RBA OFFICIAL
 
2019/03/11(月) 09:38

サ高住は老人福祉法の「施設」の受け皿・代替えになるか 国交省・懇談会

投稿者:  牧田司

 国土交通省は3月8日、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の今後の取り組みについて助言を得る第2回懇談会(座長:髙橋紘士・高齢者住宅財団顧問・東京通信大学教授)を開催。サ高住の現状や多様性に関する調査報告、主な課題と対応などについて活発な論議を行った。

 懇談会の冒頭、髙橋座長は「サ高住に対する関心は高まっているが、(老人福祉法に基づく)『施設』として捉えられている」と不満を示し、「サ高住は〝腕〟が期待されている。よさをどう発信していくかが問われる」などと各委員に呼び掛けた。

 高齢者住宅協会がまとめた「多様性に関する調査報告」に対しては「極めて示唆的な調査」と評価した。

◇       ◆     ◇

 記者が注目したのは、五郎丸徹委員(サービス付き高齢者向け住宅協議会理事・学研ココファン社長)がサ高住の多様性に関し、オプションの一つとして「サ高住が特養などの施設の受け皿になってもいい」と発言したことだ。サ高住と施設の垣根が取り払われたらどうなるのか-五郎丸氏は鋭い問題提起を行った。

 髙橋氏も指摘したように、特養などの高齢者向け施設とサ高住はそれぞれ法律によって厳然と区分け・峻別されていると記者は考えてきた。「施設」の文言も、特養などの施設について定めた「老人福祉法」には86カ所、サ高住について定めた「高齢者の居住の安定確保に関する法律」には2カ所にしか用いられていないことからも明らかだ。前者の「施設」は施設そのものを規定するものとして、後者のそれはサ高住と区別する文脈の中で用いられている。

 しかし、サ高住や民間の介護付き有料老人ホームが施設の「受け皿」になっている現実は否定できない。これまでの調査でもその差異を明確にできていない。

 懇談会の座長を務める髙橋氏を委員長とする「平成26年3月有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅に関する実態調査」もその一つだ。

 アンケート回収は1,034件(回収率:36.0%)だったことから、髙橋氏は「残念ながら、調査にご協力いただけなかったホーム、住宅も少なくなかったので全貌を示したというには憚られることもないわけではない…」「正確な実態把握のための環境が早急に整うことを期待したい」と述べている。忸怩たる思いが伝わってくる。

 記者も事業者から「サ高住は玉石混交の世界。『見守り』などあってないようなもの」と聞いており、未回収の64%のサ高住がどのようになっているのか気掛かりだし、明らかにしなければならない。

 気掛かりと言えば、サ高住とも密接に関連している住宅セーフネット制度もそうだ。平成29年10月に施行されたこの制度は平成31年3月現在、登録住戸は受付・審査中も含め10,367戸ある。うち大阪府が51.9%に当たる5,377戸で、東京都は289戸だ。大阪府が突出して多いのは、府は高齢単身者世帯の所得は200万円未満が64.5%と高く、65歳以上の単身世帯の88.5%は居住面積29㎡以下という現状を深刻に受け止め、事業者の申請条件を緩和し、手続きの代行を行っているからだと言われている。

 そのことの是非はともかく、記者は東京都の事例について調べたことがある。バスもトイレもないわずか7㎡(2.1坪、4.2畳)でも、家賃は都心の億ション並といえる坪2万円を超えるものが少なくなかった。審査は書類のみだった。このままでは〝貧困ビジネス〟につながるのではないかと背筋が寒くなった。

 髙橋座長や各委員に「バスもトイレもない7㎡」の部屋を「住宅」と呼べるのか、入居を拒否されないためには億ション並の家賃を払わないといけないのか、現地を調査しないで審査が通っていいのかと聞きたい。

 今回の調査報告にも見逃せないものがあった。「サ高住」の利用者の従前の居住形態は持ち家が8割なのに対し、賃貸が2割というデータだ。これは持ち家と賃貸の全国比率約6:4(東京都の持ち家比率は46%)と大きく異なる。

 しかも、居室面積が25㎡以下は全登録件数約23.5万戸のうち実に77.8%、約18.3万戸を占め、約15万戸は台所・浴室がないことだ。

 これら25㎡未満の台所・浴室もないタイプに住む居住者の平均年齢は84.1歳で、要介護1、2の人45.8%と要介護3~5の人38.1%と合わせ83%に上る。

 これらのデータからすると、圧倒的多数の賃貸居住者には多様な選択肢はあるのかという問題が浮かび上がる。さらにまた、平均余命からしてサ高住居住者はこの先6~10年間の間、中身がよく分からない〝サービス〟(見守り・その他)を受けながら看取られるのか、それとも施設に転居するのか、約4割と言われる認知症を発症している人の尊厳、家族の負担はどうなるのか…。

 さて、サ高住と施設の垣根を取っ払ったらどうなるか。水が高いところから低いところへ流れるように、サ高住は施設化し、施設もまたどんどん質は低下し、双方が錐もみ状態となって深い地底に沈んでいくことにはならないか。

 これらに対し、園田眞理子委員(明大理工学部建築学科専任教授)は、「サ高住の従前の住まいは持家8割、借家2割ということに経済格差が内包されている。セーフティネット住宅も含めしっかり仕分けして考えるべき。サ高住の前(自宅は空き家になる)と後ろ(戻るところがあるのか)を同時に考えないといけない」などと指摘した。

 問題はそれだけではない。吉村直子委員(長谷工総合研究所主席研究員)は、「事業者サイドから考えると(職員などの)人手不足は課題というより深刻な問題。みんな危機感を持っている。さらに、老人ホームの一時金方式は2021年から全額を初期償却できなくなる。一括償却して自転車操業的なやりくりしているところは相当の打撃を受ける」と注意を喚起した。

 これも記者はよくわかる。記者は20年くらい前だったか、取材目的で特養と民間有料老人ホームに体験宿泊したことがある。老人ホームの食事はコンビニ・ケータリングとほとんど同じだった。

 特養の施設は億ション並に立派だったが、食事はのどを通らなかった(まずいというのではない。経験しないと分かってもらえない)。娯楽の時間に認知症の人から1時間くらい戦争のことなど同じことを聞かされた。無視することもできず、自分が痴呆を演じるしかなかった。夜は個室を与えられたが、奇声を上げる人は少なくなく一睡もできなかった。もちろん酒はダメ。家に帰って半日寝込んだ。

 それより職員から「オンとオフの切り替えができない職員は精神病にかかる」と言われたことにショックを受けた。サ高住も施設も「認知症」「死」は日常だ。職員の側からもアプローチしないといけない。精神疾患などで労災の認定を受ける職員が急増していると報じられている。

◇       ◆     ◇

 国交省と懇談会には「健康で文化的な最低限度の生活を営める」サ高住の方向性を示してほしい。〝地獄の沙汰も金次第〟と言ってしまえば身もふたもない。

億ション以上 現地見ずに家賃判断 審査は適正か セーフティネット住宅登録制度(2018/11/9)

課題山積〝玉石混交〟市場に百家争鳴 サ高住に関する国交省・有識者懇談会(2018/2/3)

 

rbay_ayumi.gif

 

ログイン

アカウントでログイン

ユーザ名 *
パスワード *
自動ログイン