雑誌「財界」を発行する財界研究所(村田博文社長兼主幹)は1月19日、各界から約1,000名を集め、今回が62回目となる恒例の平成29年度「財界賞」「経営者賞」の贈呈式を行った。「財界賞」を受賞した榊原定征氏(経団連会長)、「財界特別賞」に選ばれた金丸恭文氏(フューチャー会長兼社長グループCEO)、「経営者賞」に選定された矢野龍氏(住友林業会長)、後藤高志氏(西武ホールディングス社長)、本庄八郎氏(伊藤園会長)、藤田晋氏(サイバーエージェント社長)、巌浩氏(EPSホールディングス会長)がそれぞれ登壇、喜びを語った。
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贈呈式の招待状が届いた1カ月前からこの日を心待ちにしていた。その時点で受賞者の名前は決まっており、錚々たるメンバーのなかに住友林業の矢野龍会長の名前があったからだ。
記者は矢野氏と大和ハウス工業会長兼CEO・樋口武男氏、積水ハウス会長兼CEO・和田勇氏の3氏をハウスメーカーの〝雄弁御三家〟と呼ぶ。
年齢が樋口氏が79歳、矢野氏が77歳、和田氏が76歳と近く、しかも樋口氏と和田氏は関西学院大の同窓で誕生日が同じ4月29日(矢野氏は九州大卒)。そして何より3人を御三家たらしめるのは、イリオモテヤマネコと同様、絶滅危惧種の関西弁(大阪弁なのか)を不倶戴天の東京で堂々としゃべるからだ。
あの人を小ばかにした“毒”をたっぷり含んだ関西弁・大阪弁でまくしたてられると、気の弱い記者などはもう笑うしかなく腰抜け状態になる(記者も「首都圏」の意味がある「近畿」の三重県出身だが、伊勢の「な言葉」はすっかり忘れてしまった。なお「絶滅危惧種」「近畿」については国際日本文化研究センター教授・井上章一氏の著作を参考にしました。大阪弁を「絶滅危惧種」とわたしが言っているのではありません)。
それでも、怖いもの見たさも手伝って3氏が出席する会見は必ず出席することにしている。今年も樋口氏と和田氏の関西弁を聞くことができたのだが、矢野氏には、2年前に木住協会長を退任されたとき以来お会いしていなかった。その矢野氏にお会いできる僥倖に歓喜した。
2年前と同じ元気な姿で登壇した矢野氏は「このような賞は小学生のとき、運動会で一等賞を貰って以来。わたしのキャリアは中途半端でしかないが、当社の創業者・住友政友の『天下国家、社会、国民のためになる事業であるべき』という住友精神を愚直に守ってきた。人類がこれから1000年、1万年生きていくために地球上で唯一の再生可能エネルギーの森林・林業の伝道師として今後も頑張っていく」と語った。
降壇した矢野氏に「木住協会長を退任したときの名演説『time flies like an arrow 光陰“矢野”如し』と同じように、今回の受賞を英語で語るとどうなるか」と聞いた。すかさず矢野氏は「Time and tide wait for no man 歳月人を待たず」と呵々大笑し、すらすらとサインした(英語を理解できない記者は「tide」を「tired」と勘違いし〝矢野さんも時とともに疲れるのか〟と訳した)。
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受賞者のコメントは必至でメモしたが、正確な受賞の喜びは2018年1月2日付「財界」新年特大号に詳しい。選考経過、選考所感も掲載されている。ここでは榊原氏と後藤氏に留める。
榊原氏は、「村田主幹は19分話したのに私が与えられたコメントは1分だけ」と会場を笑わせた後、経団連会長としての3年5カ月を振り返り「2017年のGDPは540兆円を超え、この5年間で50兆円積みあがった。税収も増え、雇用の改善、企業収益の改善などもあり、経済は新たなステージに入った。デフレ脱却を宣言する年にしなければならない。そのために賃上げもしっかりやっていく」とコメントした。
村田主幹は冒頭、榊原氏を選考した理由を語り、「政治乱調、経済好調の表裏一体の緊張感がみなぎっているときに〝政治と経済は車の両輪〟を掲げ、デフレ脱却へ向けて頑張ってこられた」と讃え、他の受賞者に対してもたっぷり時間を取って話した。その時間を19分と数えていた榊原氏はただ者ではないし、村田主幹の話も参加者を飽きさせない迫力があった。
後藤氏は、「今回の受賞はわたし個人ではなく、13年間一緒に働いてきたグループ職員、お客様、株主などすべてのステークホルダーに対してだと考えている」と語り、「これからは日本最強の生活応援企業として観光大国のトップランナーを目指す」と力を込めた。
記者はもう60年来の西鉄・西武ファンだ。2004年に発覚した総会屋利益供与事件、証券取引法違反事件を受けて堤義明氏が退陣し、2005年に後藤氏が社長に就任したのだが、その後一連のリストラ、事業再編、上場廃止、訴訟、外資サーベラスの敵対的TOBなどを見聞して、ライオンズも身売り必至とみていた。
しかし、後藤氏は見捨てなかった。昨年は久々に2位になり、観客数も過去最多の167万人を記録した。
後藤社長は「今年の西武は優勝しかないですよね」の記者の挑発に「そう、優勝するぞ」と受けて立った。
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一通り取材を終えた宴もたけなわのころ、記者の好きなビバルディの「四季」の生演奏が始まったのだが、ビバルディ本人が聴いたら卒倒しそうな、まるで軍艦マーチのように編曲(変曲)されていた。
近くにいた音楽に詳しそうなきれいな女性によると、「20年前くらい流行した女性グループのbondと同じ。クラシックをこのようにアレンジするのも素敵」とのことだった。もらった資料には「実力派DJと、美人すぎるプロの音楽家たちによる奇跡のユニット…サウンド東京」とあった。
贈呈式には「2018年ミス・インターナショナル」日本代表の東京大学に在学知友の杉本雛乃さんが各受賞者に花束を贈った。杉本さんは今年11月9日に行われる世界大会に出場する。受賞者の巌氏は「11月9日は私の誕生日。なににも代えがたいプレゼント」と話した(受賞のことか、杉本さんに花束をもらったことに対してかは不明)。
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