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2022/10/11(火) 20:45

オリンピック選手村 売却額の是非を問う 住民訴訟控訴審 第1回口頭意見陳述

投稿者:  牧田司

 東京都が中央区晴海のオリンピック選手村用地を民間事業者に約130億円で売却したのは「適法」として、住民らの訴えを退けた東京地裁判決(事件番号 平成29年(行ウ)第388号)を不服として、原告側が東京高裁に控訴していた住民訴訟の第一回口頭弁論が10月11日、同高裁で行われた。以下、双方の代理人弁護士の口頭意見陳述要旨を紹介する。記者の考え、感想は明日以降に紹介する。

◇        ◆     ◇

意見陳述要旨

2022年10月11日

東京高等裁判所第8民事部 御中

 

原告ら控訴代理人弁護士 淵脇みどり

 1 東京オリンピックから1年が経過し、本年6月に収支報告書が提出されましたが、本件で、住民が損害賠償を求めるよう請求している1,000億円を超える選手村敷地の土地差額は「経費支出」としては計上されていません。森友学園と同じく公有地のダンピングに値引き額は、「隠された支出、隠された損害」です。隠された支出は、特定建築者の利益となりました。本件は、東京オリンピック利権をめぐる、地方自治の本質に関わる重要な訴訟です。東京オリンピックから1年が経過し、オリンピックをめぐる財政状況について、抜本的な検証が求められている今こそ、司法の場である東京高等裁判所で十分に審議すべきです。

 2 原審では、本件の土地価格が定められた事実について41頁から51頁で、明白に重要な事実認定をしました。

 平成25年9月に、東京都が委託したパシフィックコンサルタンツは…支援業務報告書を作成し…選手村の事業手法について①土地譲渡方式②一時貸付後土地譲渡方式③都による個人施行としての第1種市街地再開発事業その他の方式を比較し、③を最も適切であるとしています。さらに、土地価格については、事業採算性に係るシミュレーションから土地負担力(土地価格)について、110億円(1㎡あたり88,000円)と記載してあるのです。

 さらに、その後、東京都は、特命随意契約として不動研に土地価格調査を委託し、平成27年11月30日の初回調査報告書の結果では、110億1,800万円でした。東京都は、同じ土地について、特命随意契約で再度本件調査報告書の作成を依頼し、「平成28年4月1日基準129億6,000万円」の結果報告をうけ、この金額をもとに、個人施行の再開発事業の事業計画、権利変換計画を作成して、特定建築者に売却しています。

 3 この事実は何を物語るのでしょうか?

 初回調査報告書の110億円という金額は、「事業採算性に係るシミュレーション」から出した価格110億円とぴったり一致します。東京都は、このシナリオに沿った価格で売却するために、その根拠を「事業採算性」とするわけにはいかず、別の裏付け資料が必要だったのです。東京都は、不動研の権威を利用して作成したのがこの2通の土地価格調査報告書だということは、火を見るより明らかです。

 東京都は、初回報告書の作成は港湾局から都市整備局への所管換えのために出した数字だと主張して、原審もこれにそった認定をしましたが、実際に都議会では所管換えの価格は132億円として計上されており、132億円の根拠となる資料は存在しないのです。二つの調査報告書を作成した意味を正確に判断すべきです。

 4 原審は、法適用についての判断も明らかに誤っています。

 原審は、東京都の本件土地譲渡行為について、「当該地方公共団体の財産を特定建築者へ譲渡する事に他ならないから、都市再開法108条2項により、控訴人等の主張する「地方公共団体の財産の管理処分に関する法令」は、適用されないとしつつも、「少なくとも地自法2条14項及び地方財政法2条1項の趣旨は及ぶ」と判示しています。同じ「地方公共団体の管理処分に関する法令」でありながら、108条で適用除外される法令と「地自法2条14項及び地方財政法2条1項」を区別する合理性はありません。

 しかも、原審は、地方自治法2条14項及び地方財政法2条1項違反について、条文に基づいた緻密な観点からの審査を全くしていません。東京都の主張する抽象的なオリンピック要因による減額を無批判に肯定し、「行政裁量の逸脱はない」としています。地方自治法2条14項は、「住民の福祉に務めるとともに、最小の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない」と定めています。最小の経費といえるかどうかは、本件敷地の正常価格の不動産鑑定を抜きに判断することはできないはずです。

 地方財政法2条1項は「国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策行ってはならない」と定めている。しかるに、本件のような「都道府県の実質的な土地の直接譲渡」について、「個人施行の一人三役の再開発」という手法を取ることによって、「地方公共団体の財産の管理処分に関する法令」の適用除外を認めることは、地方自治法の根幹を骨抜きにする脱法行為を認めることになり、まさに「他の地方公共団体の財政に累を及ぼす施策」であります。

 5 特定建築者は、わずか129億6,000万円で、この土地を買い、その1割の12億9,000万円を支払っただけです。土地残金116億640万円は、建物竣工まで支払いを免除され、その間固定資産税の支払いも免除されます。この土地に、東京都は、高額の土地基盤整備費を投入しており、オリンピック期間中には、建物に十分な賃借料が支払われ、選手村建物の設備費(エアコン、バス、トイレ等)も東京都が負担するという至れり尽くせりぶりです。すでに晴海フラッグのマンションは高倍率で売却中です。これ以上、土地価格を減額しなければならない理由はありません。

 6 控訴審では、被告の公文書の短期間廃棄を理由にする情報秘匿を許さず、十分な審理を尽くし、本件事案の本質に沿った公正な判決をだされるよう求めます。

被控訴人側意見陳述書要旨

令和4年10月11日

東京高等裁判所第8民事部 御中

被控訴人訴訟代理人弁護士 外立 憲治

 控訴人らは、第一審において、手を変え、品を変え、様々な主張を行ってまいりましたが、その根幹的な主張は一つです。それは「本件土地の本来の価格を算出し、実際の譲渡価格との差を明らかにせよ」というものです。ここでいう「本来の価格」というのは、「選手村要因」を考慮しない、鑑定評価基準における「正常価格」のことです。しかし、第一審判決で東京地裁が判示したとおり、特定建築者は本件土地を自由に使用収益・処分し、これを最有効使用することができませんので、「正常価格」を算出する前提を欠いているのです。よって、本訴訟においては、特定建築者が再開発事業に係る負担や制約を負うことを前提として、言い換えれば、「選手村要因」が存在することを前提として、その範囲内において、本件土地の価格が適正であるか否かが最重要の争点になります。つまり、本訴訟においては、控訴人らが想定する「本来の価格」なるものは存在しないのです。当然のことながら存在しない「本来の価格」と実際の譲渡価格の差を求めることは本訴訟では全く無意義かつ不可能なことなのです。

 それでは、何故、控訴人らはその無意義な主張に固執するのか。その理由は、控訴人らの政治的信条にあります。東京都は、本件土地に選手村を整備し、オリンピック終了後には、本件土地に建築された建物を活かして、地域特性を踏まえた魅力あるまちづくりや多様な住まいの実現を目指すという政治的な決断をしたものですが、この政治的決断が控訴人らの政治的な信条と相いれないものであるので、控訴人らは、自らのその信条を公の場で訴えるために、住民訴訟を提起したものだと私は考えております。

 しかしながら、私がここで一人の法曹として指摘しておきたいのは、住民訴訟は、一部の住民の政治的な主張を披歴する場ではないということです。住民訴訟は、住民が、個人の権利や利益と関わりなく、たった一人でも提起できますが、それは当該個人の政治的主張を披歴する場として法廷を利用することを法廷が許容しているというわけではなく、「地域住民の全体の利益を利益のため、住民の手により違法な財務会計行為を防止し、是正等することによって地方財政行政の適正な運営を確保する」という法の趣旨の下、審理対象が財務会計行為に限定されているものです…これを司法の場で法と無関係に争うとする控訴人らの姿勢は、行政制度に司法から介入し、民主政を脅かすものではないでしょうか。

 最後に、この意見陳述で申し上げておきたいのは、一審から私が度々申し上げてきたことですが、控訴人らの主張する「官製談合」などは全く存在せず、控訴人らが構築した架空のストーリーでしかないということです。事実、控訴人らは、本提訴において、原審では談合が存在したことを示す具体的な証拠を何ら提出できていません。即時に証拠を提出する義務があると考えます。

 控訴人らは、証拠もない状況下、公的にマスコミを通じ、反論することもなく日々公務に従事する誠実な東京都職員や特定建築者らの名誉を継続して著しく毀損する行為を、つまり人権侵害を永年の間行っています。本控訴審においても証拠を直ちに提出できない主張ならば、さっさと取り下げるべきであり、それはむしろ控訴人らの政治的心情(信条の誤りか)と合致するのではないかと思います。

 控訴人らは、本件土地の価格が秘密裏に決定されたなどと勝手なストーリーを述べておりますが全く事実に反します。東京都は、本件土地の価格等調査を外部の団体に委託し、その後、特定建築者が公募されていることからも明らかなとおりであり、本件土地の価格は透明性の高い公募のプロセスを経て決定されているのです。それにも拘わらず、控訴人らは本件土地の価格決定プロセスの全体像を見ることなく、恰も談合が存在したかの如く主張しております。

 控訴人らは、自らの政治的な信条に世間の耳目を集めることを目的として…五月雨式に主張を行っているわけですが、このような訴訟行為が許容されるようであれば、先ほど申し上げた本来の住民訴訟の主旨が没却され、東京都における多数の「地域住民の全体の利益」が毀損されることは明らかです。裁判所におかれましては、意見陳述の趣旨を是非汲み取って頂き、迅速な訴訟の進行のため、適切な訴訟指揮を私共は頂きたいとお願い申し上げます。

オリンピック選手村裁判 住民ら原告側の訴えを棄却 「開発法」は適法 東京地裁(2021/12/23)

 


 

 


 

 

 

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