シーラテクノロジーズ(以下、シーラ)とクミカ(旧リベレステ)は12月2日、合同経営戦略発表会を開催し、クミカを完全親会社、シーラを完全子会社化とする株式交換による経営統合を行う予定と発表した。
株式交換により、クミカはシーラの株主に対してシーラの普通株式1株につきクミカ普通株式110株式会社(時価総額ベースではクミカ1:シーラ2.85)を割り当てる。
統合スケジュールは2025年2月14日の臨時株主総会で双方が議決し、2025年5月29日にシーラはNASDAQ市場での上場が廃止となり、株式交換の効力発生日は2025年6月1日。
経営統合後は、クミカは社名をシーラホールディングスに変更し、シーラ取締役会長・杉本宏之氏が代表取締役会長に、シーラ代表取締役社長グループ執行役員COO・湯藤善行氏が代表取締役社長に就任する予定。
経営統合が発表された午前11時すぎ、東証スタンダード市場のクミカの株価が暴騰。午後3時時点で始値340円に対してストップ高の410円(値上がり率20.6%)、NASDAQ市場のシーラは前日比0.060USD高の1.75USD(3.55%高)となっている。
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発表会でシーラ取締役会長・杉本宏之氏は、「不動産投資を取り巻く外部環境は厳しいが、当社は岩盤収益源である賃貸約4,000戸を管理しており、また、当社は売上原価の多くを占めるゼネコン機能を有しており、全物件を自社施工できる体制を構築する。設計、デザイン料などは内製化できている強みがある。2030年5月期には売上高700億円、総資産1,000億円をめざすが、双方の資産は300億円にのぼり、600億円を家賃収入、400億円をデベロップ部門をベースにする。在庫は(賃貸収入を生む)資産。M&Aを強化して大手デベロッパーが手薄な分野で各個撃破する」と語った。
杉本氏は1977年(昭和52年)生まれ。不動産業を営んでいた父親はバブル崩壊(1990年)をきっかけに事業に失敗、同年に母親を亡くす。その後、生活保護を受けながら、風呂がない四畳半のアパートでの生活を余儀なくされなくなったこと、父親との確執、大学進学をあきらめ高校卒業後、専門学校に通い宅建士の資格を得て不動産会社に就職、営業成績はトップクラスだったことなど、少青年期の波乱万丈の人生を赤裸々に明かしている。勤務先の不動産会社では商品企画に疑問を抱き、24歳の2001年12月、投資用ワンルーム事業を中心としたエスグラントコーポレーションを仲間らと設立し、初代社長に就任。同社はリーマン・ショック後の2009年、民事再生法の適用を申請し破綻。
その翌年の2010年11月、シーラテクノロジーズ(旧シーラホールディングス)を創業。不動産投資に特化した自社ブランドマンション「SYFORME」の開発・売買・管理・仲介を展開。2021年6月、不動産クラウドファンディング「利回りくん」のサービスを開始。2023年3月、国内不動産業界としては初となる米国ナスダック市場に上場。
シーラの2024年12月期決算予想は、売上高29,000百万円(前期比27.5%増)、営業利益は1,800百万円(同24.9%増)。
クミカ代表取締役社長・飯島弘徳氏は、「シーラさんとは今後供給する『大宮』『川崎(八丁畷)』での協業は進んでいるが、当社の創業社長が出資法違反で逮捕されて以降は経営基盤が不安定で、経営統合は企業価値を向上させるためには不可欠と判断した」と語った。
クミカの旧社名は1970年創業の河合工務店で、創業地の埼玉県越谷市を中心にマンション事業を展開、温泉付き「ベルドゥムール」で業容を拡大し、1999年には社名を「リベレステ」に変更、2000年には株式を店頭公開した。しかし、2023年、創業社長の河合純二氏が出資法違反の「抱き合わせ融資」で逮捕されるなど厳しい経営環境にあり、2024年6月、「リベレステ」から社名を「クミカ」へ変更、2024年8月、第三者割当増資6億円をシーラテクノロジーズが引き受け、シーラテクノロジーズは同社の30.58%の株式を取得した。
クミカの2024年5月期の売上高は4,765百万円(前期比36.0%減)、営業利益は295百万円(同72.7%減)、経常利益は302百万円(同72.0%減)、純利益は212百万円(同72.2%減)。
経営統合後の単純合算で売上高は337億円、営業利益は19.4億円となり、2026年度は売上高450億円、営業利益23億円を目指す。
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代理店から発表会の案内が届いたとき、気は進まなかった。シーラは投資用マンションやコンパクトマンションを展開している会社のようだが、記者の取材経験からして玉石混交というより〝石〟だらけの市場だと思っているからだ。しかし、クミカは河合工務店時代だから20数年前から温泉付きマンションを何度か取材しており、記者と同い年(確か75歳)の創業社長の河合純二氏が「井戸を2か所も掘ったんだ。温泉付きではない他のマンションにも特別車両で源泉を運ぶ」と得意げに話したのを覚えているので、参加することに決めた。それでも資本・業務提携だけでは前途は多難だろうと思い、記事にもそう書く予定だった。
記者が会場に着いたのは発表会の予定時間11:30の15分くらい前だった。いきなり、司会者から「有益な情報を伝えるため」と11:45分に延期すると知らされた。双方ともいい加減な会社だと正直思った。これでは先が思いやられると。ところが、会見の冒頭、司会者から経営統合発表会と知らされて、その理由がよく分かった。東証などへの報告事務があったからだと判断した。この時点で、前途に光が見えたように思った。経営統合は正解だろうと。
発表会の事前にシーラのホームページを調べた。同社初の富裕層向けマンション「THE SYLA SHIBUYA-TOMIGAYA(ザ・シーラ 渋谷富ヶ谷)」が紹介されていた。住所は代々木公園駅から徒歩5分の渋谷区富ヶ谷一丁目で敷地は188㎡(56坪)しかないが、1フロア1戸で専有面積は90.99㎡、間取り1LDKとあるではないか。物件概要を読んで、坪単価は1,000万円だと予想した。グロスで2億7,572万円だ。これまで低層で1フロア1戸という事例はあったが、高層マンションで1フロア1戸、しかも99㎡のマンションの供給事例はほとんどないはずだ。平屋を積み上げたプランは、ひょっとしたら売れるかもしれないと考えた。
会見後にこれだけは聞こうと杉本氏に尋ねたら「決済は済んでいませんが、8月に分譲開始し、即日完売しましたよ。坪単価平均は900万円」と話した。
また、「投資用・コンパクトマンション市場は厳しい。差別化を図らないと」聞いたら、「当社はこれまでも差別化を図っている。現段階でプランは公表できませんが、クミカさんと共創する『大宮』も『八丁畷』もジムやレストラン、コワーキングスペースなどを予定している」と杉本氏は話した。
シーラはこれまでの投資用・コンパクトマンションデベロッパーと全く違うと確信した。取材前にイメージした杉本氏の〝虚像〟は音を立てて崩れた。杉本氏は〝投資市場の自由化〟〝愛〟についても熱っぽく語った。前途洋々とは言い切れないが、発表会での話を聞きながら、こういう会社を応援したくなった。
「THE SYLA SHIBUYA-TOMIGAYA(ザ・シーラ 渋谷富ヶ谷)」は、東京メトロ千代田線代々木公園駅から徒歩5分、渋谷区富ヶ谷一丁目の近隣商業地域、第1種低層住居専用地域(建ぺい率100%・70%、容積率400%・150%)に位置する敷地面積約188㎡、延床面積約764㎡、8階建て全8戸(販売戸数7戸)。専有面積は90.99㎡。坪単価は900万円。間取り1LDK。設計・監理はエム・エスデザイン、デザイン監修はSTUMP、施工はシーラ。竣工予定は2024年12月下旬。