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2022/12/05(月) 17:01

全て疑ってかかれ メディア・リテラシーの基本原則を忘れていないか

投稿者:  牧田司

 住宅着工と不動産グラフ.png

 全て疑ってかかれ-メディア(記者)の基本だ。マス・メディアであろうと個人がSNSを通じて発信する情報であろうと、その情報は発信者によって編集され、そこには何らかの意図・企みが隠されており、受け手は発信者が企図するものを読み取り、批判的に読み取らなければならない-メディア・リテラシーの原則だ。

 なぜ、こんなことに触れるか。デベロッパーもメディアも評論家も、マンション市場を語るとき、その論拠に必ずと言っていいほど不動産経済研究所(不動研)のマクロデータを利用し、受け手もまたそのマクロデータを無批判に受け取っているのではないかという疑問を小生はずっと抱いているからだ。

 断っておくが、不動研のデータを鵜呑みにするなと言っているのではない。同社のデータは、マンション市場を把握するにはとても貴重な資料だ。ただ、同社のデータは全体像の一部を捉えたもので、全てではないことをわれわれは忘れてはいけない。

 それがいいか悪いかはさておき、同社の調査対象は専有面積が30㎡以上で、30㎡未満のワンルーム・投資向けマンションや1棟売り、最近増加している再開発物件の地権者住戸などは調査対象外になっている。(同じような調査は、不動研のほかに東京カンテイ、工業市場研究所なども行っており、東京カンテイは30㎡未満も調査対象に加えており、工業市場研究所は最近はほとんど供給されなくなった公的機関のマンションなども対象にしている)

 別表・グラフを見ていただきたい。国土交通省の首都圏マンション着工戸数と不動研の首都圏マンション供給戸数の推移を比較したものだ。国交省の調査は着工時点での数字で、その後、賃貸用に用途変更されたり、確認申請が取り消されたりしたものまで追跡調査していない。一方で、不動研は上述したような条件を付しており、着工と分譲開始には1~3年くらいのタイムラグが生じるので着工=供給という意味ではない。

 それにしても、戸数の乖離率(着工を100とした場合の不動研のカバー率)が著しいと皆さんは感じないだろうか。例えば、2013年。着工戸数は約6.8万戸であるのに対し、不動研は約5.6万戸(カバー率83.0%)だ。

 それ以降のカバー率はほとんど50~60%台で推移しており、2020年は着工約5.4万戸に対して不動研は約2.7万戸で、カバー率は50.5%となっている。当時、メディアは不動研のデータをそのまま報じ、マンション低調・退潮イメージを拡散した。2010~2021年で見ると、着工戸数約73万戸に対して、不動研は約48万戸で、約25万戸の差(カバー率65.3%)がある。

 しかし、マンションの着工戸数は減少しているが、分譲戸建てが増加したため分譲住宅はそれほど減少していない。中古マンションの成約件数も最近は新築を上回っている。

 ここに注目する必要がある。情報発信者も受け手も分譲戸建てや賃貸市場を含めたもっと広い視野で眺めないといけない。消費者の視点からすれば、本来は新築であろうと中古であろうと、マンションであろうと戸建てであろうと、あるいは賃貸であろうと、自らのライフスタイル・ステージにふさわしい住宅を自由に選択できるのが理想的な姿だ。それを阻んでいるのは何かも考えたほうがいい。

 着工戸数と不動研の供給戸数の乖離については、2022年9月の記事で次ぎのように書いた。

 「記者は、当初分譲予定だったのをリートなどに1棟で売却する戸数は年間3,000~5,000戸、地権者向け・事業協力者向け住戸は年間7,000~10,000戸、30㎡未満のコンパクト・投資用は7,000~9,000戸、合計年間17,000~24,000戸くらいあるとみており、この数字を加えるとほぼ住宅着工戸数と一致する」

 メディア・リテラシーの基本に立ち返る必要性を最近強く感じているので書いた。

マンションの質の退行・劣化、着工戸数の捕捉率、新築・中古の価格などを考える(2022/9/5)
 

 

 

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