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2022/09/05(月) 11:18

マンションの質の退行・劣化、着工戸数の捕捉率、新築・中古の価格などを考える

投稿者:  牧田司

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 あまり論じられない新築マンションの質、着工戸数と供給戸数の違い、新築と中古の坪単価などについて考えてみる。

 まず、新築マンションの質について。ここ3~4年間、地価や建築費の上昇に反比例するように基本性能・設備仕様の劣化・退化が進んでいるが、これについて言及した書籍や記事など寡聞にして知らない。

 かくいう記者も、新築マンションの記事を書くとき基本性能・設備仕様レベルについて極力触れるようにしてはいるが、そもそも劣悪な(と思える)物件は取材しないし、ここ10年くらいは年間100物件前後しか見ていないので、マンションの質を論じる資格はない。歯がゆい限りだ。

 しかし、過去に書いた記事から、いかに最近のマンションの質が劣るかは証明することができる。10年前の2012年に分譲されたマンションの記事を紹介する。

 この年を代表する首都圏マンションの一つ、三井不動産レジデンシャル「パークコート千代田富士見ザ タワー」では「標準階高は3,450ミリ。モデルルームはセンのフローリング、エントランスの天井布クロス、紫檀のドアハンドル、天然石巾木、オニキス洗面ボウル、アントニオ・チッテリオデザインの水栓、センで統一した和室(以上181㎡の「粋」)、チーク材の突き板フローリング、ホワイトオーク材の建具、アルミ真鍮ガラスの多用、天然石モザイク貼りだった」と書いた。坪単価は476万円だった。近く分譲される準都心部の〝駅近〟タワーマンションとほぼ同じだ。

 坪単価370万円の野村不動産「プラウド小石川」はどうか。「共用部分の床はカリン材。壁はブビンガ。専有部分にも自然石、自然木がふんだんに用いられており、シルバーハート、アフドルモシアなど聞いたことも見たこともない面材が採用されていた。ドア・把手はイタリア製、システムキッチン・御影石天板はジーマティック製。浴槽のエプロンなども天然御影石だ」と記事にした。

 坪単価270万円の三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス日吉」は「キッチンの天板が大きめの御影石で、バックカウンターの天板も同じ御影石を採用し、吊戸棚を含めて標準装備。ディスポーザー、食洗機、ミストサウナも標準装備」とある。

 坪単価310~320万円のモリモト「ディアナコート文京千石」は「マホガニーを家具・面材、床材に採用している。床は厚さ2ミリだ。このほか玄関、キッチン、洗面室にはふんだんに大理石、御影石を採用。設備仕様では、ディスポーザー、食洗機などを標準装備。サッシは高さ2300ミリ」と紹介した。

 このような質の高いマンションはこの年に限ったことではない。三菱地所レジデンス(当時、三菱地所)が2006年に足立区で初めて分譲した「北千住パークハウス」の記事をぜひ読んでいただきたい。記事には「天井高最大2.7メートル、二重床・二重天井、ワイドスパン、ディスポーザー、御影石の玄関床、複層ガラス採用など、間違いなく足立区や伊勢崎線の物件では水準以上だと判断した。坪単価は185万円で相場並みとみた」と書いている。同社の矜持が商品企画に表れている好例だ。

 では、いったい質の劣化はいつごろから始まったか。記者は2018~2019年ころの着工で、2019~2020年ころの分譲開始物件ではないかと考えている。2017年分譲開始の住友不動産「シティタワーズ東京ベイ」は「御影石キッチンカウンター、ディスポーザー、食洗機、リビング天井高2600mm、ワイドスパン、二重サッシ、Low-Eガラス」だった。

 同じ2017年分譲開始の長期優良住宅認定を受けた積水ハウス「グランドメゾン品川シーサイドの杜」は「設備仕様では、メーターモジュール、ドア把手の壁面までのセットバック、折上げ天井の廊下、天然石のキッチン天板、食洗機、ミストサウナなどが標準装備。リビング天井高は2500~2650ミリ」だ。坪単価は308万円だった。

 2020年に野村不動産「プラウド神田駿河台」を見学し、記事には「主な基本性能・設備仕様はリビング天井高2700(11階まで)~2800ミリ(12階から)、階高3200~3400ミリ、二重床・二重天井、食洗器、木製フローリング、木製壁パネルなど」と書いたのだが、この時、天井高がどんどん低くなっていることを関係者と話したのを記憶している。

 それにしても、マンションの基本性能・設備仕様、居住性能などについて論じられることがほとんどないのは、自戒も含めてジャーナリストを名乗る人やメディアの劣化もまた進んでいるからではないか。

◇        ◆     ◇

 冒頭の表を見ていただきたい。着工戸数と供給戸数はかなり差(捕捉率)がある。この11年間で見ると、もっとも捕捉率が高いのは2013年の83.0%で、もっとも低いのは2020年の50.5%だ。平均では63.7%となっている。

 国交省の着工戸数は、着工時点の分譲用として建築確認が行われた戸数で、その後、取り下げられたり、あるいは用途変更されたりした場合まで追跡していない。

 一方で、不動産経済研究所の数値には、30㎡未満や1棟売りなどは調査対象外で、再開発や建て替えなどによる地権者用住戸や事業協力者向け・優先分譲などは含まれていない。

 これが捕捉率に表れている。記者は、当初分譲予定だったのをリートなどに1棟で売却する戸数は年間3,000~5,000戸、地権者向け・事業協力者向け住戸は年間7,000~10,000戸、30㎡未満のコンパクト・投資用は7,000~9,000戸、合計年間17,000~24,000戸くらいあるとみており、この数字を加えるとほぼ住宅着工戸数と一致する。

 マンション市況を論じる場合、この捕捉率にも注目する必要がある。供給戸数が減っているから市況が低調とは限らない。むしろ逆のケースもありうるわけで、マクロデータを鵜呑みにしてはいけない。

 新築供給戸数と成約件数の推移を見てみよう。2016年に新築の供給戸数35,772戸を中古戸数37,189戸が上回って話題になったが、この年の住宅着工は64,769戸(捕捉率55.2%)だった。その後、6年連続して中古が新築を上回っているが、表面に出ない数値も考慮しないといけない。〝新築低調、中古好調〟という単純な図式にはならないということだ。ただ、中古の成約件数と坪単価は2021年に過去最多・最高となったのは注目に値する。

 新築と中古の坪単価について。新築はこの10年間で45.1%も上昇している。2020年には坪300万円を突破した。20坪(66㎡)で6,000万円だ。

 ただ、この数値も前段で書いた基本性能・設備仕様ベルや専有面積の推移と一緒に考えないと市場を捉えたことにはならない。専有面積でいえば、2021年の平均面積は66.86㎡で、坪単価が200万円以下だった2002年の73.73㎡から実に6.87㎡(約2.1坪)、畳数にしたら約4.2畳大も縮小している。価格が大幅に上昇し、質も面積も低下の一途なのが今の市場だ。

 中古はどうか。中古もすさまじい上昇を続けている。2021年は坪197.4万円で、2012年の126.0万円から56.7%の上昇だ。マンションの45.1%と比較すると11.6ポイントも高いのは、新築の価格上昇、供給減、基本性能・設備仕様の退行のほかリフォーム・リノベ物件による魅力付けなど様々な要因が考えられ、詳細な分析が必要だ。専有面積はこの10年間63~65㎡台で推移している。

 新築価格を100%とした場合の中古価格の割合は60前後で推移してきたが、2021年は63.9に上昇した。これも中古の市場・先高観を反映しているのかもしれない。 

三井不動産レジデンシャル「パークコート千代田富士見ザ タワー」(2012/11/5)

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