「シャトレ信濃町」
三井不動産と青木茂建築工房は5月17日、両社が共同で取り組む「リファイニング建築」の6物件目となる賃貸マンション「シャトレ信濃町」の竣工見学会を行った。建て替えと比較して建築コストを約3割、CO2削減量を72%それぞれ削減し、工期を3分の1程度に短縮し、さらに市場価格以上の賃料設定を可能にした物件だ。
物件は、JR中央線信濃町駅から徒歩7分、新宿区信濃町3丁目の第一種中高層住宅専用地域に位置する敷地面積約968㎡のSRC造9階建て延べ床面積約2,610㎡の全35戸(うち3戸は自家用、従前は21戸と店舗1戸)。専用面積は41~82㎡。賃料は45㎡で22~23万円(管理費含む)。三井不動産レジデンシャルリースがサブリースを行う。大規模模様替えとして確認申請を行い、検査済証を取得。設計は青木茂建築工房。施工は大末建設。改修竣工は2022年5月16日(従前は1971年)。工期は13か月。
耐震性に問題があり、建て替えた場合は日影規制などの規制を受けるため5階程度しか建てられず、間取りも3LDKが中心だったため十分な事業採算を確保できない課題を抱えていたのを、リファイニング建築を活用して再生した。
既存躯体の耐震性を向上させるため、コンクリートの既存バルコニー手摺をポリカーボネートに変更することで建物の軽量化を図り、耐震補強したうえで84%を再利用しているのが特徴。建物は東京大学との共同研究により建替えの場合と比較して、CO2を72%削減することも実証されている。
また、従前は1フロア3LDKの3戸構成だったのを、周辺の賃貸マーケットニーズに合わせた各階1LDK~2LDKの5戸構成とすることで事業性能の向上と安定稼働の実現を図っている。
共用部の再生にも力を入れており、従前の植栽をそのまま継承するとともに、エントランスにあった御影石の壁・フェンスを取り払い外に開かれた空間にし、御影石は共用部や専用部に用いることでデザイン性を高めている。既存の水盤は既存庭園が写り込むように一新。1階のロビー・応接室は事業性を高めるため87㎡の住戸に変更し、別にエントランスを新設している。
見学会でオーナーのケーズコート代表取締役社長・木村達央氏(72、昨年10月の段階)は、「耐震診断を行ったら南側の窓、駐車場などに×点がつき、建て替えたら5階程度にしかならず大幅に事業採算が悪化することが分かった。リファイニングは費用が7掛け、8掛けになり、工事期間も3年くらいが約1年に短縮できた。間取りもマーケットにふさわしいものになった」などと語った。
青木茂氏は、「18年前に、スクラップ&ビルドよりCO2が83%削減できると発表したときは『あっそう』という反応しかなかった。今回は構造面で苦労したが、かなりやりたいことができた。これからは脱炭素の有力な手法の一つとして普及させたい」と話した。
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今回の物件については、昨年10月に行われた解体見学会を取材しており、記事にもしているのでそちらも併せて読んでいただきたい。この日は、解体見学会でお会いした服部夏子さんにお会いできるのではないかと楽しみにしていたのだが、作品をロビーに展示するとそのまま帰られたそうだ。残念。
百聞は一見に如かず。物件内にはリファイニング建築サロン(モデルルーム)も7月下旬まで設けられるので、興味のある方にお勧めだ。目からうろこが落ちるのは間違いない。フランク・ロイド・ライトは“空間の魔術師”と呼ばれるそうだが、記者は青木茂氏を〝建築の魔術師〟と呼ぶ。
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