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2025/12/12(金) 17:32

団地再生のキーワードは「愛」 横浜市最大級「プロミライズ青葉台」建替え内覧会

投稿者:  牧田司

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「プロミライズ青葉台」 

桜台団地マンション建替組合、横浜市住宅供給公社、URリンケージの3者は1211日、横浜市最大級の「桜台団地建替えマンション「プロミライズ青葉台」第1工区の竣工記者発表会・内覧会を行った。

発表会場には3者のほか、設計・監理を担当した松田平田設計、施工の五洋建設、横浜市建設局、コミュニティ形成・環境整備に協力した団体なども参加し、2つの老い(建物と人)の壁を乗り越え「決定者は組合員」の原則に徹したことが事業成功・人気の要因で、全国の団地再生に新たな指針を提供するものとアピール。〝建て替えありき〟の民間デベロッパーには耳の痛い声もあった。

現地は、東急田園都市線青葉台駅から徒歩1014分、横浜市青葉区桜台の第1種中高層住居専用地域(建ぺい率60%、容積率150%)に位置する敷地面積約44,645㎡。従前の「桜台団地」は昭和41年(1966年)竣工の4階建て延床面積約25,61718棟全456戸。専有面積は52.62㎡・46.60㎡。

従後の「プロミライズ青葉台」は、5階建て5棟全761戸(うち権利者住戸205戸)。専有面積は31.5091.76㎡、価格は3,298万~9,298万円、坪単価290万円。参加組合員は横浜市住宅供給公社、URリンケージ。販売期間は20239月~202410月。入居開始は第1工区が20261月、第2工区が20266月。設計・監理は松田平設計、施工は五洋建設。

主な基本性能・設備仕様は、両面アウトフレーム工法、二重天井・二重床、リビング天井高2450ミリ、ディスポーザー、食洗機、奥行2mバルコニー(一部除く)、廊下幅850ミリ、スロップシンクなど。共用施設は2層吹抜けのエントランスラウンジ、ミーティングルーム&キッズスペース、スタディスペース、ゲストルーム(3室)、シアタールーム、ミュージックルーム、ルーフテラス、パークロードなど。

契約者の属性は、年齢は30代・40代が62.2%、家族構成は23人が75.0%、居住地は青葉区が38.1%、都内が17.9%、その他40.4%、勤務地は都内が61.2%。

記者発表会で桜台団地マンション建替組合理事長・鈴木実氏は、「私たちの活動は一言でいえば(建て替えありきを)誘導しない団地再生」と切り出し、2004年から建て替えの検討を開始してからリーマンショックによる計画のとん挫(挫折・分断)-再出発の取り組みなどについて話し、その教訓として、参加組合員(デベロッパー)任せでは物事は進まない、自己負担も必要(還元率62%)、コミュニティの変化と多様性への対応(安易なコミュニティ論は通用しない)、公平性を持つコンサルやアドバイザーの必要性を強調した。

事業が成功した理由として、①建て替えコンサルの横浜市住宅公社が長期にわたり一緒に歩んだこと(建て替えと修繕の双方の検討と「結論は全員参加」)②検討委員会の組合員への情報提供③目標と期限を設けたこと④外部専門家の有償による起用と講演会・勉強会の実施⑤外部委託は公開プレゼン+公開審査会により透明性を確保すること-などと語った。

続いて横浜市住宅供給公社理事長・小林一美氏は、別掲の通り約4分間のスピーチで「LOVE」「愛」のフレーズを18回も用いて「愛」の必要性を語った。

URリンケージ代表取締役社長・村上卓也氏は、「コンサルとして2016年から約10年間、合意形成に関する支援を行ってきた。プロセスを大事にし、当初建て替え賛成は65%だったのを全員合意に達するよう1年半かけて説明会、個別面談、よろず相談室などを設けて不安解消に取り組んだ」と、合意形成までのプロセスが大事なことを強調した。

松田平田設計取締役・田中義之氏は、「安心して長く住み続けられる街づくりを目指し、バリアフリー、多世代が利用できるコミュニティ施設の整備に力を入れた。合意形成までのプロセスをみんなが一緒になって考えることの大切さを学んだ。社会課題となっている団地再生に対して、設計者として担うべき合意形成を後押しする計画立案にトライしていく」と語った。

五洋建設東京建築支店執行役員副支店長・蓑真弘氏は、「2021年の解体から参画しているが、20266月の最終引き渡しまで皆様に喜んで頂けるよう工事を進めることを約束します」と述べた。

このほか、来賓として横浜市建築局住宅地再生担当部長・梶山祐実氏があいさつし、横浜市住宅供給公社街づくり事業課推進係長・石井浩基氏は、空地率は62.5%で、検討委員会の打ち合わせ回数は110回以上となったことを明らかにし、URリンケージマンション再生本部マンション再生部再生支援課課長代理・坂本肇氏などがそれぞれの立場から団地再生の取り組みについて説明した。

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航空写真(北東側から)

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航空写真(南西側から)

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SOUTH CORE

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EAST CORT

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左から鈴木氏、小林氏、村上氏

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左から田中氏、蓑氏

        ◆     ◇

 今回の取材の目的は、一昨年3月の記事で、見出しに「ランドスケープ、基本性能、価格設定に感動」と書いた内容に誤り・訂正するところがあるかどうかを確認することにあった。約1時間の各氏の話を聞き、さらに約1時間にわたって共用施設・専有部などを見学して回り、基本的に前回の記事を訂正する必要性はないことを確認した。

 特筆したいのは、比高差にして約24m、総延長200m以上の南北に細長い敷地の特徴を考慮し、居住者だけでなく近隣住民の歩道空間「パークロード」を整備していることだ。団地入口に位置する「STATION SIDE」と隣接する「EAST COREの住棟の中央部分に幅十数メートルの公開舗道を設け、そこから中央に配した円形の公開空地へとつなぎ、さらに敷地西側に位置する公園へと市道を整備している。アール形状の公開空地に沿って設けられている「SOUTH CORE」と「EAST CORT」のデザインも秀逸だ。

そして、〝なるほど〟と思ったのは、鈴木氏の熱弁だった。鈴木氏は冒頭のあいさつと事業説明に20数分話した。一つ一つ紹介できないのは残念だが、極めて重要なことを話した。桜台団地は、長期割賦による分譲形式だったため管理組合の設立は1999年と遅く、管理組合活動に対する無関心が遠因となり、長期修繕計画の策定を委託したデベロッパーがリーマンショック後に組合への説明もなく撤退したことから「混乱と分断」が始まったと説明。「民間デベロッパーに任せればいいという賛成派が旗振りをしていた」「アンケートの回収率は64%しかなかったのに、デベロッパーはそのうちの80%が賛成ということを強調した」「建て替えありきの取り組みは騙し」などと話した。

 そしてまた、驚いたのは、前段で紹介した横浜公社の小林氏のスピーチだ。約4分間のスピーチの中で「LOVE」「愛」を18回も口にしたことだ。

マンションの竣工記者発表会でこれほど「LOVE」「愛」を連発した挨拶は経験したことがない。〝記事はラブレター〟が基本姿勢で〝人生は愛〟がモットーの記者も、口先だけは〝愛してるよ〟を連発するが、小林氏は「冷徹さも必要」とくぎを刺した。今後の団地再生のキーワードは「愛」かもしれない。小林氏にスピーチの全文コピーを頂いたので、以下に紹介する。赤字は記者。

        ◆     ◇

横浜市住宅供給公社理事長の小林一美です。

このたび旅第1期の竣工を迎え、鈴木理事長様をはじめ参加組合の皆様、居住者、所有者の皆様、そしてURリンケージ様、松田平田設計様、五洋建設様、関係するすべての皆様にお祝いを申し上げます。

Reborn With LOVE」「もう一度、まちをつくりかえるなら、そこに必要なのは、たぶんだ。」「プロミライズ青葉台」のコンセプトを世にアピールした言葉です。

まさに今回、この長きにわたる事業がこうして竣工を迎えた要因は、様々な特徴的な取り組みがありますが、私は組合の皆様に通底する桜台団地への「愛」、ここでの暮らしへの「愛」であったと思います。

温かな情と固い絆に裏打ちされた、桜台団地への「愛」を居住者、所有者の皆様が持ち続け、大事にしてきたからこそ、今日の日を迎えたものだと思っています。

当社が2010年に建て替え事業に参画し、15年間一貫して大事にしてきたことは、主役は居住者の皆様であること、コンサルタントとして伴走することでありましたが、それ以上に、まさに桜台団地への「愛」を、未来にどう引き継ぎ、継承するか、形づくるか、そのお手伝いをどうやって行うかということでありました。

青葉台駅開設と同時に竣工した桜台団地、高台の緑あふれる風景、そして実に半世紀以上にわたって続いてきた住まいと暮らしは、この地への着、いわば「愛」を毎日毎日育んできました。

長く住んできた土地への、一緒に暮らしてきたお隣さんへの、お祭りをはじめみんなで助け合う温かなコミュニティへの、桜をはじめ四季を彩る花々や緑への、青葉台という地域への、様々なが桜台の住まいと暮らしにはありました。

とかく、団地再生、マンションの建て替えというと、その完成相成った新しい建物の姿や使い勝手のよい住宅のあり様が注目されますが、本事業では、住民本位の意思決定を何よりも大事にして進めてきたことが最大の特徴であり、桜台団地への思いをカタチにしたプロセスこそが特徴であると思います。アピールメッセージにあるように、「必要なのはたぶん」でありました。これは全国の高経年マンションの参考になるはずです。

今日からまた新たなスタートとなります。

Reborn With LOVE」桜台団地で育まれた「愛」を未来に向けて、大きく育てていけるよう、引き続き、当社としても、皆様のお力を頂きながら、なお一層取り組んでまいります。

本日は誠におめでとうございます。

        ◆     ◇

 小林氏と関係者の皆さんへ一言。「愛」は横浜公社の専売特許ではありません。2019年分譲の東急不動産他「ブランズタワー豊洲」も「愛」がテーマでした。

 注文もある。マンションに限らず、優良な建築物に誘導する横浜市の様々な条例は素晴らしいとは思うが、建築物の絶対高さが低ければ低いほど街が美しくなるという時代遅れの都市計画の考えを墨守する高さ規制は如何なものか。今回の建て替えでも高さ規制が15m(13m)であるためにリビング天井高は2450ミリしかなかった。隣接する敷地北側が1低層だからかもしれないが、工夫すれば容積・高さ規制を緩和すれば、もっと豊かな居住空間が実現できたはずだ。

 容積緩和・高さ規制緩和は、地価上昇・事業者の利益増になるかもしれないが、受益者への「愛」にもつながるはずだ。

 もう一つ。空地率は62.5%確保され、1,500本の中高木を植樹しているのはいいのだが、記者が見た限りでは敷地内に植えられていた樹木や街路樹(これから植えるのか)は、シンボルツリーの樹高15mくらいあったクスノキ以外は貧弱に映った。民間の団地型建て替え事業として記者が最高峰と考えている野村不動産・三井不動産レジデンシャル「桜上水ガーデンズ」や、豊富な植栽では最右翼だと思う「HARUMI FLAG」をぜひ見学していただきたい。空地率より緑被率、樹冠被覆率のほうが大事だ。

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SOUTH CORE 

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中央がパークロード

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マンション玄関口(左がパークロード、右が居住者専用エレベーター)

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従前の桜台団地

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