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2019/05/18(土) 11:20

「官民癒着」と原告 「誹謗中傷」と被告応酬 第6回 選手村住民訴訟 口頭弁論

投稿者:  牧田司

 東京都が晴海オリンピック選手村用地を民間事業者に約130億円で売却したのは不当とし、妥当額との差額1,200億円を支払うよう不動産会社11社に請求せよと住民らが小池百合子都知事を訴えた住民訴訟の第6回口頭弁論が5月16日、東京地裁で行われた。

 原告の代理弁護士は、桝本行男不動産鑑定士による不動産鑑定書はオリンピックの特殊要因を考慮していないという被告側の批判に応える形で、開発法による鑑定評価でも鑑定価格の9割程度の約1,529億円が「適正な価格」であるとし、デベロッパーに約130億円で売却したのは「官民癒着」であると被告を批判した。

 これに対して被告代理弁護士は、原告が今回新たに開発法を採用して鑑定価格を算定したのは従来の主張と矛盾しており、論理が破綻しているとし、何ら証拠を示さず「官民癒着」などと難詰するのは「善意の第三者」であるデベロッパーの名誉を棄損するものと原告を批判した。

 次回は9月13日(金)に決まった。

◇       ◆     ◇

 記者は法廷小説が好きで、スコット・トゥローの「推定無罪」やジョン・グリシャム、バリー・リードなどをよく読んだ。映画でも弁護士の感動的な名演説を何度も観た。

 今回の裁判も原告、被告双方の知的で丁々発止の〝ゲーム〟を期待していたのだが、前回同様、期待は裏切られた(民事訴訟はそのようなやり取りはないようだ)。原告が「不正な官民癒着」「官製談合だ」と批判すれば、被告も「名誉棄損」「誹謗中傷だ」と応酬しただけだった。

 サッカー場でもボクシング会場でないのも分かるが、52もの傍聴席が満席になるほど多くの〝観客〟がいるのだから、もっと分かりやすい論陣を張っていただきたい。

◇       ◆     ◇

 以下に、原告側が配布した口頭意見陳述要旨を紹介する。(被告側にもお願いしたのだが断られた)

 第1 不動産価格に関する争点について

 1 本件不動産価格の争点は、「当該敷地についてのカ価格決定を、取引事例比較法と開発法のいずれの手法によるべきか」という価格決定の手法を巡るものではありません。

 本件土地は、東京都の財産ですから、果たしてこれを「適正な価格」で譲渡したといえるかどうかが争点です。

 「適正な価格」とは、地方自治法や、東京都価格審議条例では「時価」を基準に判断され、都市再開発法による場合でも、「近傍同種の土地の取引価格」を考慮して定める相当額とするのが原則です(都市再開発法80条)。

 2 東京都は甲6号証の調査報告書で、開発法という手法のみで、129億6000万円という金額を決定しており、不動産鑑定基準による鑑定評価は出していません。不動産鑑定基準では、開発法による計算をする場合でも不動産鑑定基準による鑑定価格を示すべきと定めており、東京都はこれに違反しています。東京都は、第3準備書面で、本件敷地は、「不動産価格調査ガイドライン」の取り扱いに関する実務指針を元に、本件が「鑑定評価基準に則ることができない場合」であることを、延々と述べています。

 原告は、準備書面(5)では、その点を詳細に反論しました。

 3 本件土地の鑑定価格

 本件土地についても不動産鑑定基準による鑑定価格の算出は可能です。周辺には取引事例も十分にあり、公示価格も出ている地域です。詳細な鑑定作業の結果、原告は不動産鑑定書(甲68号証)のとおり、1,611億1,800万円と主張しました。

 4 原告の「オリンピック要因反映価格」の主張

 (1) 原告は「日本不動産研究所に提出した資料リスト」を情報開示して検討し(甲79号証)、「調査報告書」(乙32号証)も検討して、被告の主張するオリンピック要因を反映させたうえで、「適正な価格」を算出しました。

 原告も、本件敷地の譲渡契約の時期から、分譲マンションの売却時期までが、長期間に及ぶことについては、被告と同じく開発法で計算しました。また、乙32号証には、建築工事費が高額すぎること、販売価格の想定が相場から見て、低すぎるという問題点があることも指摘しました。

 (2) さらに、本件の場合、「開発法によって算定した数字」をそのまま、本件土地の譲渡価格とすることが、根本的な誤りであることを主張しました。

 そもそも、開発法によって導き出された土地代金は、契約時に全額支払う(資本投下されている)ことが前提で計算する手法です。

ところが、譲渡契約書(甲12号証)では、特定建築者は、土地価格の10%だけを契約時に保証金として支払い、90%は建物竣工時以降に支払う約定です。

 ですから、開発法によって算出された価格をそのまま、本件のケースの土地価格とするのは、資本投下していない代金を、あたかも投下したように計算するというカラクリがあるのです。

 (3) そこで、原告は、この支払い方法を価格に反映させて計算する作業を行いました。

 その結果の金額は、総額1,529億1,800万円となりました。

 すなわち、被告の主張するオリンピック要因を反映させたとしても、鑑定価格の約9割程度が「適正な価格」なのです。

 被告の主張する129億6,000万円という鑑定価格の1割以下の価格は、異常な廉価であり、到底「適正な価格」とは言えないことは、明白です。

 (以下、略)

◇       ◆     ◇

 以前から気になっていたのだが、選手村用地を鑑定評価した日本不動産研究所の「調査報告書」は「鑑定評価報告書」ではない可能性が高いことが分かった。

 国土交通省「不動産鑑定評価基準」によると、「鑑定評価報告書は、鑑定評価書を通じて依頼者のみならず第三者に対しても影響を及ぼすものであり、さらには不動産の適正な価格の形成の基礎となるものであるから、その作成に当たっては、誤解の生ずる余地を与えないよう留意するとともに、特に鑑定評価額の決定の理由については、依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない。特に、特定価格を求めた場合には法令等による社会的要請の根拠、また、特殊価格を求めた場合には文化財の指定の事実等を明らかにしなければならない」とある。

 東京都が「鑑定評価基準に則ることができない場合」としているのは、「依頼者のみならず第三者に対して十分に説明し得るものとするように努めなければならない」ことを回避するためなのかという疑問が浮かび上がる。

 しかし、そうだとしても、2016年5月1日付で改正された「価格等調査ガイドライン」では、「従来『やむを得ず鑑定評価基準に則ることができない場合』とされていた価格等調査のほとんどが鑑定評価基準に則った鑑定評価で対応可能となるため、『やむを得ず鑑定評価基準に則ることができない価格等調査』の規定を削除」(日本不動産鑑定士協会連合会)としているように、都は都民に対して十分な説明をする義務があるはずだ。

 さらにまた、日本不動産鑑定士協会連合会が「不動産鑑定評価基準に則らない価格等調査においても、不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示していれば、鑑定法上の鑑定評価業務に当たると考えられます」としているように、「調査報告書」は単に〝聞き置く〟だけも可能な「不動産価格意見書」ではないと理解される。

 裁判の行方はどうなるか分からないが、鑑定手法次第では地価公示の10分の1以下の鑑定評価も可能ということが明らかになった。どちらが敗訴しても、不動産鑑定士の鑑定評価が罪に問われることはないと見た。

 記者は2008年、「かんぽの宿」が今回の選手村とほとんど同額の126億円と評価され、オリックスに109億円で売却された(その後、鳩山総務相の〝待った〟で契約は解除され、不動産鑑定士も処分された)ことを思い出す。日本不動産鑑定士協会連合会は今年もまた〝クライアント(依頼者)・プレッシャー〟なるアンケート調査を行っている。

◇      ◆     ◇

 原告が開発法により算出した鑑定価格約1,529億円について。これだと分譲単価は坪300万円を超える可能性が高い。記者は都民が安く買える〝レガシーマンション〟にするためにも特定価格としてもっと低くすべきだと考える。「晴海・正す会」の会報でも「(HARUMI FLAG」は)一般庶民には手が届きそうにありません」とあるではないか。

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