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2023/02/23(木) 13:36

「地区計画変更には大きな疑義」東洋大・大澤准教授 日テレ本社跡地再開発

投稿者:  牧田司

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日テレ通りと番町学園通りの交差点から二番町D地区地区計画地を望む 

 もっとも民主的な制度であるはずの地区計画の信頼性が揺らいでいる。東京都千代田区が日本テレビの提案を受け、都市計画で定めた日本テレビ本社跡地を含む二番町地区地区計画を変更し、日テレ跡地の建物の高さ制限を現行の60mから90mとする都市計画案に対する公聴会で、公述人の意見が真っ二つに分かれるなど、先行きが全く読めない展開を見せている。

 二番町地区地区計画は平成20年(2008年)、区域面積約12.1haを対象に都市計画決定された。全体として住宅、商業・業務施設が共存した複合市街地の形成を図るとし、地区特性に応じA地区(約2.4ha)、B地区(約7.3ha)、C地区(約2.4ha)の建築物の用途規制、壁面後退、高さ制限、緑化率などを定めている。

 区は、令和4年10月12日に日本テレビから二番町D地区地区計画の提案を受け、都市計画法第十五条―第二十八条の規定に基づき都市計画案を策定した。

 計画案では、従来のB地区の0.8haとC地区の0.7haを切り離し、D地区(約1.5ha)とし、さらにD地区をD-1地区(1.0ha)とD-2地区(約0.5ha)に分け、建築物の高さ制限をD-1地区は90m、D-2地区は60mとしている。除外したD地区以外の変更はないとしている。

 そして区は2023年1月26日、区としては初めての都市計画法第16条第1項に基づく公聴会を実施。公聴会では、区の案にもろ手を挙げて賛成する公述人が相次いだ。以下、主な意見を紹介する。
 ・60m以下のどこにでもあるような普通のオフィスビルよりも30m高くなりますけど、日本テレビさんの協力のもと、地下鉄のバリアフリー化や…エリアマネジメント、歩道の拡幅、バリアフリーの確保、これは非常に…重要な要素を含んでいると思います。これらを担保・実現するのであれば、建設物の高さ制限は全く問題ないと考えます
 ・(日本)テレビさんが作った「番町の庭」や「番町の森」が、子育てする地元住民にとっても大変ありがたい場所だと思います。保育園の子供たちや地元の小学生が毎日のように元気に走り回る姿はビルの立ち並ぶ都心ではなかなか見られない光景ですし、良いまちになったなと思います
 ・(日本)テレビさんを儲けさせるために高い建物をたてさせると批判される方もいらっしゃいますが、テレビさんはいままでも私たちと一緒に考えてくれていました。これからもずっと管理してくれるわけですので、本当は千代田区さんからも補助金を出してあげてもいいと思います
 ・私は、本当に100mでも120mでも150mでも、結果的にそれが地域に貢献できるんであれば、別に高さなんて気にすることはなかったと思います。でも、何が何でも60mという、その地区計画に則る形でやられて、お話がずっと頓挫していたことを考えると本当に残念です

 一方、反対意見を述べた公述人は、建築物の高さをA地区は30m(総合設計の適用を受けた建築物は40m)、B地区は50m(同60m)、C地区は60mと定めた現行の地区計画を改め、日テレの計画地を切り離し、その計画地のD -1地区の建築物の高さを90mにしていることに強い拒否の姿勢を見せた。以下、主な意見。
 ・日本テレビさんが高さ90mの具体的なプランを初めて公開されたのは昨年の7月ですから、まだ7か月ほどしかたっていません。既存のルールを変更するという大きな決断をするには、まだコンセンサスが形成されていないように思われます
 ・確かにまちづくり協議会は12回開催されておりますが、この90m案が示されたのは、昨年9月26日の、最終の第12回会議で提案されたものです。このときの審議が最初で最後であって、その具体的中身については一切議論がなされないまま、二番町の日テレ敷地の不整形の土地に地区計画を変更しようとしているわけです
 ・昨年2月4日に、3,328名の署名が、千代田区長に提出されました。これは地区計画の現行高さ制限60mを遵守して欲しいという番町住民・通勤者・通学者による、署名でございます。この公聴会の後にいきなり都市計画法17条の手続きに移るのではなく…日テレと住民が忌憚のない話し合いをして、そのギャップを縮めていただくことを提案します
 ・突然、二番町12.1haのうち日テレが1社で支配する1.5haだけを切り出し、周囲を睥睨する地域唯一の超高層ビル建設を認めるという乱暴な地区計画変更案が区から出され、驚愕しています

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日テレが整備した暫定利用の「番町の庭」(左)と「番町の森」

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番町文人通り(右は総合設計制度によって整備された歩道空間と高さ60mの「日テレ番町スタジオ」。記者は異形の建物としか思えない)

◇        ◆     ◇

 先日、2時間かけて件の番町エリアを歩いた。公述人が仰った地区計画の対象外エリアにある90mのオリコ本社ビルと都市センターホテル、60mの日本工営ビルを除けば、地区計画エリア内の建築物でもっとも高い建物は15階建てくらいで(1層を3~4mとすると60m)、日テレの「番町スタジオ」もまた約60mだ(それより高い既存不適格はないはずだ)。

 記者は、建築物の絶対高さ規制より足元の公開空地・緑地を確保するほうが大事だと考えているのだが、私見を述べる前に、都市計画に詳しい専門家の声を聞こうと東洋大学理工学部建築学科准教授・大澤昭彦氏にお願いした。小生は14年前、当時東京工業大学大学院社会理工学研究科・財団法人土地総合研究所研究員だった大澤氏に「100尺規制」「建築物の高さ規制」について話を聞いており、いっぺんにファンになった。見識の深さもさることながら、その男前に惚れ込んだ。

 今回も大澤氏は快く応じてくれた。大澤氏は「研究者として公平な立場でいるべきと考えていますし、その立場から見ても、二番町地区地区計画の変更については多くの問題をはらんでいます」と次のように問題点を指摘した。

1.都市計画マスタープランとの整合
 ・1998年に策定された都市計画マスタープランで当該地区を含む「番町地域」は、「中層・中高層の住居系の複合市街地」と位置付けられました。
https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/toshi/kekaku/masterplan/bancho.html
 ・ これを受けて、番町地域の大半のエリアで地区計画が策定され、最大でも60mに制限されています。
 ・ 建築基準法ではかつて60m超の建築物を「超高層建築物」と定義していましたので、番町地域では「超高層」は認められないことを意味します。
 ・ 都市計画マスタープランは2021年5月に改定されましたが、「中層・中高層の住居系の複合市街地」の文言は維持されました。つまり、番町では「超高層」を容認しない姿勢が改めて確認されたわけです。
https://www.city.chiyoda.lg.jp/documents/17862/toshimasu-4_2.pdf
 ・ それにもかかわらず、マスタープランと整合しない地区計画の改定が行われようとしていることに違和感があります。
 ・ 再開発等促進区を定める地区計画の策定にあたって、マスタープランと整合しない内容になることはあり得ます。ただし、それはマスタープランが古く、地域の実態や社会経済環境の変化に対応できていないケースに限られます。番町の場合は、マスタープランは改定されたばかりであって、状況は全く異なります。
2.地区計画の目標・建築物等の整備の方針との整合
 ・2008年に策定された二番町地区地区計画では、都市計画マスタープランの内容を受けて、中層・中高層の街並みの形成が謳われています。
https://www.city.chiyoda.lg.jp/documents/4355/32nibanchou.pdf
 ・ さらに「建築物等の整備の方針」の中には、次のように明記されました。「建築物の高さの制限に加えて建築基準法第59条の2第1項の適用に際しても、建築物の高さの最高限度を適用することにより、建築物の高さが整った良好な街並みの形成を目指す。」
 ・ すなわち、総合設計制度等の規制緩和手法を用いても60m超を認めない姿勢を明示したわけです。この意図はとりもなおさず、番町の「中層・中高層の街並み」を守るためです。
 ・ 今回の見直しは、こうした二番町地区地区計画の考え方に反するものです。
 ・ 根本的な方針転換を図るのであれば、その合理的な根拠を示すととともに、合意形成を図るべきと思われますが、そのどちらも十分なものといえません。
3.地区計画改定の根拠の問題
 ・ 千代田区は、規制緩和の根拠として、地域の課題であった地下鉄のバリアフリーや公園の不足をあげています。規制緩和の見返りに日テレが地下鉄駅へのエレベーターや広場を整備することになっているため、これを以って緩和が認められると判断したようです。
 ・ ここで問題になるのが、バリアフリーや広場の整備の代わりに、超高層ビルが建つことで住環境が変化する可能性についての説明がなされていない点です。
 ・ つまり、規制緩和のメリットの説明だけで、負の影響について明確に示されないために、住民が適切な判断ができない(不安が解消されない)状態にあります。
 ・ また、そもそも住民が広場を求めているのかについての疑問もあります。現在、敷地内に番町の森という仮設の広場が設けられており、賑わいをみせています。ただ、南側に超高層ビルが建てば日陰になり、夏場以外、快適な広場になるとは思えません。ビル風の問題も発生することが懸念されます。
4.合意形成の問題
 ・ 地区計画改定の前に「日本テレビ通り沿道まちづくり協議会」で開催されていましたが、ここでの議論が煮詰まらない状態で、地区計画改定の手続きに移行しました。
 ・ 都市計画法第16条第2項に基づいて地権者等の意見書の提出で、賛否が拮抗したことを見ても、合意形成が不十分であると思います。
【まとめ】
  ①都市計画マスタープラン(しかも改定されたばかり)に反する計画を区自らが認めることがそもそも問題。
  ②規制緩和手法を用いても60mを超えられないと規定している現行地区計画の考え方の抜本的な方向転換となるため、その合理的な根拠の明示と合意形成が必要だが、そのどちらも欠けている。強引に再開発を進めれば、都市計画に対する信頼が大きく損なわれることになる。何のための都市計画なのか? 誰のための都市計画なのか? と住民は疑問に思っても不思議ではない。
 ③今回の変更を認めれば、他の地区でも同様の規制緩和が進む(日テレは認めたのに、なぜうちでは認められないのかといった意見が出てくる)。結果的に、マスタープランで掲げる「中層・中高層の住居系の複合市街地」が、なし崩し的に損なわれるのではないか。

◇      ◆     ◇

 みなさん、いかがか。記者はぐうの音も出ない。一つだけ疑問を呈せば「超高層建築物」とは何ぞやという問題だ。

 記者は、2023年1月30日付記事「齊藤&浅見先生、誰に読ませたいのか?! 『タワーマンションは大丈夫か?!』」で次のように書いた。

 「建基法第20条は『高さが60mを超える建築物 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること』と定めているが、これがタワーマンションであるとか超高層建築物であるとかは規定していない。

 記者は昭和60年代の初め、『超高層マンション』の記事を書いた。東京都やUR都市機構、三井不動産などの『大川端リバーシティ21』の開発が開始され、従来の物差しでは計れないマンションが続々供給される気配を感じたからだ。定義を調べるために日本建築センターに取材したのだが、定義はなく18階以上だとか20階以上だとか聞いた覚えがある」

 つまり、大澤氏も「かつて60m超の建築物を『超高層建築物』と定義していました」と「かつて」を付しているように、「超高層」の定義ははっきりしないということだ。

 とはいえ、60mを一挙に90mに緩和する根拠はやはり希薄と言わざるを得ない。国土交通省の地区計画を策定するための「ルールづくりの進め方とポイント」でも「行政発意で始まった検討の場合でも、会議の進行は組織のリーダー等に委ねたり、住民主導の取り組みの重要性を繰り返し説明する等して、少しずつ住民主導による検討がなされるよう誘導していくことが重要である」「住民等が主体的にルールを策定するためには、意見対立が生じた場合にも、住民等で議論して自ら解決方法を見出すようにすることが望ましい」としている。

齊藤&浅見先生、誰に読ませたいのか?! 「タワーマンションは大丈夫か?!」(2023/1/30)

絶対高さ制限の背景にある100尺規制とは(2008/6/10)

全国に広がる建築物の「絶対高さ規制」「住民は知るべき 行政は伝えるべき」大澤昭彦研究員(2008/6/3)

あれから17年 国立マンション訴訟終結 支援者の「会」が上原氏への寄付募る(2017/1/8)

 

 

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