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2022/05/18(水) 17:55

住民監査請求の行方 街路樹の価値の可視化必要 千代田区の「街路樹が泣いている」

投稿者:  牧田司

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信濃町駅近くの外苑東通りのイチョウ並木

 千代田区監査委員会は5月16日、「神田警察通りⅡ期道路整備計画」でエリアに植えられている街路樹であるイチョウ32本を伐採せずに工事することを求めた住民監査請求に基づく意見陳述の場を設けた。記者は傍聴した。

 冒頭、請求人の代理人弁護士・山下幸夫氏が工事請負契約は違法・不当である旨を記載した「意見陳述書」を提出したほか、出席した6名の住民は「神田祭を通じて話せばわかることを学んできた。話し合いの場を設けなかったのは地域にしこりを残す」「工事はⅠ期と同じ工法で行われると信じて疑わなかった」「車椅子利用者は木陰が必要。伐採決定には憤りを覚える」「戦後、祖母に背負われて育った。イチョウは戦後復興のシンボル。それを励みに生きてきた。子どもや孫に残してほしい」などと意見を述べた。

 住民監査請求は、住民が監査委員に対し、関係職員が違法若しくは不当な財務会計上の行為又は怠る事実について監査を請求し、是正を請求する制度で、違法とは、法令の規定に違反することをいい、不当とは、違法ではないものの行政上実質的に妥当性を欠き、適当でないことを指す。議会や議員を訴えることはできない。

 住民らは今年4月21、街路樹の伐採は違法・不当として監査請求を行った。陳述とは、請求人が監査委員に対し請求の趣旨を補足して説明するもの。監査委員は監査請求があった翌日から60日以内に監査結果を報告することになっている。

 総務省の調べによると、平成19年4月1日から平成21年3月31日までの間に請求があった住民監査請求件数は1,798件で、請求に基づき勧告を行ったのは91件となっている。

◇      ◆     ◇

 今回の「意見陳述書」は次の通り。

1 本件監査請求で対象としているのは、千代田区長が、令和3年10月14日、「神田警察通りⅡ期自転車通行環境整備工事」のために大林道路との間で締結した工事請負契約が違法又は不当な契約の締結であるという点です。

2 この件については、令和3年9月21日の企画総務委員会において審議され、街路樹を伐採して工事を実施することが決まり、その後、同年10月13日の本会議において賛成多数により、本件契約の締結についての議案が可決されています。これを受けて、千代田区長が本件契約を締結しています。

3 しかしながら、イチョウを伐採して道路の整備を行うという本件契約に基づく工事は、本件が都市計画法上の計画そのものではないとしても、土地の合理的な利用が図られるべきであるとする都市計画法の趣旨に反していると考えられます。これは、最低でも歩道幅員2メートルが必要であると説明されている点と、車椅子の障がい者にとって本件街路樹が伐採されることによって新たなバリアが作り出されるおそれがあるという点から、合理性があるとは認められません。

4 また、地方議会における議決には、「住民の利益を保障」し、「住民の代表の意思に基づいて適正に行われる」ことが期待されており、そのための民主的プロセスを経て議決されることが必要です。

 ところが、街路樹を伐採して工事を実施することについての千代田区議会における義烈(まま)は、次に述べるように、十分な住民の合意プロセスを経ないで行われています。

5 住民監査請求書で述べたとおり、住民に対する情報公開が極めて不十分かつ不適切であったこと、住民アンケートが極めて不十分かつ不適切であったこと、「既存の街路樹を活用する」と明記していた「神田警察通り沿道賑わいガイドライン」を変更したことが千代田区議会にも報告されず、変更のためのパブリックコメントの手続きが取られていないこと、そして、今回の工事については、千代田区が決めた「附属機関等の設置及び運営並びに会議等の公開に関する基準」、「意見公募手続要綱」そして「参画・協働のガイドライン」に基づく当然になされるべき手続が全くとられていません。

 また、令和2年12月25日の企画総務委員会で配布された資料において、保存を優先すべきとした藤井名誉教授の意見が、本人の確認を経ないまま、異なる要約をされて、伐採に賛成する意見のようにして配布されています。

 さらに、千代田区議会は令和4年3月17日の陳情審査で、工事を行うに当たって、「沿道住民の想いを大切にし、常民(まま)同士の一致点を見いだせるよう努力する」ことを申し入れると集約しましたが、千代田区は、令和4年4月9日に双方の意見交換の場を1度設けただけで打ち切っており、陳情審査の集約の趣旨に反しています。

6 このように、住民の意向を十分に反映しないだけでなく、千代田区の職員が、千代田区議会に対して事実に反する説明をしたり、正確な情報を伝達せずに結論を誘導しており、その結果なされた千代田区議会の議決には重大な瑕疵があるといわなければなりません。

 また、千代田区長と業者との契約にも、本件街路樹は「枯損木」として記載されていますが、樹木医の診断でも健全な樹木であり、「枯損木」と評価されるべきものではなく、契約自体にも瑕疵があります。

 以上のように、千代田区議会の議決自体に重大な瑕疵があり、それに基づいて締結された千代田区長の本件契約の締結は違法又は不当であると考えます。

以上

◇        ◆     ◇

 皆さんは、上段の住民の意見陳述や意見陳述書をどう理解されるか。記者は街路樹伐採に反対する住民の方の敵でも味方でもない。イチヨウの味方だ。今回の問題について6回に分けて記事にしている。それらの記事と共に読んでいただきたい。間違ったことを書いていないはずだ。

 傍聴した限りでは、何らかの是正措置を取るよう勧告する可能性はあるようでないとも考えられるというのが率直な感想だ。

 上段でも書いたように、監査請求が認められる割合はほんの数パーセントしかないからだ。今回の問題で住民らが指摘している「瑕疵」は、区議会当事者が認めているように確かにある。だからといて、区の手続きに瑕疵があることを証明するのは容易ではない。具体的な法令違反を証明しないといけないからだ。情に訴えても監査委員はまず考慮しない。「意見陳述書」には都市計画法(2条と思われる)についての言及もあるが、同法2条は基本理念を示したものだ。これに逸脱しているからといって、街路樹の伐採の違法性・不当性を証明するのは至難の業だろう。

 区の環境まちづくり部地域まちづくり課が令和3年9月15日付の課長決済で、「第17回神田警察通り沿道整備推進協議会(令和2年12月2日)において、神田警察通り沿道賑わいガイドラインの記載との相違についての確認を行い了承された。その後、旧ガイドラインに基づく指摘が多数あったため、内容の一部を修正し、あわせて広報広聴課にホームページの改正の手続きを行う」(主文)とガイドラインの「など」を削除したのは大問題だと思うが、「軽微な修正」という区側の言い分をどう覆すか。(ガイドラインは法律ではないが、区も住民も縛る極めて重大な文書だ。公文書の改ざんとも解釈できる)

 区のガイドラインには、「千代田区職員コンプライアンス・ガイドライン」もある。このガイドラインには「法令等を遵守し、適正に職務を行います」などのほか「区民等に信頼感を持ってもらえる応対をします」とある。「区民等」は注釈付きで「区民、区内事業者に限らず、職員が職務において接するすべての人を、『区民等』としています」とあるように、「等」は単なる例示を示す文言ではない。

◇        ◆     ◇

 記者は以前から、街路樹や緑の価値を可視化できないかとずっと考えてきた。今回の住民監査請求でも、住民側はイチョウが伐採されることでどれほどの価値が棄損されるか具体的な数値を示すべきだと思う。監査委員からも「(伐採による)区の損害額はいくらと想定されているか」という質問に対し、代理弁護士は「計算していない。調べて後ほど報告する」にとどめた。

 しかし、その額を算定するのは極めて難しいはずだ。算定する方法がないからだ。ところが、ネットで調べたらそのような研究を行っている人や団体があることが分かった。

 真っ先にヒットしたのは、Alexis Ellisの平林聡氏や徳江義宏氏・伊藤綾氏・今村史子氏・森岡千恵氏らによる「川崎市川崎区を事例としたi-Tree Eco による街路樹の生態系サービスおよびその貨幣価値の推定」という論文だ。

 論文の冒頭には、次のような記述がある。都市の樹林等の生態系サービス(生物・生態系に由来する、人類の利益になる機能)の定量的・経済的な評価方法について、国外ではEnviroAtlasやInVEST等の評価・可視化ツールが開発され、維持管理や政策決定等の実務面において活用されている。しかし、国内では都市の樹林地の生態系サービスについて事例的な研究は行われているものの、貨幣価値までを含めた総合的な評価を行った事例は少ない。さらには、樹木等データの測定・収集、生態系サービスの算出、政策立案を行うための統一的な方法論や標準的なツール、システムは確立されていないと。

 川崎区の街路樹研究は、米国で開発された「i-Tree Eco」(Eco)を用いて1)炭素蓄積・固定、2)冷暖房使用量増減、3)乾性沈着による大気汚染物質除去とそれに伴う4)健康被害軽減、5)雨水流出量削減を数値化し、その結果、「川崎区の全街路樹について,年間約530万円の貨幣価値(炭素蓄積が約84万円、炭素固定が約6万円、冷暖房使用量が約3万円増加、大気浄化による健康被害軽減が約200万円,雨水流出量削減が約243万円)と推定された」としている。

 また、「Ecoでは街路樹の主な役割である景観向上の貨幣価値算出機能が実装されていないが、標本調査に基づいた解析では、樹木そのものの貨幣価値が算出可能である。しかし、今回は全数調査であったこと、算出方法が米国内限定であったことを理由に解析を行わなかった」としている。

 この論文を読んで、わが国は米国などと比べて緑の価値の可視化の研究が遅れているのを知った。これまで都市計画や緑に関する会合などをかなり取材してきたが、その価値の可視化について触れた学者先生は一人もいなかった。

 平林氏らの今回の川崎区の街路樹の貨幣価値が530万円というのは、景観価値が考慮されていないのでこのような額になったと理解した。

 みなさんは街路樹の景観価値をお金に換算したらいくらになると考えられるか。記者は、信濃町駅近くの外苑東通りのイチョウ並木は1本当たり最低300万円、神田警察通りⅡ期のイチョウはまだ若いので100万円くらいではないかと思う。(イチョウは〝バカにするな、俺はそんなに安くないぞ〟と怒るかもしれないが)

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千代田区 明大通りの歩道空間の整備工事(プラタナスはそのまま残される)

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同じ明大通りの歩行空間整備工事で全て街路樹が伐採されたお茶の水駅近くの街並み

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 「枯損木」について。意見陳述書には「本件街路樹は『枯損木』として記載されていますが、樹木医の診断でも健全な樹木であり、『枯損木』と評価されるものではなく、契約自体にも瑕疵があります」とある。

 記者も目視したので「枯損木」ではないと断言できる。いったい誰が「枯損木」と判断したのか。樹木医がそのような報告を区にするはずがないと思い、区に確認した。

 環境まちづくり部は「東京都の工事積算基準には街路樹を伐採する場合は『枯損木』という文言を使用することになっており、区はそれに従った。樹木診断も受けているが、樹木医さんはそのようなことは仰っていない」と答えている。

 だとするならば、街路樹を道路の附属物としか見ていない道路行政に問題はあるが、区が「枯損木」として処分することを決めたことを瑕疵として認定するのは難しいような気がする。監査委員はどう判断するか。

住民は必ずしもイチョウ伐採に賛成ではない 千代田区の「街路樹が泣いている」(2022/5/14)

 

 

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