ついさっき、大京の「武蔵関」のマンションを見学して帰る途中だ。17時20分頃だ。
ふと道端を見ると、定期入れより小さい四角の人工皮革の小銭入れのようなものが落ちていた。瞬時にこの前の、あのスカートの尻の部分にたくし込まれたコインのことが思い出され、と同時に「ほっとけばいいのよ、馬鹿ね」とかみさんに言われたことも頭をよぎり、「拾うか」「ほっとくか」が激しく胸のうちでせめぎあった。
勝負はすぐついた。記者が優柔不断だったばかりに、哀れな運命をたどったに違いないコインの二の舞をさせてはならないという正義感が勝った。
小銭入れは軽く何しろ安物の人工皮革だ。たいしたお金が入っていないことは容易に察せられたが、ひょっとすると命の次に大事な子どものへその緒が入っているやもしれず、あるいはまた親の形見の銀歯か、それとも忘れようと思っても忘れきれない捨てられた彼、または彼女とのツーショットの写真が入っていることだってありうると考え、絶対に交番に届けようと、拾った場所も確認して駅に向かった。
何が幸いするかわからない。そのとき丁度小雨が降っていたので、記者は手が濡れないように拾った小銭入れを缶ビールかお猪口のように右手の親指と人差し指でつまみ、ひらひらとさせながら歩いた。
するとものの1分もしないうちに、こちらに向かってくる、この前の女性とは体形はよく似ている小太り、いやルノワールが描く少女を中年にしたようなふっくらとした女性が「それっ」と小銭入れを指さすではないか。
「えっ」「そこで気が付き、戻るところでした」「そうですか。それはよかった。交番にでも届けようと思っていたところです」「ありがとうございます」
皆さん、取得物はスカートやポケットに入れないで、高く掲げて交番に届けましょう。これが本日の教訓です。もし、小銭入れを記者がポケットに入れていたら、彼女の手に戻ったかどうか。
ちょっと休憩 あの大きな尻に敷かれたコインの運命は果たして(2016/6/20)