あ然、呆然、驚天動地-いかなる言葉でもってしても形容しがたい、もう絶句するしかない、あきれ果ててものも言えない(だから書くのだが)記事がわが業界紙の「週刊住宅」6月17日号に掲載された。8ページ建ての最終面(つまり裏表紙)の書籍紹介コーナートップに、競合紙の「住宅新報」の元編集長で顧問でもある本多信博氏の書籍「認知症にならない暮らし方 百歳住宅」(プラチナ出版社)のおためごかし※の紹介文だけならまだしも、何と全6段の4分の3くらいのスペースを割いて、本人のインタビュー記事を紹介しているのだ。
インタビーで語っている本多氏の発言も聞き捨てならない内容が含まれているのだが、これは後述するとして、よりにもよってお互いライバルと言ってよい業界紙が一方の元編集長・顧問が書いた本をインタビュー付きで、しかも題字下で紹介するなど常識的には考えられないことだ。さらにまた、住宅新報も本多氏も相手を〝格下〟と考えているのかもしれないが、そんな企画記事に無分別にも乗るなんて、狂っているとしか言いようがない。双方が痴呆状態に陥っているのではないか。
例えは適当でないかもしれないが、朝日新聞が読売新聞を、あるいはその逆をヨイショするようなもので、これはもうメディアの自殺行為だ。かつて、東急不動産の金指潔会長が「このままでは生き残れない業界紙」と苦言を呈したのを忘れたか。
こんな紙面を見ると、何だか負け犬がお互いの傷をなめあっている絵図そのものに思えてきて実に不愉快だ。ひょっとしたら両紙は持ちつ持たれつの兄弟紙か。そういえば、住宅新報の元編集長は現在、週刊住宅の記者として記事を書いている。私事だが、小生は同業の記者にはほとんどお友達がいないし、言葉もあまり交わさない。
※おためごかしとは、他人(ここでは本多氏)を持ち上げているように見せかけて実は自分(週刊住宅)の利益をもくろんでいるという意味。そのわけは、プラチナ出版は週刊住宅が破綻したあとに同社の社員らが2017年5月に立ち上げた会社であることからもこの言葉がぴったり。
◇ ◆ ◇
「聞き捨てならない」と書いたのは次の部分だ。
本多氏は、「住まいは生活習慣病の源」と持論を述べた後、「認知症を患いづらい住まいとは」という週刊住宅の記者の質問に対して「1年を通じて四季を感じられる住まいである…脳を活発に動かせる環境づくりが重要…その意味からマンションより戸建住宅のほうが認知症になりづらい家作りを実践しやすいと思っている」「認知症になりやすいのは独り暮らし」などと語っている。
さらにまた、積水化学の住宅カンパニーの「認知症の早期発見、重症化予防プロジェクト」を紹介し、「住友林業や東急不動産、東京建物などが高齢者向けの住まいに先導的に取り組んでいる」とも述べている。
「住まいは生活習慣病の源」なのかどうかはよくわからないが、小生の糖尿病は住まいと関係ない。言うまでもないことだが、食生活に問題がある。飲酒によって何かの病気を発症したとしても、やはり住まいとは関係ないはずだ。ただ、劣悪な住環境が生活習慣病を発症する要因になるかもしれないことについては否定しない。
しかし、認知症と住まいを関係づけるのは暴論だ。本人も話しているように認知症発症メカニズムは解明されていない。つまり、分からないのだ。分かっていないことについて勝手にしゃべるのもまた自由で、だからこそそう話しているのだろうが、マンションや戸建てを中心に約40年間取材している小生は承服しかねる。
「マンションより戸建てのほうが認知症になりづらい」とか「認知症になりやすいのは独り暮らし」などと、専門家の疫学的な調査研究を根拠に、したり顔で話すのはやめたほうがいい。
貴殿が「家庭内における役割分担と決まりごとに対する郷愁がシェアハウスの台頭の陰にある」(やや意味不明)と絶賛するシェアハウスはマンション形式が絶対的に多いはずで、だとすればシェアハウスは認知症の巣窟・予備軍にならないのか。圧倒的に独り暮らしが多いサ高住もまた認知症患者を発生させる「先導的役割」を果たすことになりはしないか。認知症発症率はマンションが少ない地方のほうが高いという研究も報告されている。
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