知らないのは小生だけかもしれないが、皆さんは東京大学の「卓越教授」という称号をご存じか。
同大学ホームページによると、称号は「本学現役教授のうち、専門分野において特に優れた業績を挙げ先導的な役割を果たしている者で、①ノーベル賞の受賞者又は文化勲章の受章者②ノーベル賞・文化勲章に準ずる賞の受賞又は業績を有する者として部局長が推薦した者に対して付与することができる」とあり、これまで2017年3月の梶田隆章教授(ノーベル賞受賞者)と十倉好紀教授、平成31年3月の藤田誠教授、令和3年9月の宮園浩平教授、同4年3月の相田卓三教授の5氏に付与されている。
称号が付与されると、「75歳までの雇用を特例的に認め、定年退職後も本学の教育研究に従事していただくことが可能になるほか、『特別栄誉教授』の称号も付与する」とある。
さて、今回はそのうちの一人、「藤田誠」教授(65)だ。付与の理由として「有機化学・錯体化学。有機分子と金属イオンの間に働く弱い結合力(配位結合)を駆動力とする巨大有機構造体の自己集合構築原理を創出した。このようにしてつくられた中空構造体にはさまざまな小分子が捕捉され、新しい機能や分子構造解析手法の創出につながった。紫綬褒章、ウルフ賞(化学部門)等を受賞している。6月に恩賜賞・日本学士院賞を受賞予定」とある。
読んでも宇宙語のように何のことやらさっぱり分からないが、「ウルフ賞」は1975年、イスラエルのウルフ財団によって設立され、賞金として10万米ドル(1ドル135円として約1,350万円)が贈られる。「ノーベル賞の前哨戦」とウィキペディアにはある。
先生は、難しい専門的な話など(相手によるのだろう)一つもしないで、分かりやすく話した。巷で揶揄される「東大話法」とは真逆だ。
その話とは6月20日、三井不動産が行った「三井リンクラボ柏の葉1」内覧会で、最上階に入居している「FS CREATION」について説明したものだ。
「FS CREATION」は、ライフサイエンス研究の基盤となる「統合分子構造解析」を主軸とする世界唯一のオーブンイノベーション拠点とのことで、藤田先生の研究室のほか、佐藤宗太特任教授の東大社会連携講座「統合分子構造解析講座」、わが国を代表する3大分析装置メーカーの島津製作所、日本電子、リガクが参画している。延べ床面積約1,400㎡、20社が出資している。
ラボ、研究室内は入室をためらったほどで、訳がさっぱり分からないおどろおどろしい機器が所狭しに配置されていた。写真を撮ってもいいか伺ったら、藤田先生は「構わない。見せられないようなものは置いていない」と平然と言い放った(猫に小判だ。何を撮っているのか小生は全然分からなかった)。
以下が肝心な先生の話。先生はプロジェクターを前に15分くらい話されたか。一言一句を伝えられないのが残念(記者は30年以上ワープロとパソコンに頼り切っているので、話し言葉を漢字に変換してメモることができなくなった)だが、先生は当初遊び心で場づくりを始めたそうだが、その後、のめり込み研究者目線、装置メーカー目線、ユーザー目線、不動産会社目線、大学目線、建築家目線からいって全てが新しい、誰も発想しなかった、異次元の「様々な目線で前例のない試みがなされている」と話した。
このことと関連するかどうか分からないが、先日記事にした千葉大学名誉教授・小林秀樹氏も「複合視点」が重要と話された。「様々な目線」「様々な視点」は同じような気がする。
その目線を一つひとつ紹介できないが、記者が目を見張ったのは研究室内のカラーリングがアースカラーの緑に統一されており、オープンラボはとてもシンプルで美しい白が基調になっていたことだ。天井高は約3m。機器などを収納するアルミ製と思われる棚も全て淡いグリーンで塗装されていた。研究に支障をきたさないようにLED照明にも工夫が凝らされていた。これを見て、それぞれのプロが侃々諤々の論議を経て実現したことが理解できた。
先生はもう一つ大事なことを話された。「理論とシナリオを完成させ予算を獲得しても、成功事例としてそれを証明する場がない。大学は定年になると研究室などを明け渡すことになっており、意欲があってもその場が確保できない」と。「FS CREATION」の「FS」は藤田先生と佐藤先生のそれぞれの頭文字をとったのだそうだ。
「三井リンクラボ柏の葉1」は、隣接する国立がん研究センター東病院・先端医療開発センター・橋渡し研究推進センター(NCC)との産学医連携をサポートする施設で、敷地面積約3,611㎡、6階建て延べ床面積約10,978㎡。貸付面積は約8,227㎡。約107㎡から最大約660㎡まで複数区画貸しも可能。カフェ、ラウンジ、会議室を併設している。基本計画は日建設計。設計・監理は清水建設。施工は清水・京成共同企業体。建物は昨年11月に完成。同社は同じエリアで今後3棟のラボを建設する予定。
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