伊藤忠商事、KDDI、豊田自動織機、三井不動産、三菱地所は5月17日、2024年度中のフィジカルインターネットの事業化に向け共同検討することについて合意し、覚書を締結したと発表した。業界を横断したパートナー5社で物流改革を推進し、国内における物流の2024年問題の解決を含む持続可能な物流の実現を目指す。
以下、プレス・リリースをほぼそのまま紹介する。
物流は、日本の経済基盤を支える屋台骨であるにも関わらず、人口減少に伴う担い手不足に加え、トラックドライバーの時間外労働規制(「物流の2024年問題」)、カーボンニュートラルへの対応、燃料高・物価高等の影響を受け、業界を取り巻く環境は日に日に厳しさを増しており、このままでは将来的にモノが運べなくなる恐れがあります。物流を今後も持続可能なものとするには、荷主、事業者、一般消費者が一体となり現状の課題に向き合うことに加え、物流の標準化(パレット活用拡大等)やDX・GXによる効率化といった次世代の解決策を講じることが不可欠です。
次世代の解決策として期待されるのが、フィジカルインターネットです。フィジカルインターネットとは、荷物や倉庫、車両の空き情報などをデジタル技術で可視化し、業種を超えた複数企業の倉庫やトラックを相互接続させたネットワークで、発着点間で最適な輸送ルートを導き出し物流効率を高める、新しい共同配送の仕組みです。パケット単位で効率的な情報の送受信を実現しているインターネットの考え方を物流に適用しています。
経済産業省は2021年から各産業界にフィジカルインターネットの活用を働きかけ、2022年には実現に向けたロードマップを作成しました。フィジカルインターネットの活用によって物流業務を標準化・効率化することで、物流の担い手の負担を軽減することができます。また、トラックをはじめとした物流リソースを有効活用することができるようになるため、燃料消費量が抑制され、温室効果ガスの排出量削減にも寄与します。
5社は今後、本覚書に基づき、2024年度中のフィジカルインターネットサービスの事業化を視野に入れ、新会社設立に向けた具体的な協議を進めていきます。また、荷主会社や運送会社とも連携を行い、物流輸送網の構築を図っていきます。将来的には、フィジカルインターネットの活用による物流業務の効率化に加え、同サービスによって生み出されたコストメリットを荷主・運送会社等の利用者が享受できる仕組みを構築することで、物流の新たなスタンダードとなるサービス形態を目指します。5社は業界の垣根を越えて物流改革を推進し、2024年問題の解決および持続可能な物流の実現に向けて邁進してまいります。
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記者は、物流のことはよくわからないが、2019年9月、Hacobuが他業種企業との取り組みを通じ、オープンな物流情報プラットフォーム「MOVO(ムーボ)」上で物流ビッグデータを蓄積・利活用することで、ドライバー不足等の物流課題を解決する「Sharing Logistics Platform®(シェアリング・ロジスティクス・プラットフォーム)」構想を発表したのを取材している。
先日の大和ハウス工業の決算説明会で、どこかの記者の方が「2024年問題は、御社の業務に弊害はあるか、支障はないか」と質問した。これに対して、芳井敬一社長は「当社は以前、法令に触れることを行ったことがある。法律を守らないということはありえない。法律を守れないような無理な計画を立てるな、そんな数字を挙げてはならないとしっかり伝えている」と、その記者を諭した。(小生は、馬鹿な記者もいるもんだとあきれ返るとともに、ものすごく腹が立った。芳井社長の答えも怒気を含んでいるように思った)
大和ハウス工業も三井不動産も「Sharing Logistics Platform®」構想に参画している。あれから5年近くが経過する。その後の進捗状況を聞きたい。今回の5社連携は結構なことなのだろうが、遅すぎはしないのか。「業界を取り巻く環境は日に日に厳しさを増しており、このままでは将来的にモノが運べなくなる恐れがある」と危機感を募らせている割には、動きはスローだ。どうして他の物流大手企業やトラック業界は入っていないのか。アナログの世界の解消は遅々として進んでいないのか。
ナイスは今年の1月17日、「新春経済講演会」を開催し、「どうなる!? 2024」をテーマに物流、弁護士、シンクタンク、木材、建設、住宅設備メーカーによるトークセッションを行った。とても参考になった。記事を一部紹介する。
悲観することない着工減 住宅の資産価値向上に取り組む
住宅設備メーカー 山田昌司氏(パナソニック ハウジングソリューションズ代表取締役 社長執行役員)
Ⅰ 2023年の住宅着工は約83万戸で、前年比3.9%減。2024年もほぼ同じ水準ではないか。棟数は減少しているが、住宅投資額は17兆円レベルをキープしており、それほど悲観する必要はない。住宅の省エネ化、カーボンニュートラルへの取り組みなど住宅の資産の維持・向上への政策に向き合うことが必要。業界構造変化では、いわゆるパワービルダーへ需要がシフトし、地域の注文住宅を中心とするビルダーは苦しくなる。一方で、大手メーカーによる地域工務店への支援によって新しいビジネスモデルが生まれる。リフォーム、リニューアルは堅調に推移し、非住宅は改修期を迎えているものが多く、市場は拡大する。
Ⅱ 物流に関しては、必要な時に届けてもらえなくなってきている。運んでもらえないことも発生しており、深刻な問題。サプライチェーンはこれからの課題で、資材を運ぶことが住宅建設工程の計画の一部であるという考え方に転換しないと物流問題は解決しない。
Ⅲ パナソニックグループは2050年までに現在の世界のCO2総排出量の「約1%(3億トン)」の削減を目指しており、「Panasonic GREEN IMPACT」と称する3つ取り組みを行っている。一つは、自社工場など28の拠点でCO2排出量をゼロにする「OWN IMPACT」で、これはすでに達成済み。二つ目は、既存の水素、省エネ、再エネ技術、廃材利用などの「CONTRIBUTION IMPACT」、3つ目は新しい技術で進める「FUTURE IMPACT」。着実に進めていく。
2024年問題は織り込み済み 工期延長にはならない
建設 熊野聡氏(長谷工コーポレーション取締役専務執行役員)
Ⅰ 東京のマンション価格が1億円を突破したなどとショッキングな報道がなされたが、これは一部を切り取った情報。都心部で高級マンションが供給されたためで、23区の平均価格は8,424万円と前年比で30%上昇した。それ以外の平均は5,300万円で、そんなに大幅に上昇したという印象は持っていない。近畿圏の市場はほぼ横ばい。超高級マンションは経営者など富裕層、スタートアップなどの需要が旺盛で、実需も伴っておりバブルではない。今年は金利先高観による買い急ぎはあるかもしれないが、底堅い市場に支えられ、それほどぶれないと予想している。
Ⅱ 2024年問題は工期に大きな影響はない。ゼネコンでは4週8休は取り込み済み。運送コスト上昇による価格上昇への影響はある。現場技術者の残業を減らすDX、IT、職人の働きやすい環境をつくる、ロス少なくするなど生産性を高める取り組みを進めていく。
Ⅲ 当社も木造推進委員会を設けて研究している。すでに23件の共用部分の木質化を行っており、賃貸マンションの上層階の木造化も行っている。分譲でも生かせないか考えている。
残業規制は労働者の人権 脱法行為はありえない
法律 秋野卓生氏(弁護士 匠総合法律事務所 代表社員)
Ⅱ 最近は、人不足により残業時間制限720時間の上限を超えてしまうという相談が増えている。このような質問には、立法趣旨を説明する。月80時間以上残業すれば過労死する危険性があり、残業規制は労働者の人権を守ることで、法律を守らないということはありえないと。一方で、労基法は1日8時間、100%の力で働くことを経営者は労働者の要請していい法律。これを実践しているか、残業代が生活費の一部になっていないか、これをチェックする必要があると提案している。
Ⅱ DXで働き方改革が実現できるのであれば、建設業法、労働安全衛生法などの法律を改正すべき。デジタル臨調でもそのような論議がなされた。2027年度の全国展開を目指す国土交通省のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)確認申請にも注目している。現場三次元の取り組みも加速させる必要がある。
長距離輸送に理解を 再配達は有料に
物流 馬渡雅敏氏(全日本トラック協会副会長)
Ⅱ 残業制限は建設業などは720時間となっているが、トラック業界は960時間。われわれの業界の長距離輸送は3~4割占める。法令を守れないから撤退する、あるいは長距離を受けないというところも出てきている。また、厚労省の法律も今年4月からより厳しくなる。住宅関連では、持ち帰り、転送などが多々ある。再配達でも1回分の配達料金しかいただけない。再配達は有料にするなど改善しないといけない。国土交通省の商習慣の見直しのガイドラインでもそのような方向性が示されるはずだ。
Ⅲ 国内のCO2排出量の2割が運輸部門。その中でわれわれのみどりナンバーの営業用はその2割、全体の4%がトラック業界。2030年までに2005年比で3割削減を目標に掲げているが、大型トラックはEVもハイブリッドもわが国では開発されていない。再配達とか物理的な無駄をなくしていくほかない。軽くて頑丈な国産材のパレットを開発していただきたい。プラパレばっかり。
用材自給率80%へ 熱を逃がす窓、ドアの木造化急げ
木材 鈴木信哉氏(ノースジャパン素材流通協同組合理事長)
Ⅱ いま木材自給率は50%を超えつつある。今後は山の中から丸太をどのように下すのが最大のポイントとなるが、林道の整備が進んでいない。おろすまで3時間も4時間もかかる。林道整備とともに、中間ストックヤードを設けることも必要。納入するのに20台、30台も並ばなければならないようなことをなくさないと、残業時間を減らすことができない。受け入れ時間を長くし、かつての日本通運のような大型の事業体が出現することに期待したい。川下、川中、川上が連携して安定的な発注システムを構築しなければならない。
Ⅲ 10年後の用材自給率は80%まで伸びるのではないか。問題は梁桁。レッドウッド、ベイマツの集成材からどうやって奪い取るか。国産集成材に頑張ってもらう必要がある。木造のきれいな公共建築物を見ると、唯一木が見えないのがサッシとかドアの開口部。アルミと木材の熱伝導率は3600倍違う。寒いところで熱を逃すために造っているようなもの。これは10年間で木に変えないといけない。バス、トイレ、キッチンにどうやって木を使っていくか。クオーター契約の導入も必要。