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2016/08/04(木) 00:00

東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟

投稿者:  牧田司

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特定建築予定者が提示したイメージ図

 当欄でも紹介したように、東京都は「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会」の選手村の整備と大会後のレガシーとなるまちづくり「晴海五丁目西地区第一種市街 地再開発事業」の特定建築予定者に三井不動産レジデンシャルを代表とする11社を選定したと発表した。総敷地面積は約13.4ヘクタールで、敷地処分価格は12,960百万円だ。

 発表まで気が付かなかったのだが、いつもの癖でこの処分価格約130億円を総敷地面積約13.4haで割って坪単価を算出した。約32万円となった。あまりにもの安さにあ然とした。

 何かの間違いだと思った。それほど立地条件がいいとは言えないが、中央区晴海5丁目の土地が坪32万円などあり得ない。晴海3丁目(商業地)の今年の地価公示は約436万円だ。当該エリアはこの地価公示の10分の1以下だ。坪32万円の土地はもちろん23区にはあるはずもなく、八王子当たりの都下までいかないとない。

 しかも、ここのエリアの容積率は300%、400%、500%に分かれており、平均を400%とすると、容積率100%当たりの1種の坪単価は32万円÷4=8万円だ。マンションの坪単価にすると、20坪で土地代はわずか160万円にしかならない。

 何かの間違いではないかと思い、都の都市整備局に聞いたが「不動産鑑定法に基づき適正に鑑定評価した額」ということだった。

 こうなるともう一歩も先に進めない。自分で調べるしかない。なので、以下は記者が不動産鑑定に関する国土交通省の「不動産鑑定評価基準」や実務書を四苦八苦して読んで導き出した解だ。当否は自分でもわからないことを断っておく。

 国交省「不動産鑑定評価基準」には次のような原則が示されている。

 「不動産の価格は、その不動産の効用が最高度に発揮される可能性に最も富む使用(以下「最有効使用」という。)を前提として把握される価格を標準として形成される。この場合の最有効使用は、現実の社会経済情勢の下で客観的にみて、良識と通常の使用能力を持つ人による合理的かつ合法的な最高最善の使用方法に基づくものである。

 なお、ある不動産についての現実の使用方法は、必ずしも最有効使用に基づいているものではなく、不合理な又は個人的な事情による使用方法のために、当該不動産が十分な効用を発揮していない場合があることに留意すべきである」とある。

 つまり、投機、売り急ぎ、買い進みなど特殊な動機によらない「正常価格」をはじき出すことに心がけた。そして、価格形成に影響を及ぼす自然・社会・経済的な一般要因、地域要因、個別要因などを考えた。

 もっとも重視したのは、地価公示の10分の1しか評価されないのだから、とにかく減価要因を徹底して洗い出すことだった。

 真っ先に考えたのは有効宅地率だ。売却する土地は13haもあるが、道路・公園、その他の公共・公益施設用地の比率は面積が大きくなればなるほど高くなる。当該地は最低でも30%はあると見た。これは明らかに大きな減価要因だ。

 次は市場性と様々な制約、投下資本に対する収益リスクなどだ。分譲、賃借されるのはオリンピックが終了してからだから、今から5年も先だ。5年先の需要と供給の市場性はまったくわからない。不動産鑑定士にもわからないはずだ。このリスクは明らかに減価要因になる。

 立地やオリンピック選手村に利用されることもマイナス要因だ。アクセシリビティについてはいろいろ考えられているが、現況は勝どき駅から徒歩で15分から20分もある。陸の孤島だ。そんな土地に賃貸を合わせ5,650戸の住宅を建設することなど普通のデベロッパーはまず考えない。年間1,000戸を売るとしても6年近くかかる。

 このところの用地・建築費高で晴海エリアのマンションの分譲坪単価は300万円を超えてきている。20坪でも6,000万円だ。完全に第一次取得層の取得限界を超えている。これも大きな減価要因になる。需要と供給の市場原理を考えれば、競争入札になったら手を挙げるデベロッパーは相当の安値でしか入札しない。

 しかも、選手村として機能するように造らなければならない制約も多い。ワンルームなどコンパクトも設けなければならないし、アスリートが利用するのだから天井高は高くしなければならないし、1.8mのサッシ高はまず不可だ。土足で入ることも想定しなければならない。日本人向けに分譲するなら和室の提案が考えられるが、選手村でははたしてどうか。キッチンも選手村なら最低限でいいはずだが、分譲を考慮したらそれなりのスペースは確保しなければならないし、1418の浴室は大きな選手には不評を買うかもしれない…などを考えると、改修費用は相当額にのぼるはずで、これも減価要因になる。

 嫌悪施設も近接している。ばい煙を垂れ流してはいないが、清掃工場がある。津波・液状化の懸念もある。これは防岸工事・液状化対策などで防げるかもしれないが、そのコストは減価要因になる。

 そんなこんなの減価要因は10以上ある。それぞれをマイナス5ポイントとして足し算すると鑑定価格は「正常価格」の半値以下になるし、それぞれマイナスポイントを大きくし掛け算で減点していくと、バブル後の株価のよう「半値8掛け2割引き」のように10分の1以下も妥当な価格に思えてくる。

 とここまで書いてきたのだが、不動産鑑定では価値増分も盛り込むことになっている。これもまた書き出したらきりがない。

 何しろオリンピック・パラリンピックのレガシーにすると謳っているのだから、デベロッパーもゼネコンも威信をかけて最高のものを造るはずだ。土地代がただ同然となればなおさらだ。世界の模範となるような人と環境にやさしいワールドワイドなユニバーサルデザインの街ができるのは間違いない。デベロッパーが提示した完成予想図には翼を広げたようなトライスター型の超高層があるが、これを施工するゼネコンも見えてくる。

 これは記者の提案だが、オリンピック・パラリンピックに出場する選手の手形、足形、サインなどを「〇〇選手が利用した住戸」などと銘板にして玄関に貼れば、爆発的な申し込みが期待できる。世界的な著名な金メダリストのものならオークションにかければ、世界から購入申し込みが殺到する。

 このあたりでよすが、都の売却額がこれほど安くなれば、分譲価格は間違いなく〝格安〟になる。5年後の市場価格は分からないが、この「東京2020オリンピック・パラリンピック レガシー」マンションは坪300万円を超えることはないと読んだ。アッパーで坪250万円くらいではないか。あの最高378倍、平均17.65倍で即日完売した都の定期借地権付きマンション住友不動産「シティタワー品川」の再現もありそうだ。「5年転売禁止」の特約もつきそうだ。

2020東京オリンピック・パラリンピックの特定建築予定者に三井不レジなど11社(2016/7/30)

住友不動産「シティタワー品川」最高378倍、平均17.65倍で即日完売(2008/9/8)

 

 

 

 

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