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2019/02/20(水) 12:52

オリンピック選手村住民訴訟も佳境に 原告、被告双方 相手を「著しく」非難

投稿者:  牧田司

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閉廷後の原告側の記者会見 左から4人目が淵脇氏(司法記者クラブで)

 東京都が晴海オリンピック選手村用地を民間事業者に約130億円で売却したのは不当とし、小池百合子都知事に対し妥当額との差額1,200億円を支払うよう不動産会社11社に請求せよという民事訴訟の第5回審理が2月19日、東京地裁で行われた。

 被告側弁護士が、原告側を「全てがありもしないでっち上げ」などと攻撃すれば、原告弁護士・淵脇みどり氏は「被告(小池都知事)は早く火消しをしたいと言わんばかり。われわれはあせって早期に終わらせるつもりはない。傍聴席も満席になり、都民の関心は高まるばかり。都の姿勢を追及していく」と語った。「HARUMI FLAG」の分譲を前にして、こちらのバトルも佳境に入っている。

◇       ◆     ◇

 都民ら58名による監査請求が棄却されたのを受け、33名が東京地裁に提訴したのが今回の事案。都が売却したとき書いた記事「東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟」は間違っていないと今でも思っているが、その売却価格をめぐって争われている「事件」の顛末を見届けようと傍聴することにした。用意された傍聴席52席は入りきれない人も出るほどの〝盛況〟だった。

 原告側でも被告側でも敵でも味方でもないないニュートラルの記者は一瞬たじろいだ。高齢の方が圧倒的に多いのと、ネクタイを締めているのは記者と被告側の弁護士くらいしかいなかったからだ。場違いなところに入り込んでしまったように感じた。国立裁判で一貫して明和地所側についていたときとはまた違った緊張感がある。どちらの側からも胡乱な目で睨め付けられているようでいい気分はしなかった。「愛」のかけらもない相手をやり込める裁判は苦手だ。

◇       ◆     ◇

 ここからが肝心な部分。原告側から以下の通り意見陳述書が提出された。やや長いがほぼ全文を紹介する。

 1(1)原告らは前回、本件土地の価格について主張する準備書面3を提出し、桝本行男不動産鑑定士による不動産鑑定書を証拠として提出しました。

 前回期日、被告は意見陳述で原告提出の不動産鑑定について原告である不動産鑑定士が行っていることについて客観的な独立した第三者である不動産鑑定士でないとして問題にし、手続の中立性を欠くとまで言い、自らは外部委員を含ませた保留床処分委員会に日本不動産研究所の調査結果を審査してもらっていると述べています。

 (2)しかし、桝本鑑定士は、原告ではありますが、原告であるから鑑定が客観的でない、正当でないということは言えません。

 桝本鑑定士は、長年鑑定士実務に従事した経験があり、法令等に従い、誠実に鑑定を行っています。従って、その鑑定は客観的、正当なものです。

 (中略)

 (3)なお、被告が価格の正当性の根拠としてあげている保留床等処分委員会における審理は、原告らが今回提出した準備書面4で述べているとおり、正当性の根拠とはなりえません。

 なぜなら、同委員会の構成員10名のうち、6名は東京都の都市整備局次長など被告の職員であり、出席委員の過半数が被告東京都の職員でした。さらに委員会の開催時間は1時間で、その間に会長の互選、副会長の指名、定足数の確認、議案の説明がありますから、審議時間は1時間にもみたないものです。さらに、審議内容についても日本不動産研究所の調査報告書に関する説明も詳細、具体的なものであったとは考えられません。さらに、時価公示等は後日事務局で確認とされ、委員会開催の時には明らかにされていませんでした。時価公示等は価格を判断する際に最も重要な資料となりうるものですが、これが委員会の際には資料すら明らかにされていなかったのです。(中略)

 このように、保留床等処分委員会の審理を「手続の中立性」や本件土地の価格の正当性の根拠とすることは出来ません。

 2(中略)被告の主張によれば、本件は正式な鑑定による価格の判断が出来ない場合であり、価格の唯一の根拠は日本不動産研究所の作成の調査報告書及び今回提出された価格等調査報告書に係る補足意見書ということです。

 そうであるならば、その根拠となる調査報告書は早期に黒塗り部分をなくし全面的に明らかにするよう再度求めます。

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 (1)と(2)は不動産鑑定士とは何ぞやという問題だ。原告側の言うとおりであれば、被告はやや勇み足でないか。不動産鑑定士法には「不動産鑑定士は良心に従い、誠実に鑑定評価等を行うとともに、不動産鑑定士の信用を傷つけるような行為をしてならない」(第5条)「故意に、不当な不動産の鑑定評価を行なつたときは、懲戒処分」(第40条)」とある。

 被告側弁護士の「でっちあげ」発言は、桝本氏の鑑定評価に対してではないようだが、記者が桝本氏なら、名誉棄損で被告側弁護士を訴えるがどうだろう。

 だが、しかし、弁護士は白を黒に、黒を白に言いくるめる商売と考えているのと同様、不動産鑑定士もまた依頼者が希望する鑑定を行っているとしか思えない。どっちもどっちだ。

 (3)は、保留床等処分委員会の審理のあり方の問題だ。原告の主張する通りだとすれば、問題(注)だと思うが、委員会に都の職員を入れてはいけないという規則はないはずで、手続きに瑕疵はないのではないか。委員を誰にするかも都知事が決めるのだろう。

 論議時間も問題にならない。シャンシャンだろうが、喧々囂々の末の結論だろうが、正当な手続きを踏んだ結果であれば問題はないはずだ。よほど重大な証拠をつかめば別だが、原告が手続きの瑕疵を見つけるのはむずかしいのではないか。

 (注)「保留床等処分委員会における審査は、学識経験者を中心に客観的な視点や専門的な知見に基づき、算定の前提条件となる投下資本収益率や、分譲事業の長期化に伴う減価率など、詳細な項目・数値について、質疑応答や議論が交わされた」(住民監査請求(その2)監査結果)とある。

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 被告弁護士は、①原告側不動産鑑定士は第三者として具体的説明を行っていない②鑑定報告書などの情報開示は条例に反することなので出来ない③選手村要因の情報…すべてがありもしないでっち上げ④桝本不動産鑑定士は選手村要因を算出できたはずなのにしなかった-などと意見を述べた。

 弁護士は「選手村ヨウイン」を何回となく発言した。これが全然理解できなかった。「ヨウ」も「イン」も語尾を下げられたので「用務員」かと思ったが、そんなはずはないと必死で考えているうちに陳述は終わってしまった。

 これだけはきちんと確認しようと、弁護士に意味を聞いたら「要因」だった。弁護士先生、発音はしっかりしていただきたい。中国の四音ほどではないが、日本語だって語尾を上げたり下げたりして同音異義語の意味を正確に伝えようとする。「橋と箸と端」「灰と肺」などだ。「要因」は要の語尾を上げて(あるいは平板)発音するのではないか。

 公平を図るため、弁護士に読み上げた文書のコピーを頂けないかとお願いした。「検討する」とのことだったので、届いたら紹介する。

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 どう考えても理解できないこともあった。原告側は「(不動産鑑定士が調査した)調査報告書は鑑定評価書ではない」と言っていることだ。

 これはあり得ない。仮に報告書が鑑定書でないとすれば、鑑定価格は法律に基づかない、ただの意見に過ぎない。その意見を聞こうが聞くまいが、その判断は保留床等処分委員会=都知事に委ねられることになる。そんなことがありうるのか。

 そうであれば、不動産鑑定士は「守秘義務」というアメリカの国境の壁のような強固なガードに守られているわけだから、鑑定の信ぴょう性、公平性は闇の中に葬られてしまう。

◇       ◆     ◇

 裁判の構図が面白い。裁判官は女性の方で声は穏やかで美しかった。記者は目も悪いので、顔立ちなどはよくわからず、何を考えているかも全く分からなかった。

 原告側弁護士ハ女性が中心で、淵脇氏は饒舌、多弁家だ。記者が「弁護士は黒を白に、白を黒に言いくるめる商売ではないか」と挑発したら、すぐ「異議あり」と返された。「鑑定業界にはクライアントプレッシャーなる業界用語があるが」と聞いたらご存じないようだった。「相手はよく考えている。上手」とつぶやいた。

 被告側は全てが男性。10人くらい集まったか。メタボもいたが、屈強なマッチョが目立った。みんな濃紺のスーツで怖い印象も受けた。女性1人くらい加えたらどうか。傍聴人の印象も変わるはず。

 「特定建築者募集要領」には、「敷地譲渡契約締結後…特定建築者が応募時に提案した資金計画に比べ著しく収益増となることが明らかとなった場合は、敷地譲渡金額について協議するものとします」とあり、いったい「著しく」とはどの程度か興味があるのだが、双方の弁護士は相手を「著しく」非難した。

 一つ言い忘れた。原告側が配布したパンフレットには「晴海オリンピック選手村建設めぐる怪!!」とあった。これは記者の記事とは全く関係がございません。早く「怪」と書いたのは記者のはず。

 次回審理は5月16日(木)。争点は、手続きの成否から価格の妥当性に移りそうだ。

東京2020オリ・パラ選手村 敷地売却価格は地価公示の10分の1以下の〝怪〟(2016/8/4)

聞きたいことは不明 オリ・パラ選手村の街の名称「HARUMI FLAG」来春分譲(2018/10/31)

週刊住宅も住宅新報も〝中身なし〟 選手村「HARUMI FLAG」の記事に失望(2018/11/5)

 

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