立てて崩れる。前回書いた記事(イチョウの独白)の正当性を証明できたと思うがいかがか。区の主張は根拠希薄だ。
ぶった斬らないで 神田警察通りのイチョウの独白 続またまた「街路樹が泣いている」(2022/5/11)