「グラスロック(Glass Rock)」
森ビルは4月7日、開発を進めてきた「虎ノ門ヒルズステーションタワー」の多機能施設「グラスロック(Glass Rock)」が4月9日に全面開業するのに伴うメディア向け内覧会を開催した。2011年に虎ノ門エリアの再開発組合が設立されてから14年、わが国を代表する複合タウン「虎ノ門ヒルズ」が完結することになる。関心が高いのか、約200人のメディア関係者が駆けつけた。
「Glass Rock」は、「つながる」場、「まなぶ」仕掛け、「ひろげる」発信の3つの機能を提供するもの。企画・運営には慶應義塾大学の宮田裕章教授も「アドバイザー」として参画する。4階には法人パートナーと共創パートナーが利用する「Partners Lounge」(約569㎡)、地下1階にはすべてのカテゴリーの会員のための「Members Lounge」(約258㎡)と会員の取り組みを可視化する「Gallery」(約63㎡)を設置している。
2階・3階は丸善ジュンク堂書店の新業態の書店「magmabooks」が入居し、会員以外の人にも学びの機会を広げるプログラムを展開。会員企業と省庁・自治体、NPO・NGO・アカデミアなどとのワークショップも開催する。1階には「TULLY'S COFFEE &TEA」の旗艦店などが入居している。
施設は、東京メトロ虎ノ門ヒルズ駅直結、虎ノ門一・二丁目地区第一種市街地再開発事業A-2 街区に位置する敷地面積約2,445㎡、地下3階地上4階建て延床面積約8,800㎡。着工は2019年11月、竣工は2024年8月。デザイナーはOMA。施工は鹿島建設など。
「虎ノ門ヒルズ」は2011年4月、「環状第二号線新橋・虎ノ門地区第二種市街地再開発事業」の一環として「虎ノ門ヒルズ 森タワー」(竣工2014年)が着工されてから、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」(同2020年)「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」(同2022年)「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(同2023年)に続き、今回の「Glass Rock」が加わり、区域面積約7.5ha、延床面積約80万㎡の複合施設が完成したことになる。
「虎ノ門ヒルズ」全景
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〝新業態〟という触れ込みの「magmabooks」に入ったときは、新刊本や芥川賞、直木賞受賞作などが山積みされており、どこにでもある本屋と一緒だと思ったが、すぐ普通の本屋とは異なることが分かった。ジャンルごとに書籍が並べられているのは他と同じだが、案内フラッグが棚の上部に設けられており、「来た道を振り返る」「都市と地球と私たち」「日本という方法」「どの道を行く? 」「私たちの現在地」「国家と民主主義」「生きづらさを感じたら」…などのフレーズが付いていた。
この種の案内フラッグを見るのは初めてだった(似たものはあるかもしれないが)。「国家と民主主義」のコーナーには日本地図があったりして(間違いではないが)苦笑してしまうものもあるが、都市問題や住宅問題のコーナーにはコルビュジエやガウディなどの古典のほか聞いたこともない建築家や都市計画とは関係がなさそうな本もあり、選書の工夫が見て取れた。
プレス・リリースには「本を読む前(読前)から読む最中(読中)、そして読み終わった後(読後)となる書店。コンセプトは『知は熱いうちに打て』」とあるが、その通りだと思う。
店舗のカラーリングは深緑か群青色に統一されている。これも実にいい。黄緑やライトブルーでは具合が悪い。天井高も約4mと高い。
これだけではなかった。筆者がもっとも印象に残ったのは2階と3階をつなぐ階段室だ。幅は2mくらいあり、壁の色も先に紹介した深緑か群青色。壁には、著名な日本人作家などの作品から引用・切り取ったと思われるフレーズが短冊状に並べられていた。
しばし眺めた。数を数えたらざっと30人。写真も撮った。髙村光太郎、八木重吉、九鬼周三、中原中也(2作)、田中英光、宮本百合子、永井荷風、竹久夢二、牧野富太郎、柳田国夫、梅崎春生、日野葦平、中島敦、小川未明、高浜虚子、梶井基次郎、岸田劉生、亀井勝一郎、古川緑波、太宰治、正岡子規…22人。あと8人が分からない。きちんと撮るべきだったか。
なぜ、現代作家はいないのか。版権が切れた死後70年以上経過しているのが味噌だ。小説は大半読んでいるはずなのに、フレーズは初めて聞くようなものばかりだった。その中で、もっとも好きなのは太宰治の「恥の多い人生を送って来ました」(人間失格)だ。自分自身のことだ。もう一つは、岸田劉生の「美は外界にはない。人間の心の喪にある」(想像と装飾の美)だ。本当にそう思う。さらに宮本百合子の「飼鳥になっては堪らない。そういう心持がした」(伸子)も、宮本百合子が生きた時代を考えると、よくわかる。
さりげなく展示しているのもいい。各地の公園や博物館、図書館などの公共建築物には立派な虚像(どうしてわがパソコンはこんな悪戯をするのか)が建ち、これまた高価な自然石に名句が刻まれている。まあ、これはこれで結構なのだが、これ見よがしなのが鼻につく。
このアイデアは他の書店も真似るといい。特許も実用新案申請もされていないはずだ。見学者の一人は「しおりにしたらいい」と話した。
「magmabooks」
他なの上部にはたくさん案内フラッグが設けられている
都市計画関係の書棚
階段室
階段室
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4階の「Partners Lounge」は見学するのを忘れたのだが、地下1階の「Glass Rock」の「Members Lounge」(約258㎡)では、オカムラの大容量のポータブルバッテリーがとてもいいと思った。容量はノートパソコンで3.5回分、スマートフォンで14回分充電が、同時に3台のパソコン利用がそれぞれ可能。隣り合う人同士でシェアして使用するのを想定しているそうだ。
驚いたのは、「妄想ボード」だった。この「妄想」は、三井不動産の植田俊社長が、社長就任会見で「大切にしているのは『妄想』『構想』『実現』という言葉」と話したので、記者はこれを見出しにした記事を書いた。3,000件超のアクセスがあった。
どうしてここに「妄想ボード」があるのか。森ビル関係者によると、同社のコミュニティマネージャーが何かの打ち合わせで呼びかけたものだという。主旨は植田氏と同じだ。植田氏が知ったら、してやったりとほくそ笑むのではないか。「妄想」⇒「構想」⇒「実現」が慣用句になるかもしれない。
4階の「Partners Lounge」
ポータブルバッテリー
妄想ボード
ホワイトボードには何を書いてもいいそうだ
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主催者の見学推奨ルートに従って最初に見学したのは1階の「TULLY'S COFFEE &TEA」だった。記者はカフェを利用するのはコーヒーを飲むより、タバコを吸うのが目的なので、TULLY'Sはあまり利用しない。専ら喫煙室があるドトールだ。「DOU TOR」のロゴが目に入ると〝パブロフの犬〟になる。取材の行きと帰りに2度利用することが多い。
「TULLY'S」の天井高は4mくらいあり、〝旗艦店〟とあるように広い。人だかりがしていた。素晴らしい店舗だとは思ったが、緑はすべてフェイク(本物を置いているカフェは皆無だが)。利用者に感想を聞いた。美しいか醜いか、本物か偽物かを見分けるのが仕事のはずのアートが専門の女性は「フェイク? 全然わからなかった。素晴らしいフェイク」と意に介さなかった。隣にいた不動産が専門だという女性は「(あなたは)5,000円もするチョコバー(記者はチョコ入りの酒かと思った)を売る店は本物のグリーンを置くべきと言いたいの」と話した。
半分当たりで半分外れ。マンションなどの高額商品はもちろんだが、あらゆる施設の緑は本物にすべきというのが記者の持論だ。
併設されている「ローズギャラリー」はよくわからなかったが、生産者の愛と心が込められた1本1,000円のバラの価値を理解する人は少なくないと思った。
気にしない人もいるのだろうが、記者はフェイク・グリーンがとても気になった
1つ5,000円以上する商品もたくさんあった
無料で供されたジュース類(税込みで700円台か)
「ローズギャラリー」