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2021/10/08(金) 11:19

世界へ 建築業界に新風 青木茂リファイニング×服部夏子アート 「信濃町」見学会

投稿者:  牧田司

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Forever

一昨日(106日)のことだ。三井不動産と青木茂建築工房の「(仮称)シャトレ信濃町リファイニング工事」の解体見学会の取材を終え帰ろうとしたとき、解体途中の2階の壁面いっぱいに冒頭の映像が映し出された。

一瞬、草間彌生さんの水玉芸術かと思ったが、そうではないこともすぐわかった。油絵が趣味で、多少は美醜を分けることができると自負している記者はこのアートに魅了された。今まで観たこともないものだった。

アートは、主にアメリカで活躍されている世界に一人しかいない布再生アーティスト・服部夏子さん(34)の「Forever」と題した縦横約3.5mの作品だ。

布をお手玉のように丸め、それをキャンパスに縫い合わせて仕上げたもので、布は服部さんのおばあさんが着ていた和服や洋服を用いており、おばあさんが好んだ藤をイメージしたそうだ。作品にはおばあさんに対する服部さんの思いのたけが込められている。完成させるのに半年くらいかけたという。

会場でもらった資料には、服部さんは福岡県北九州市出身で、2006年の18歳のとき、第15回青木繁記念大賞公募展に最年少で入選。2010年、筑波大学芸術専門学群洋画専攻を卒業後渡米。これまでメトリポリタン美術館、ウォール・ストリート・ジャーナル本社ビル、ニューヨーク日本総領事館令和記帳会場などで展示・個展を開いたなどとあり、作品概要には次のようにある。

「『布』という素材は人にとって、最も身近な素材である。この素材によって伝わる人の暖かさや人間味、繊細な感情や自然な美しさなど、布の持つ無限の可能性を追求しながら、作品を制作している。

例えば、亡くなった人の洋服を見ただけで、沢山の思い出が蘇ってくるように、布は、多くの記憶と思い出を留めることが出来る。

​制作過程は、まず、お手玉のような布のボールを作り、それぞれを縫い合わせることによって、完成する。どの作品も、布で『包む』という行程が重要である。『包む』という行為には、様々な苦痛や悲しみ、挫折や憎しみ、愛や希望、そして人の暖かさをも包み、肯定的なエネルギーに換えるパワーがあると感じている。そして、この『包む』という行為を、上述したように、私たちにとって一番身近な素材である布で行うことによって、作品は表現されている。

​また、記憶を留める衣類も巡りゆく年月の中、やむをえず処分されることがある。しかし、その布を使って作り直し、作品として生まれ変わることで、新しい命が生まれる。

記憶、環境の視点から見てもその布を使いアートを作ることにより、新たな日々の中にその布と共に生きることが出来る。このように身近な布を使って、作品を作ることによって、アートを通じて想い出を共有し、身近に感じることは豊かな生活に繋がる。

​上記からも取れるように私の作品は、環境に配慮されたリファイニング建築と通ずるものである」

皆さん、いかがか。これで服部さんと青木氏の接点が分かる。布再生アートもリファイニングも〝世界に一つ〟〝唯一無二〟だ。

これだけではない。「青木繁」は福岡県出身で、28歳にして早逝した明治時代の著名な画家だ。「青木茂」氏は大分県出身で、現場見学会などを開くと大賑わいになる〝売れっ子〟建築家だ。つまり服部さんは「青木繁」「青木茂」「九州出身」とも連なっている。

服部さんは記者の問いに「『青木繁』の賞は、歴代最年少入選だったこともあり、私にとって特別なスタートをきった存在です。10年以上経って、『青木茂』先生との出会いは、自分でも驚きでした。『九州&青木&再生&世界』は確かにその通りですね」と答えた。

建物は来年3月に完成し、「Forever」はエントランスロビーに飾られる。三井不動産が日本橋再生のコンセプトに掲げる「残しながら、蘇らせながら、創っていく」にもぴったりではないか。

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       ◆     ◇

青木茂建築工房の作品は20件くらい見学しただろうか。素人の記者は何度見てもさっぱり分からないのだが、アルファベッドや記号や線でむき出しのコンクリ壁にマーキングしている図はアートに見えなくはない。

だがしかし、今回だけは服部さんの作品にはかなわない。真っ先に紹介したのはそのためだ。

青木氏は「どうして俺の作品が刺身のつまにされるのか」と怒り狂うタイプではないはずだし、むしろその逆で、してやったりとほくそ笑んでいるのではないか。仕掛け人は青木氏に違いない。

リファイニングと布再生アートの融合は、建設業界に新しい風を巻き起こすのではないか。

           

以下が、解体見学会で紹介された概要だ。物件は、JR中央線信濃町駅から徒歩7分、新宿区信濃町3丁目の第一種中高層住宅専用地域に位置する敷地面積968㎡のSRC10階建て・RC2階建て延べ床面積2,605㎡。建設年は昭和46年。従前用途は賃貸住宅20戸と店舗。リファイニング後は賃貸住宅32戸と店舗1戸。設計は青木茂建築工房。施工は大末建設。竣工予定は20223月。サブリースは三井不動産レッツ資産活用部、三井不動産レジデンシャルリース。

施工にあたって、耐震性能を向上させるため構造耐力に影響のない壁を撤去し、建物全体の軽量化を図り、袖壁補強と炭素繊維補強で耐震補強を行っている。工事に際しては高いせん断耐力と剛性を発揮するアンカー「ディスクシアキー」を使用しているのも特徴の一つという。コンクリートの耐久性を確保するために1フロア約300か所、全体で約3,000か所の補強を行っている。

居住性能では、既存のコンクリートスラブ厚120ミリでは遮音性が不足するため、二重床のほか、新開発の施工がしやすいサイレントドロップを天井に使用することで、遮音等級LH60からLH55へワンランク上げる効果が実証されている。建物全体にサイレントドロップを採用するのはわが国初の事例という。

見学会でオーナーのケーズコート代表取締役社長・木村達央氏(72)は、「マンションは父が50年前に建てた。地震時に大丈夫かと調査してもらったら、あらゆるところに×(ぺけ)が付いた。このままでは貸せないと考え建て替えを検討したら5階建てにしかならず、大幅に採算が悪化することが分かった。困り果てていたところで青木先生のセミナーを聴いて、これはいいと工事を決断した。環境にもやさしくいいことづくし。成功事例として広がってほしい」と語った。

リファイニング建築は、耐震性能上問題のない壁や設備を撤去し、建物全体を軽量化し、独自の補強で現行の建基法基準などを満たし、建て替えと比べ約70%のコストで設備、内外装を一新し工期短縮を実現し、新築並みの価値を生み出すのが特徴。これまで100棟以上の調査、計画、設計を行っており、今回の物件は完成時で93棟目となる。三井不動産との連携は6棟目。

 今回のプロジェクトでは、三井不動産と東京大学新領域創成科学研究科清家剛教授との共同研究により、建て替えと比べCO2排出量は全体で約72%削減できることが実証されている。

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「ディスクシアキー」

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サイレントドロップ

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説明する青木氏

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補修のためのマーキング

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建設現場

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