
「つくる人が続けられる食の未来をつくる。」左から吉開氏、馬場氏、神野氏、飯沼氏、鈴木氏(「大手町ゲートビルディングで」
三菱地所/めぐるめくプロジェクトは9月29・30日、「めぐるめく 日本の食卓会議2026」を開催した。2日間で125人が登壇し、会場参加者と双方向で農と職について語りあった。「食卓会議」は今回が4回目で、メディアにも公開された。イベントは、農・食に関するプレイヤー同士が領域を横断してつながり、〝ヒト・モノ・コト・カネ・チエ〟などのリソースを共有する場(コモンズ)の「めぐるめくコミュニティ」を広く認知してもらうため。
記者が取材したのは、29日の冒頭のオープニングの一部と坊垣佳奈氏の基調講演、「ハタウチカイ」と題する公開ディスカッションの1つのみだった。ディスカッションは、「つくる人が続けられる食の未来をつくる。」がテーマで、サーラ不動産・神野愛子氏をチャレンジャーとし、モデレーターの道の駅とよはし・吉開仁紀氏、パートナーのエマリコくにたち・菱沼勇介氏、やさしい道の駅たがみ・馬場大輔氏、コンタン・鈴木正晴氏の5氏が登壇した。
「ハタウチカイ」とは、種まきや植え付けの準備のため鍬などで畑の土を耕す工程を「畑打ち」と呼ぶことから、農・食のプロジェクトの芽を育む企画であることから名づけられたものだ。29日は10:00から同時進行の形で4 Field(会場)、すべて終了する17:15まで4×4=16 Fieldで、30日は4×3=12 Field、合計28 Fieldで行われた。各ディスカッションの登壇者は125人に上った。
なぜ1 Fieldしか取材しなかったかといえば、各氏の話がとても面白く、参加者の中から5~6人の方が討論に加わった双方向形式に大満足したからだ。酒でいえば、最高級のものを飲み満足し、それ以上飲むと〝めくるめく〟ほどのめまいを起こし、酩酊状態に陥る危険を避けようと考えたからだ。
4氏一人ひとり詳しく紹介する余裕はないが、改革に欠かせない「若者、バカ者、よそ者」そのものだった。一挙に場を盛り上げたのは、プロジェクターに名前を映し出し「私の名前は誰もが〝キチガイ〟と読むヨシガイです」と切り出し、爆笑を誘った吉開氏だった。
吉開氏は前職が行政マンであることを明かし「公園づくりに夢中になっており、調整区域に都市公園をつくったら、市の担当者から違法建築といわれたと」笑わせた(調整区域はそもそも自然の公園。そこに公園を作ろうなどとする発想は常識人にはないはず)。論議の途中で誰かが〝豊橋の大谷翔平と呼ばれているんでしょ〟と話したので、あとで身長を聞いた。192.6cmだそうだ(大谷は193cm)。
〝愛子さん、愛子さん〟と呼ばれた神野さんはサーラ不動産のフードバレーチームリーダーを務めており、生産者と消費者をつなぐ活動に力を入れている活動を紹介した。同社は豊橋駅前に電気・ガス・光熱費込みの家賃7万円のシェアハウス・シェアオフィスを運営しているそうだ。
菱沼氏は「前職は三井不動産。この三菱地所の大手町ゲートビルは素晴らしい」と持ち上げ、「農と不動産は相性がいいが、〝若者、バカ者、よそ者〟のほかに地主の存在が大きい」などと話した(さすが不動産出身)。
馬場氏は、人口が約1万人の新潟県田上町の限界集落に近いエリアにある竹林を、サッカー場くらい広いイベント会場に再生した。町おこしの功績が認められ、2024年のグッドデザイン賞を受章している。
鈴木氏は、「身内は右翼系」などと自己紹介し、「農業は儲からないから担い手がいなくなる。しかし、〝かっこいい〟という視点で捉えると、めっちゃ格好いい人がたくさんいる」と語った。ネットで同社を調べたら、社訓は「清く正しく、美しく。」とあった-右翼からの脱皮か、それとも本来の右翼の伝統の承継か。
このほか、会場参加者の中から養鶏場経営者、全島がレモン山という瀬戸内海のレモン生産者、胡蝶蘭の花の香りをブランデーにブレンドした醸造会社、麹やさんなどが紹介された。面白いのは醸造会社で、「開業・開店祝いに店頭を飾る胡蝶蘭は廃棄処分されるが、当社はそれを引き取って酒に変える。〝お返し〟として送り主にまた還元・売りつける」-素晴らしいビジネスモデルを紹介した。ブランデーは参加者に回覧されたが、麹やさんは香りをかぎ一口飲んだ。周囲に甘い香りが広がった。(記者も飲みたかったが、同社広報に断られた)
みなさん、いかがか。これだけで酔いが回ってこないか。50年近く記者をやってきて、1時間強でこんな酔いそうな気分になったのは今回が初めてだ。「食卓会議」はとてつもないことをやってのけるのではないか-そんな予感がする。
「めぐるめくプロジェクト」は、農業・水産業・畜産業を担う地域の生産者や加工者と、都市で暮らす生活者が相互に理解を深め、交流し合うことで、豊かな食や社会をつくるのが目的で、2022年に活動を開始。これまで27の地域で生産者・加工者、自治体などが参加するフィールドツアー、ピッチ交流会を実施し、2026年2月には会員制組織「めぐるめくコミュニティ」を立ち上げ、8月ら完成した「大手町ゲートビルディング」内に、農と食のビジネス・産業支援施設「MINORIWA」を設置した。
施設には、コミュニティ会員の交流や共創のきっかけを生み出すハブとなるラウンジのほか、会員以外も利用可能な本格仕様の厨房設備や、イベント・カンファレンススペースを設置。農と食の垣根を超えた新しいアイディアの創出から実現・発信までを後押していく。FOOD PARTNERは55社・団体に上っている。

吉開氏(左)と神野氏

飯沼氏(左)と馬場氏

鈴木氏

胡蝶蘭の香入りブランディー

「つくる人が続けられる食の未来をつくる。」Field

「めぐるめくコミュニティ」施設の一部
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基調講演で坊垣氏は、ブランディングの大切さを強調した。単なる広告・プロモーションだけでなく、消費者に分かりやすく、また企業・組織全体がそれを認識することが大事だと。
記者もその通りだと思う。一つ、読者の皆さんにも参考になると思われるので、反グローバリズムの〝旗手〟スーザン・ジョージ氏の言葉を紹介する。
同氏は「これは誰の危機か、未来は誰のものか」(岩波書店・荒井雅子訳、2011年刊)の中で「変化には六つの『M』が要る。まず資金(Money)、マネージメント(Management)、メディア(Media)。残りの三つは重要だ。言葉の最も崇高な意味で、使命(Mission)、意欲(Motivation)、神話(Myth)の意識を創り出すこと。『神話』、ギリシャ語『μύθος』は美談や作り話のことではない。私たちを力づけ、やるべきことをやり遂げられると確信させてくれる壮大な物語だ…このすべてを持ち寄ることができれば、未来は開ける」と指摘している。この六つの「M」-Money、Management、Media、Mission、Motivation、Myth-を心に刻むことだと思う。

坊垣氏

オープニング会場

